闇に月は融けて

カテゴリ:闇に月は融けて の記事一覧

闇に月は融けて 1

はじめるまえに……

 お待たせしました?
 ゆっくりと更新し始めようかと思います
 久市さんと正木さんのお話です

 書きたい気持ちをまたもや抑えられず
 自分の首をぐいぐい絞めておりますw

 それでは、
 お付き合いくださる皆様
 
 
 よろしくおねがいしまーす!! m(_ _)m




 イライラしながらオレは部署内の出入り口を窺っていた。
 電話を入れて、こっちに来ると伝えられてからすでに数十分が経過している。
 彼の部署はこの部屋の一つ下で、そんなに時間がかからないはずなのに、待たせすぎなのだ。大体彼はいい加減すぎる……。
 深いため息を一つついて、張り詰める気持ちを落ち着かせた。

 オレが待っている相手は、営業部の正木 和也(まさき かずや)。実のところ彼の事が大の苦手だ。
 彼の噂はそこら中に広まっていて、知らない社員はいない程じゃないかと思う。外見は申し分ないのに軽くて強引。そして略奪愛の常習犯。今までに何組ものカップルが彼の手によって引き裂かれた……なんて囁かれているけれど、実際にその被害を受けた例は見たことがない。当の本人たちも知られたくないからひた隠しにしているのだろう。
 けれどオレが苦手意識を持つ理由は、彼のそう言うところじゃない。
 そう、彼のプライベートなことになど興味はないと言ってもいい。
 許せないのは、彼の根本的なところなのだ。
 杜撰でいい加減な性格、それらを隠そうともしない図太い神経。それらを『豪気だ』なんて高く評価する人もいるけれど、オレはそうは思っていなかった。
 好きか嫌いかとで判断すれば、確実に嫌いなタイプの人間であることは間違いない。

 ようやく現れた正木の姿を入口に見つけて、オレはもう一度深くため息をついた。

「久市さん、すみません。お待たせしちゃって……」

 相変わらずへらへらした態度に神経が逆撫でされたように苛つきを感じてしまう。

「いつもの事ですから、気になんてしていませんよ」

 本当はすごくイライラしさせられていたけれど、あからさまにそれらを表すのは気に入らなくて、あえて冷たく嫌味に聞こえるように返答した。
 彼の態度を見ていればなんとなくわかる。
 正木もオレの事が苦手なのだろう……と。だから早く仕事の話を終えてしまいたかった。

「まずは、この領収書。不備があるので再提出してください」

「ええっ、これ……」

 正木は見せられたものを見て絶句している。
 そりゃあそうだろう。わざわざオレの目を盗んで、別の経理担当に手渡したはずのモノなのだから。

「それから、これですが……」

 もう一つの書類を見せる。
 それは出張費の申請書で、それも同じ経理担当から入手していた。

「わかっていると思いますが……」

 続けて理由を説明しようとして、それを遮るように書類を奪われる。

「すみません。再提出ですよね」

 取り繕うようにそう言って、穏便に事を済ませようとしているのが見え見えだ。

「……お願いします」

 しぶしぶそう言って引き下がってやる。
 大体、やましいことがあるからオレを通さずに他の経理担当に手渡すのだ。一体どうやってオレの目を掻い潜るかさんざん考えたのだろうが、無駄な労力というものだ。
 全く堪えた様子も見せずに去って行く正木の後姿を見送りながら、オレはこっそりと三度目のため息をついた。



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闇に月は融けて 2

はじめるまえに……

 さて、そろそろ1万Hitが近づいてまいりました!
 多分 11/20 にその時がやってきます!!
 そう、今日ですよ!!

 1万を踏んだ方は

 「おめでとうございますっ!!」

 記念に何かコメントくださいwww

 それでは次回は……もしかしたら、R18かな……
 と、いうことで

 続きをどうぞぉ (^-^ゞ




 それにしても……と思う。もう入社して何年も経つにもかかわらず、こんな簡単な書類の提出さえできないでいる正木の事が理解できない。あれで営業のホープとか言われているのだから、人っていうのは本当にわからない。もしかして、面倒な事務作業は他の誰かに任せているのではないのか……そんな風にすら疑ってしまう。

 オレがまだ見ているとも知らず、正木は誰かに向かって肩をすくめるような仕草を見せる。すかさずその相手を確認すると、案の定、秘密裏に書類を処理するよう頼んだと思われる人物に行きつく。
 確か、彼は正木とは繋がりがなかったように思っていたけれど……。
 オレの視線を感じたのか、そいつは『しまった』という顔をして陰に隠れるように机に伏せるのが見えた。
 正木との間にどんな取引があったのかわからない。
 オレの目を欺いてただ面倒を避けたかっただけのつもりかも知れないけれど、問題はそこじゃなく。仕事に対して不誠実な態度が許せない。

「松木戸、ちょっと……」

 オレは正木の共犯者を見据えると、机に身を伏せ懸命に仕事をしている素振りのそれを静かに呼びつけた。


 自分でも面倒くさい奴だと思う。普通なら見なかったことにする所でさえも許容できなくて、しかも口うるさく、性格も悪い。
 だけどこの性分は昔から変わらないし、変わりようがなかった。真面目とか律儀なんてもてはやされる反面、遊びがなくて面白みがないヤツと陰で叩かれる。他人から受けるそれらの評価は学生の頃から今もなお付いて回っていた。
 だから彼らがオレを避けたいとか苦手意識を持っているのは十分理解しているし、仕方のないことだと思っている。それをどうにか解消したいとも今更思わないし、そのつもりもない。
 そんなのだから、友人と呼べる相手も少なくて、頑固な自分を受け入れてくれる誰かを見つけるのは難しいことを知っている。
 だからなのだろう。わずかでも気を許した相手を手放すことができない。それが底なし沼だとわかっていても、自ら進んではまり込み抜け出せなくなってしまう。例えそれが、自分の嫌いな曲がった事であったとしても……。

 終業時間を迎え、片づけを始めたオレの携帯が突然振動し、メールが届いた。
 それだけで相手が誰なのかわかる。
 約二週間ぶりの連絡。心のどこかで待ち詫びていたあの人からの呼び出し……。
 オレは携帯を手に取ると席を立ち、乱暴にポケットへと突っ込んだ。
 部屋を出ると人の多いエレベーターを避けて、非常階段の重い扉を開ける。階段を利用している社員は少ないから、落ち着いて携帯に届いたメールを確認できるのだ。
 落ち合う場所が書かれただけの短い文章。それだけがオレとあの人を繋ぐ手段だった。

 いつも利用するホテルの一室へ向かう。
 待ち合わせの時間はとうに過ぎていた。
 いつもそうだ。連絡があった瞬間だけ胸が躍る。
 そして、まるで波が引くように喜びは暗く影を落とし、気持ちが沈む。
 理由はなんとなくわかっていた。

「遥(はるか)……」

 部屋を訪れると、扉が開いてすぐに抱きしめられる。
 オレを下の名前で呼ぶのは彼ぐらいしかいない。
 自分を抱きしめるのは営業部の部長、高林 敏次(たかばやし としつぐ)。
 彼は妻子がある身で、彼が相手である限り幸せが訪れるはずもない。
 それがこの場所に来る足を鈍らせる原因で、もう1年以上繰り返されている関係。
 呼び出しに応じてしまうのは、自分を求めてくれる人を手放したくないだけだ。

「随分、今夜は来るのが遅かったね?」

 彼の腕の中は出会った頃と同じように温かくて優しくて、力強さを感じる。高林は不満そうにそう言うと、オレの髪に指を差し込む。乾ききってない髪はシャワーを浴びてからきたことを教えた。

「シャワーなんか、どうでもいいのに」

「それは、オレが嫌なんです」

 本当のところはそうじゃない。少しでも考える時間を稼ぎたかった。彼との関係を清算すべきだと、心のどこかで正論を言う自分が叫んでいた。
 だけど結局ここへ来てしまった。
 言い繕うオレの唇に、高林の吐息を近くに感じる。そっと目を閉じて、彼の身体に縋り付くと、柔らかい感触がオレを蹂躙し始めた。



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闇に月は融けて 3 R18

はじめるまえに……

 やっぱりR18になりましたw

 何度か考え直したりしたのですが、
 やっぱりここは書いとこう!という結論です

 彼と彼の濡れ場は
 この後もあるかもですが、
 今回はこの辺に抑えときます

 更新はやっぱり遅くなっちゃいましたね
 これでも頑張ったんですよ?
 ホントもう
 スランプみたいで
 書きたいけれど書けない病です

 まぁ、そんなことはさておきまして
 ここから先は

 年齢の満たない方と
 性描写に苦手感のある方は
 戻っていただいて

 どんとこいの方は 続きをどうぞっ (≧▽≦)ゞ




 場所をベッドに移して、互いの吐息が触れるほど近くに顔を寄せる。交わされる口づけは、まるで奪い合うように激しくて、会えなかった時間を埋めるように求め合う。
 オレを組み敷き覆い被さる彼の背中に腕を伸ばし、肩甲骨の辺りの隆起した筋肉に触れる。がっちりとした感触が懐かしくさえ感じられて、そこに爪を立ててやりたい気持ちにかられる。
 
「遥……」

 まるでオレの手から逃げるように首筋から鎖骨にかけて彼の頭が移動する。吐息とそれから柔らかい弾力が胸骨へ下がっていくと啄むように胸元を吸われた。
 くすぐったくて、じれったいようなゾクゾクする感覚が腰から背中を突き抜けて、身体を捩り彼が与える刺激から逃げる。

「とし……つぐ、さん……」

 キスだけですでに息は上がっていて、上半身への愛撫だけで腰砕けだった。
 彼の名前を呼ぶと、腰を固定されて身体を引き戻されると身体を反転させられた。
 うつ伏せの状態で確認するように背骨に沿って彼の指が這う。腰の位置まで来ると持ち上げられて高く保持するように枕が差し込まれた。
 ほんの少し、彼の身体が離れたと思うと、冷たいものが脚の間に塗りこめられる。

「シャワーを浴びて来たって言ってたね?」

 確認するようにそんなことを言うと、後口を探っていた指がローションの滑りに助けられてスルリと入ってきた。
 それは細くて、硬く。ほんの少しだけ侵入するとまた出ていく。

「ココも解してきてるんだろう?」

「……訊かなくても、わかるでしょう?」

 意地の悪い問いかけに、オレは明確な返答を避ける。シーツに片頬を押し付けて背後に視線を向けた。かすかに彼が笑った気がする。でも、ハッキリとその姿を確認することは出来なかった。

「可愛げのない……」

 彼の声が聞こえてまた指が挿入されてくる。今度はさらに圧迫感を増していて、本数が増やされたことがすぐにわかる。

「んっ、それはっ……んぁっ……、よくわかってますよっ、は……ぁあっ……」

 ぐちゅっと濡れた音が指を動かすたびに聞こえる。その度に声は溢れて、それでも憎まれ口は止められない。
 体内を弄るように動く指がくの字に曲げられてある一点を刺激する。
 身体はヒクンッと跳ね上がり、身体の芯を揺さぶるような感覚が沸き起こる。

「あっ……、や、だっ……、……ぁ、んっ」

「好きだろ? ココが」

 執拗にその場所を刺激され、シーツを握りしめる。
 まるで坂道を下るように止まらなくなる衝動。
 なのにもう少しで達しそうになるとタイミングがずらされて焦らされる。

「敏次、さっ」

「おねだりは? 遥」

 耳元に彼の声がした。
 ドクドクと自分の鼓動が聞こえるほどに高まって、燃えるように目の前が赤く染まるほどの羞恥心を感じる。

「い、や……」

 頭を振り拒絶するオレに、彼の指は中で動きを止めた。
 急に動きがなくなって圧迫感だけがオレを襲うと、自然と快楽を求めて腰を動かしてしまう。

「次は?」

 オレを促すように、彼の笑みを含んだ声が掛かる。
 次に拒めば、指を引き抜いてしまうかもしれない。
 ここまでされて途中で放り出されるのは嫌だった。

「中、……挿れて……」

 腰を突きあげ、彼に擦り付けるようにしてお願いする。
 指が引き抜かれて、熱い滾りがそこに押し付けられる。指とは比較にならない圧迫感と共にゆっくりとその先端部が入ってくる。

「ん……っ、あ、ぁあっ……」

 その総身が体内に収められると、腸壁が絡みつき締めつける。
 しばらく身体の中で小さな律動を繰り返していたそれは、ゆっくりと引き抜かれる。絡みついた肉襞が引き摺られ、その形をトレースするかのようにオレに伝えた。そうして何度も挿入を繰り返されて、体内を掻き回される。
 前も後ろも一緒に責め立てられて、何度も絶頂に達しそうになるのを根元を締め付けられて阻止された。

「はるっ……」

 彼が首筋に顔を埋める。ぎゅっとオレを抱きしめる腕に力が入って、それから深くに腰を打ち込んだ。
 身体の中で彼の飛沫が飛び、オレもほぼ同時に達する。
 シーツは先走りの液でしとどに濡れて、そこにまたオレの迸りが吸い込まれていった。
 最初に塗り込まれていたローションはすっかり掻き出されて太腿を濡らし、それと一緒に溢れた精液が伝い落ちた。
 彼の体重を背中に受けながら、ベッドに身を預ける。
 荒い吐息をついていると、彼の手が髪に触れて頭を支えるようにされると、唇を覆われた。

 これ以上のない、満たされた時間が過ぎていく。
 この時だけは、彼がオレだけのものになった気がした。



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闇に月は融けて 4


はじめるまえに……

 更新遅くなりました m(_ _)m

 次回はちょっと以前に戻るかなー?

 今回のお話の内容もちょっと暗いですねぇ
 しかもドロドロだし、
 こういうのが好きなので仕方ないよね

 次は楽しくてラブラブなお話を書こうと思いつつ
 どこか暗い部分を持つ受けが好きなので
 結局こういった話になるんだよね
 あははは……orz

 では、続きをどうぞっ (^-^ゞ
 



 ベッドから身なりを整える男の姿を眺める。
 ネクタイを締めている姿が様になっていて、見惚れてしまう。そんなオレの視線に気づいたのか、高林が手を止めてこちらを見る。

「帰っちゃうんですね……?」

 オレを置いて、この部屋に1人残して、この男は自分を待つ家族の元へ帰っていく。
それは当然の事で。そうあるべきだし、この関係自体が間違っていることなんだけれど。
 それでも恨めしく思えてきて、困らせたくなる。

「俺の立場は、わかっているだろう?」

 口の端を軽く上げて笑う。
 彼の立場……。それを言い訳にされると尚更、彼を帰したくなくなる。

「自分からそれを望んだクセに……」

 恨めしくてつい言ってしまう。
 身体を起こして男の方へにじり寄る。手を伸ばして彼のネクタイを掴むと引き寄せた。

 彼はいわゆる婿養子だ。奥さんは会長の血縁者で、将来は約束されたも同然。出世街道はまっしぐら。彼はそれを承知した上で結婚した。自分の利益をどこまでも追求し、欲望に忠実な男。それが高林 敏次という男だ。
 そんな彼がオレを相手にしている理由は、支配欲を満たすために他ならない。
 彼との間にあるのは甘い恋情なんかじゃない。そう自分に言い聞かせていた。

「困った子だ……」

 薄く笑い、オレに口づける。そのままゆっくりベッドに仰向けにされて、唇が離れる。

「誘ったからには、責任を取ってくれるんだろうね?」

「……今夜ぐらいは……いいでしょう?」

 勝ち気な言葉に笑って応じる。
 彼は出張から帰ってきたばかりで、申請書が出ていたことを知っていた。だから言い訳ならどうとでもなるだろうと踏んでいた。そうでなくても口のうまい人だから、心配などしてはいない。それに……、明日は休みだ。多少無理をしたところで仕事への影響は少ないだろう。

「だから……ね……?」

 男を追い求めるようにキスをせがむ。
 彼からの連絡がないと会う事の出来ない一方的な関係。だからこんな時でないとわがままも言えなくて。身体が求める限り欲望を満たしたいと思うのは、男の性だ。
 意図的に仰け反らせた首筋に彼の唇が這うのを感じながら、オレは目を閉じて彼と初めてこんな関係になった時のことを思い出していた。

 出張先のホテル。そこで偶然彼と出会った。社内では仕事の内容を話す程度。所属部署が違えばそんなものだし、部長と平社員じゃ違いすぎる。
 最初はロビーで出会った。その時はあいさつを交わした程度。その後飲みに出た先で偶然再会した。
 社内の彼の評判は色々だった。強引で自信過剰、巧みな話術でいくつもの商談をまとめてきた実力主義者。彼が利欲だけで結婚したなんてことも噂で流れていた。そんなことを本人はどう思っているのか、妬みや嫉みを受けることはさして気にもしていないようで。そんなところがオレの興味を引いていた。

「高林部長……ですよね?」

 彼に近づき、オレの方から声を掛けた。
 こんな時じゃないと彼に話しかける機会などなくて、一度でいいから話してみたいと思う相手だった。




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闇に月は融けて 5


はじめるまえに……

 今回の更新は予約してみました
 上手くいけばこんなことも今後もアリかなぁ……?

 さて、今回の内容は
 ギリギリ?
 R指定を外しました
 これくらいの内容なら……大丈夫だよね?

 ではでは、
 続きをどうぞっ (≧▽≦)ゞ




 そこは落ち着いた感じのワインバーで、静かだし出されるモノも美味しかった。
 自分から話しかけたという事と酒の力もあって、少し饒舌になっていたかも知れない。
思っていた以上に彼は聞き上手で、話も上手かった。
 すっかり酔いが回って、ふらつく足でタクシーに押し込められ、支えられながら宿泊先のホテルに戻った。
 エレベーターの中で部屋の番号を聞かれて、降りる寸前に腕を掴まれて引き戻される。
 彼の腕の中に捉えられた。信じられない彼の行為を呆然と見上げたオレの唇へ、彼の顔が近づいてくる。開いていた扉が閉まるのを視界の片隅に見ながら、オレは彼を受け入れて目を軽く閉じていた。

 アルコールで火照った身体と、泊りがけの出張での軽い過ち。一時の快楽に溺れる言い訳にはそれだけで充分だった。

「綺麗な肌だ……」

 薄暗く照明を落とした部屋。暗く影を落とし、彼の表情は見えない。けれどその声音はほんの少し掠れていて、オレを扇情的に誘う。
 ベッドに寝かされて、まるでプレゼントを開けるようにシャツのボタンが外される。彼の指がオレの胸元に触れると、感触を楽しむように撫で上げた。

「アルコールのせいかな? 吸い付くようで、桜色に色づいてる」

「んっ……」

 薄く目を開けて、腹の上に乗り上がっている男を見る。視線が絡み、胸の上にあった手が腹の上を滑り降りて、身体が跳ねる。

「経理のクールビューティがこんなに色っぽいなんて……な?」

 男の言葉に、オレは心底驚いた。

「そんなこと、どうして知って……?」

「知ってるさ、有名……だろう?」

 彼は笑ってオレを見つめた。
 オレの事なんて、全く知らないと思っていたのに……。それもよりによってクールビューティなんて呼ばれてることを知られているとは……。
 初めて知った時は、自分に対する二つ名だとは思えなかった。けれどそれを耳にする毎に自分の事だと自覚するようになった。

「君の事は噂でしか聞いたことがなかったけれど、実際を目にすると……」

「……がっかり、ですか?」

 ため息交じりに尋ねると、「まさか」と彼は笑い飛ばす。

「ますます、知りたくなった。それに……」

 言葉を一旦止めた彼を見る。まっすぐに見つめられて、彼から目を離せなくなる。

「それに、君は本当に……キレイだ」

 ただのその場凌ぎの口説き文句だとわかっていても頬が染まる。
 今までにだってそんな口先だけの言葉は聞き慣れていたはずなのに、彼の口から出たその言葉はどうしてだか特別で。胸がドキンと高鳴った。

「できれば、君の最初の男になりたかった」

「それは……残念でしたね」

 そんなことまでわかってしまうのかと思うと言葉に詰まり、つい憎まれ口を叩く。
 彼の指がオレの胸の赤く色づく飾りに触れて指の腹で転がすから、その度に声を上げそうになってしまう。

「可愛げがないのは確からしい……」

「んっ……はっ、ぁっ……」

 きゅっと強めに乳首を引っ張られて、痛みとソコから全身に電気が走り抜けた。刺激に堪え切れず嬌声をあげてしまう。
 頭をじんと痺れるような余韻が残り、オレは滲む視界に見える彼を睨みつけた。

「……貴方こそ、結婚してるクセにこんなこと……」

「嫌なら、抵抗すればいい……」

 オレにそんなつもりがないことなど分かっているくせに、そんなことを言う彼が憎らしくて腹立たしい。
 両手を伸ばし、彼を抱きしめる。
 どうせ一夜限りの関係。
 彼から与えられる刺激に身を任せ、肉欲に溺れる。
 彼はそれを望んでいたようだったし、オレも気持ちは同じだった。


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