はじめるまえに……
お待たせなのでしょうか?
さて、ようやく新しいお話を始めます
今までは『月シリーズ』でしたが、
今回はガラリと様相を変えまして
初の学園モノでございます
主役も含め登場人物全てが高校生!!
軽くて明るいお話のはずです
ではでは、お付き合いしてくださる方々はよろしくです(≧▽≦)ゞ
季節は5月を迎え、木々の新緑は見た目にも若々しくて、透明感を感じるほどにすっきりとした視界は明るい日差しに眩しいほどに輝いて見えていた。なのにオレの心はこの学校に入学してから暗くなっていくばかりだ。
人里離れた山間に立つ学校、白鴎学園は中等部と高等部を備えた全寮制の男子校だ。
高等部から入学したオレは、その独特な校風に最初の1か月の間は慣れることで精一杯だった。
独特な校風……、それは……。
「ありすちゃん、もうちょっと愛想良くしてあげたらいいのに」
仏頂面で廊下を歩くオレに、苦笑いしながらそう注意を促してくるのは、友人でもある佐伯 祐樹(さえき ゆうき)。
オレとの身長差は5センチくらいか、ほんの少しだけ小さい。フワフワしたくせ毛は栗色で、目は大きくお人形のように可愛い。
人の気も知らないで……と軽く睨みつけても、彼には全く効果がないらしく顔色一つ変えない。それを見てから、オレは小さくため息をついた。
「男がオレに手を振ってきて、それをどうしろって?」
「だから、手を振り返してあげるとか、さ」
そう言うと彼はちょうど目が合った男子生徒ににっこりと微笑んでみせる。
するとその生徒はみるみる顔を赤らめて、大慌てで教室へ戻って行った。
その一部始終を冷たく見ていて頭を抱える。
──慣れない……。
その一言に尽きる。
自分が外部入学生だからなのか、ここの校風にはいくら理解しようとしてもついて行けない。
「できるかっ、そんなコト」
「そう? 慣れれば結構楽しいけどなぁ」
クスクスと笑いながら、彼はそう言う。
中等部からのエスカレーター組はそうなのかも知れないけれど、オレにとってはここは異世界も同然だ。
「騙された……知ってたら……」
こんな所なんかには、入学しなかったのに。
後悔しても始まらないのはわかっていた。
この学校には変わった伝統ともいえるものがある。
一つの学年毎のごく一部の生徒に「姫」「花」「騎士」などと命名し、それぞれがまるでアイドルのような存在になるのだ。
女子と言う存在がない男子校ならでは(?)の奇妙な風習と言うべきなのか。
どうやらそれは入学して1か月以内に上級生たちによって人気投票的に決定され、そしてそれから3年間その立場は不動になる。
「姫」の称号は学年において唯一1人だけ。「花」の称号は学年に3人。「騎士」の称号は5人とどうやら定まっているらしい。
「花」の称号を持つ1人でもある祐樹は、慣れた様子でその役割をこなしていた。
さすがは中等部からこの学校にいるだけのことはある……。
チラリと彼の営業スマイルを横目で見ながら、感心する以外ない。
「ほら、ありすちゃん。笑顔、笑顔」
目的地でもあった生徒会室の扉の前までやってくると、祐樹はお手本のような満面の笑みをオレに向けてくる。
無理矢理に引き攣ったような笑顔を作ると、かなり妥協してくれたのか扉をノックをしてくれる。
「きっと前代未聞だよ……こんな事」
内側からの声を待ちながら祐樹はボソッと言った。
わかってる。でも、これだけは言ってみないとどうなるかなんてわからない。
連れてきてくれた祐樹に感謝しながら、ドキドキとその扉が開かれるのを待つ。
「おやおや、これは……」
しばらくしてガチャリと重厚そうな扉が開き、そこから出てきたのは銀縁の眼鏡を掛けた冷たい印象の見覚えがある人だった。確か、……そう名前は覚えていないけれど副会長だったはずだ。
彼は珍しそうにオレと祐樹を見比べると、どうぞと通してくれた。
扉を開け続けてくれる彼の前を通り過ぎる時に、やけに絡みつくような視線を全身に感じる。けれどそちらを見てはいけないような気がして、自分の勘を信用してゾクリと肌が粟立つような寒気を感じながらも懸命に無視した。
「会長、噂の生徒が来ましたよ」
眼鏡のその生徒は扉を閉めると、オレ達を追い越して部屋の奥にある椅子に背中を向けて座っている人物に声を掛けた。
「噂……?」
会長と呼ばれたその生徒はくるりと椅子を回転させた。
入学式の時と、それから後も何度も見て知っているその顔がこちらに向けられる。
2年生にして生徒会長の座に就任し、その学年の「騎士」の1人でもある有名人。
彼の名前は東条 要(とうじょう かなめ)。成績優秀、顔良し、性格良し、しかも金持ちと文句ない4拍子が揃ったこの校内でも類い稀な人らしい。
だから「騎士」の称号は彼にこそ相応しいなんて、誰かが言ってたのを思い出す。
「ああ、これはこれは……。新たなる『姫』。一体何の御用でしょう?」
彼はオレを見ると立ち上がって、やけに恭しくそう言った。
そう、オレ達の学年における「姫」の名前は有住 広夢(ありす ひろむ)。
認めたくないことに、まさかの『オレ』だった。
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