それは恋ですか?

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それは恋ですか? 1

はじめるまえに……

 お待たせなのでしょうか?
 さて、ようやく新しいお話を始めます
 今までは『月シリーズ』でしたが、
 今回はガラリと様相を変えまして
 初の学園モノでございます
 主役も含め登場人物全てが高校生!!

 軽くて明るいお話のはずです
 ではでは、お付き合いしてくださる方々はよろしくです(≧▽≦)ゞ




 季節は5月を迎え、木々の新緑は見た目にも若々しくて、透明感を感じるほどにすっきりとした視界は明るい日差しに眩しいほどに輝いて見えていた。なのにオレの心はこの学校に入学してから暗くなっていくばかりだ。
 人里離れた山間に立つ学校、白鴎学園は中等部と高等部を備えた全寮制の男子校だ。
 高等部から入学したオレは、その独特な校風に最初の1か月の間は慣れることで精一杯だった。
 独特な校風……、それは……。

「ありすちゃん、もうちょっと愛想良くしてあげたらいいのに」

 仏頂面で廊下を歩くオレに、苦笑いしながらそう注意を促してくるのは、友人でもある佐伯 祐樹(さえき ゆうき)。
 オレとの身長差は5センチくらいか、ほんの少しだけ小さい。フワフワしたくせ毛は栗色で、目は大きくお人形のように可愛い。
 人の気も知らないで……と軽く睨みつけても、彼には全く効果がないらしく顔色一つ変えない。それを見てから、オレは小さくため息をついた。

「男がオレに手を振ってきて、それをどうしろって?」

「だから、手を振り返してあげるとか、さ」

 そう言うと彼はちょうど目が合った男子生徒ににっこりと微笑んでみせる。
 するとその生徒はみるみる顔を赤らめて、大慌てで教室へ戻って行った。 
 その一部始終を冷たく見ていて頭を抱える。

──慣れない……。

 その一言に尽きる。
 自分が外部入学生だからなのか、ここの校風にはいくら理解しようとしてもついて行けない。
  
「できるかっ、そんなコト」

「そう? 慣れれば結構楽しいけどなぁ」

 クスクスと笑いながら、彼はそう言う。
 中等部からのエスカレーター組はそうなのかも知れないけれど、オレにとってはここは異世界も同然だ。

「騙された……知ってたら……」

 こんな所なんかには、入学しなかったのに。
 後悔しても始まらないのはわかっていた。

 この学校には変わった伝統ともいえるものがある。
 一つの学年毎のごく一部の生徒に「姫」「花」「騎士」などと命名し、それぞれがまるでアイドルのような存在になるのだ。
 女子と言う存在がない男子校ならでは(?)の奇妙な風習と言うべきなのか。
 どうやらそれは入学して1か月以内に上級生たちによって人気投票的に決定され、そしてそれから3年間その立場は不動になる。
 「姫」の称号は学年において唯一1人だけ。「花」の称号は学年に3人。「騎士」の称号は5人とどうやら定まっているらしい。

 「花」の称号を持つ1人でもある祐樹は、慣れた様子でその役割をこなしていた。
 さすがは中等部からこの学校にいるだけのことはある……。 
 チラリと彼の営業スマイルを横目で見ながら、感心する以外ない。

「ほら、ありすちゃん。笑顔、笑顔」

 目的地でもあった生徒会室の扉の前までやってくると、祐樹はお手本のような満面の笑みをオレに向けてくる。
 無理矢理に引き攣ったような笑顔を作ると、かなり妥協してくれたのか扉をノックをしてくれる。

「きっと前代未聞だよ……こんな事」

 内側からの声を待ちながら祐樹はボソッと言った。
 わかってる。でも、これだけは言ってみないとどうなるかなんてわからない。
 連れてきてくれた祐樹に感謝しながら、ドキドキとその扉が開かれるのを待つ。  

「おやおや、これは……」

 しばらくしてガチャリと重厚そうな扉が開き、そこから出てきたのは銀縁の眼鏡を掛けた冷たい印象の見覚えがある人だった。確か、……そう名前は覚えていないけれど副会長だったはずだ。
 彼は珍しそうにオレと祐樹を見比べると、どうぞと通してくれた。
 扉を開け続けてくれる彼の前を通り過ぎる時に、やけに絡みつくような視線を全身に感じる。けれどそちらを見てはいけないような気がして、自分の勘を信用してゾクリと肌が粟立つような寒気を感じながらも懸命に無視した。

「会長、噂の生徒が来ましたよ」

 眼鏡のその生徒は扉を閉めると、オレ達を追い越して部屋の奥にある椅子に背中を向けて座っている人物に声を掛けた。
 
「噂……?」

 会長と呼ばれたその生徒はくるりと椅子を回転させた。
 入学式の時と、それから後も何度も見て知っているその顔がこちらに向けられる。
 2年生にして生徒会長の座に就任し、その学年の「騎士」の1人でもある有名人。
 彼の名前は東条 要(とうじょう かなめ)。成績優秀、顔良し、性格良し、しかも金持ちと文句ない4拍子が揃ったこの校内でも類い稀な人らしい。
 だから「騎士」の称号は彼にこそ相応しいなんて、誰かが言ってたのを思い出す。

「ああ、これはこれは……。新たなる『姫』。一体何の御用でしょう?」

 彼はオレを見ると立ち上がって、やけに恭しくそう言った。

 そう、オレ達の学年における「姫」の名前は有住 広夢(ありす ひろむ)。
 認めたくないことに、まさかの『オレ』だった。



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それは恋ですか? 2


はじめるまえに……

 さて、今回はたくさん登場人物がいるっぽいです
 何人出てくるかなぁーw

 それにしても、
 今回のタイトルは、
 かなり『テキトー』につけてしまいました

 見るたびに恥ずかしい……( ゚ω゚;)

 ではでは、続きをどうぞ (≧▽≦)ゞ 




 入学してから約1か月。ゴールデンウィークを迎える前までは、誰が見ても平穏な普通の日々が続いていた。オレはそんな普通の日常でさえ、新たに始まった生活に早く慣れようと懸命の努力をしていたんだ。
 連休が明けて、いつも通りに見えた学校の門をくぐると、打って変わってそこはいつもの場所ではなかった。

 どこに行ってもついて回る他人の視線。かと言って直接話しかけに来るわけでもなく、視線が合うと途端に逸らされる。
 休み前までは普通に話していたはずのクラスメイト達は、何故か急によそよそしい態度になって。あまりに突然の周囲の変化に自分が何かをしでかしていて、気づかないうちに嫌われ者になったのではないかと本気で悩み落ち込んだ。

 そんなオレに「姫制度」なんて呼ばれているその伝統行事について教えてくれたのが佐伯 祐樹。その時までは彼は同じクラスで、寮でも見かけたことがある程度の繋がりでしかなかった。けれど、それを境にオレ達は友人として急接近することになった。

 彼の話で理解できたのは3つの称号と選ばれた人数。それから、その選考が連休の間に行われたということ。
 そしてオレが中でも最も重要な情報だと思えたのは、その選考には生徒会が絡んでいるという噂だ。

 居ても立ってもいられず、校内にまだ不慣れなオレは祐樹に頼み込んで生徒会室まで連れてきてもらった。

 ……とまぁ、そんな経緯があって今現在、オレは生徒会長である東条 要の前に立っている訳なんだけど。
 東条を間近で見ると、彼が別段何をしてる訳でもないのに、圧倒的なプレッシャーを感じて言葉を忘れる。どうしてだろう、立っているだけで精いっぱいだ。

「で、何かお困りでも?」

 東条の口調は丁寧だけどどこか事務的で、表情も優し気に微笑んではいるけれど、本当の所は何を考えているのかわからない印象を受ける。
 せっかくここまで無理を言って連れてきてもらったんだ。何も言わず、このまま帰るなんてできない。

「あの……」

 意を決して口を開く。
 口がかさつくほどに乾いて、掠れたような震える自分の声にまた口ごもる。

──恥ずかしい……。

 そんな気持ちが沸き起こって、後悔の念が渦巻く。
 こんなに緊張して、頼まなきゃいけない事なのかな? 卒業までの3年間我慢すればいいだけ……。だけど、自分にとっては二度と戻ってこない貴重な3年間だ……。

「オレの『姫』の称号。取り消してもらいたいんです」

 東条から感じる無言の威圧に負けないよう、思い切って言った言葉は思いがけなく大きくて、彼はよほど驚いたのか目を丸くしてオレを見ていた。

「選考に生徒会が絡んでるって……。だったら取り消すことも可能でしょうっ!オレは普通の学園生活が送りたいんです、姫とか花とか……、そういうのとは無縁でいたいんだ。だから……」

 勢いに乗ってオレは捲し立てるように言う。
 しばらく黙って聞いていた会長は、「ふうん」と小さく言うと面白そうにニヤリと笑った。オレがまだ続けようとする言葉を、その表情の変化一つで押さえる。

「生徒会が、アレに絡んでるって? そんな噂があるのか」

 会長の表情はあくまで楽しそうだけど、部屋に響いた声は静かな怒りを含んでいるように聞こえた。

「違う……んですか?」

 勇気を振り絞って尋ねるけれど、返答はなかった。
 それまでの勢いはどこへやら、一瞬にして鼻白んでしまう。
 だから、会長から副会長の方へ助けを求めるように視線を移した。

「違うね」

 あっさりと彼は答えてくれた。
 それから神経質そうに眼鏡の縁を片手で持ち上げ、掛け直す仕草をすると続ける。

「大体、生徒会が関わっているなら、まず自分自身の称号を取り消している」

 見るからに不機嫌そうだ。
 どうやら副会長も同じように何かの称号を与えられているらしい。見た目の要素からすると「騎士」だろうか?

「残念だけど、姫のその要望には応えられそうにない」

 オレのことを「姫」と嫌味っぽく呼ぶと、不機嫌そうに出て行くように示される。
 どうやらオレは会長の地雷を踏んでしまったらしい。
 こうなるともうどうしようもない。
 すっかり意気消沈しがっくりと肩を落とす。

「どうも、お騒がせしました」

 しぶしぶ頭を下げ、オレは部屋を出て行こうと彼らに背を向けた。

「ちなみに、生徒会が絡んでるって情報はどこから?」

「すみません、きっとオレの勘違いです」

 隣にいる祐樹から聞いたなんて言ったら、彼らの質問攻めにあいかねない。
 守らなきゃ……。なんとなくそう思った。
 それでなくても祐樹はオレより小柄で、外見からは気が弱そうに見えた。
 せっかくできた友人。彼を辛い立場に立たせるつもりは一切なかった。

「行こう、祐樹」

 不安そうに視線を泳がせる友人に声を掛けると、入ってきた扉のノブに手を掛けた。
 祐樹が部屋を出るのを見届けてから、最後にもう一度頭を下げると扉を閉める。
 そうして、オレは閉まった扉を見つめ、長い長いため息をついた。
 結局、生徒会に乗り込んだわりに、精神力をすり減らしただけで何も変わらなかった現状。「姫」と言う称号はこれからの3年間オレにつきまとうのだ。

 虚ろな気持ちで廊下の窓辺に身体を寄せる。そこから見えるのどかな田園の景色は、とても緑がキレイだと感じることができるのに、オレの気持ちを和ませてはくれなかった。




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それは恋ですか? 3


はじめるまえに……

 あらゆることが
 説明不足のような、
 そんな気がします
 お話が進んでいく前に細かい設定の説明がいるかな?

 ひとつずつ、
 物語を通して
 開示できればいいなぁと思ってます

 でもまぁ、
 難しく考えないで、
 サラッとどうぞっ (≧▽≦)ゞ




 コレといった収穫を得られなかった生徒会室に背を向け歩き出す。諦めて寮へ戻ることで、気分を一新する意外に思いつかなかった。ようやく踏ん切りがついたオレを見て、祐樹はまだ用事があるからと言ってどこかへ行ってしまった。

 1人きりになると『さてこれからどうしようか……』と周囲を見渡す。
 入学してからこれまで、心の余裕なんてなくて。この学園の敷地内すらまだ充分には把握していない。今回だって生徒会室がどこにあるのかわからなくて、祐樹に案内を頼んだほどだ。これからのことを思うとどこに何があるのかくらいは知っておくべき、なのだと思う。
 都合の良い事に今は放課後で、しかも1人っきりなら誰に迷惑をかけることもなく、気兼ねなく彷徨う事が出来る。とっておきのチャンス……。

「……まずは、でも。ここが『どこ』なんだ?」

 ぐるっと見渡すけれどここが3階だということ以外はわからない。ただ、生徒会室が4階にあって、その1つ階段を降りたところで祐樹と別れて、その場所に立っているという事は理解できている。
 廊下の先を見るけど特に生徒らしい姿は見えない。恐る恐るオレは最初の1歩を踏み出した。

 校舎は東と西の2つの棟で成り立っている。
 東棟には普段使う教室。西棟は音楽室や化学実験室などの専門教室がある。職員室や保健室は西棟にあって、生徒の姿は東棟に比べるとあまり見られない。
 一通り見て歩いた後、東棟に繋がる1階の渡り廊下を歩いていた。
 ちなみに西棟と東棟を繋ぐ渡り廊下は3階にもある。
 その3階にある音楽室からは楽器の音が聞こえてくる。
 吹奏楽部が練習でもしてるのだろう。きっと、彼らは普通の学園生活を楽しんでいるに違いない。そう思うとまた気持ちが腐れてくる。

──なるべく目立たないように行動していたはずだったのに、どうしてなんだ?

 男子校なのだから当然だけど、男ばかりの学園生活は覚悟していたつもりだった。
 親元から離れての寮生活に対する戸惑いと不安。同世代だけの集団生活の始まり。
 学校は少人数制の教育を謳うだけあってクラスは1学年にわずかに3つ。自分のような外部入学生は全体の4分の1以下で、その存在はどうしたって周りから浮いて見える。だから、なのだろうか?

 『姫』に選ばれた理由なんて、聞きたくもないと思っていたけれど、これから3年間をそれで過ごすなら納得できるような説明が欲しい。
 『姫制度』の存在も、それに選ばれたことすら知らなかったオレが、理由を知るなんてまず無理なんだろうけど……。

「はあ……」

 大きなため息をつく。
 やっぱり、ちらほらとどこからともなく視線を感じて落ち着かない……。
 監視されているみたいで、不愉快で、たまらない……。

「もう、いい加減にしてくれっ」

 誰の耳にも届かないオレの言葉はただ虚しくて。逃げ出すように東棟に駆け込むと、脇目もふらずに教室に戻ると荷物を持って昇降口へ向かった。

「ありすちゃっ」

 後ろで祐樹の声が一瞬聞こえたけど、気づかないふりをした。
 とにかく、誰の目にも触れないような、1人っきりなれる場所に行きたい。
 その一心で校舎から離れる。
 学園の敷地内をただ闇雲に人気のない方へと歩いていく。
 そう言えば、祐樹に聞いたことがある。
 裏山の林の奥に、今は使われていない温室があるとか……。そこならもしかすると、1人きりになれるかもしれない……。

 調度いい機会だ。どうせなら、行ってみる価値はあるかも……。
 それに、確か裏山はこの先にあったはず。

 正面に広がる林に続く狭い道を見つけると、そこへ入っていく。
 木々に囲まれたその道は、日差しを遮られて薄暗い。それに空気がやけに冷たい様に感じられて、肌寒くなってくる。
 数分間歩くと、建物らしいものが見えてくる。
 目立つ場所には立ち入り禁止と書かれた札があった。それでもダメ元で入口の扉のノブを回してみた。

「……そうだよねぇ」

 鍵がかかっている感触がして、オレは当然の結果にがっかりした。
 そう都合よく自分だけの場所が見つかるわけがないんだ。

 でも、この場所を知ることができたのは一つの収穫。
 一人になりたくなったらまたここへ来よう……。
 そんなことを思ったその時、小さな声がしているのに気が付いた。



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それは恋ですか? 4


はじめるまえに……

 後半から事件が発生しちゃいました

 あちゃー、
 姫、大丈夫でしょうか?

 ではでは、続きをどうぞ (≧▽≦)ゞ




 学校の敷地内とはいえ、こんな外れた場所に自分以外の誰かがいる。
 そう思うと好奇心がわいて、声が聞こえる方向を耳だけで探す。
 一体何の目的でこんな場所にいるのか……。
 建物の、裏側か……? それとも中からなのか。
 息を潜め、足音を忍ばせて近づく。

「……っ」

 温室の正面からぐるりと外周を回って裏側。少しだけ開けたその場所に生徒らしい姿が見えた。どうやら2人いるらしい。
 チラッと見えただけだから、何年生かはわからないし、知っている顔でもない。
 ただ、彼らの前に出て行くのは非常に不味い。それだけは雰囲気でわかった。
 どうしてだろう、見てはいけないモノ。とんでもない場所にいるような気がするのは。

 ドクッドクッと自分の心臓の音が大きくて、その音で隠れている自分の居場所がわかってしまうのではないかと思うのに、その場所から動けない。

「ねぇ、ここなら誰も来ないよ……だから」

「でも……」

「怖いの……?」

「そんなこと……、ないよ」

「だったら、きてよ」

 2人の会話が聞こえてくる。
 甘く誘うような挑発的な少年の声と、それに躊躇いがちなもう1つの声。それから服が擦れるような音が続く。
 まさか、と自分の想像を否定する。
 でも、自分の考えを否定できる要素はなくて、もう1度2人がいる場所を覗く。
 確認だ……とその行動に自分なりの正当な理由をつけて、高ぶる気持ちを抑える。
 重なる2つの影は、抱き合っているだけでは説明がつかないくらい密着して見えた。
 ゴクリ……と知らずのうちに隠れていることも忘れ、生唾を飲み込み見つめていた。

 そこにいる2人は、背丈はさほど変わらない。温室の壁を背に立っている少年の方が細身で、彼が挑発的な言葉を発していたようだ。
 その彼の腰に回されたもう一人の少年の腕が、ゴソゴソと動いている。
 ブレザーの下に着ているシャツの裾がズボンから引き上げられて、捲れる。日に焼けていないような白い肌が露出して、その中へ手が滑り込むのが見えた。

──これ以上は……ダメだ。

 頭のどこかから制止する強い声がして、オレはまた身を隠す。
 2人にバレないように、この場所から立ち去らなくては……。
 来た時と同様に足音を忍ばせて退散する。温室の正面まで戻るとようやく息ができたような気がした。

 それにしても……あんなのは初めて見た。
 男子校で、全寮制で。しかも『姫制度』なんてものが存在するようなところだ。
 あっても不思議じゃない……と思う。けれど、ここに来るまでの自分なら絶対に信じられないことだったはずだ。本当に存在するんだ、そんなことが。などと認めて納得してるあたり、自分がこの特殊な環境に毒されてきていることを知る。

「戻らなきゃ……」

 ふとそう思った。
 あの2人の事はともかく、自分はまっとうな道に戻るんだ。
 そのためにはまず、この場所から立ち去ろう……。
 そう思って校舎へと続くはずの1本の細い道を戻っていたはずだった。
 なのに、どんどんその道は細くなり、あたりはますます薄暗くなっていく。 
 温室に来た時の2倍近く歩いて、道を間違ったらしいことにようやく気付いた時には、結構奥深くまで来ていた。

 ざわざわと木々が風に揺れ、冷たい風が吹き抜ける。
 あんなに1人きりになりたかったのに、今は不安で仕方ない。林で迷子なんて、笑えない冗談だ。

「キミ……、こんな所でどうしたんだ?」

 立ち止まっていると背後から声がした。
 慌てて振り向くと、最初に紺色のネクタイが見えた。
 紺色は確か、2年生だ。

「もしかして、ありす?」

 見たことのないその生徒はオレを見るなり驚いた顔をしてそう尋ねてきた。
 やっぱりオレの顔は、多くに知れ渡っているらしい。

「あ……、はい。あの、迷子になっちゃって……」

「ふぅん」

 どうしようかと思ったけれど、悪い人には見えなかった。
 それどころか、迷子のオレには一筋の光にも思えて、助かったとどこか安堵していた。
 
「ついておいで」

 彼はそういうと数歩先を歩き出した。
 迷うことなくオレはその後ろをついていく。しばらくすると視界は明るく開けてきて、そして来たこともないような場所に出た。

「えっと……」

「お礼は言わなくてもいいよ」

 『なんでそんな事を?』とお気楽な疑問が浮んだ時にはもう遅かった。
 突然羽交い絞めにされ、口と鼻に布を押し当てられる。何かの薬品の匂いがした。

「だってその身体で、返してもらうから……」

 何が起こったのか理解できず、驚きで目を見開いたオレに、彼はニヤリと薄笑いを浮かべて楽しそうに言った。
 そして薬ではなかなか気を失わないオレに近づいてくると、鳩尾に強い衝撃を受ける。
 真っ暗に意識は閉ざされ、単純に人を信じた後悔と共に、どこかへ連れられて行くのを感じた。



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それは恋ですか? 5

はじめるまえに……

 このお話は、明るくて軽いんです
 そのはずです

 ではでは、続きをどうぞ




 会社から父へ辞令が出たのは去年の暮れだった。
 突然の海外勤務。抵抗したのはついて行くのが嫌だったからだけじゃない。
 日本で居てさえ目立つ容姿。母親譲りの容貌と色素の薄い肌、それからクセのない栗色の髪。そして、もう一つの身体的特徴もあって中学でも1人だけ浮いた存在だった。海外になんかに行ったら、日本人だというだけで余計に目立つ上に、言葉すら通じないじゃないか……。
 心配性な両親を説得し、安心させるために選んだのがこの全寮制の学校、白鴎学園。
 入試の倍率は高くて、ギリギリ受かるかどうかだったけれど、それでも努力して掴み取った入学許可。揃える必要のある物品などを購入して、ようやく迎えた入学式。
 家族で過ごした最後の記憶は5月の連休。それまでは万事上手くいっているように思えていた。
 日本での生活と、普通の学園生活。それから自分が思う普通のクラスメイトとの交流。
 なのに……、今オレを囲んでいるこの状況は、一体何なのだろう。

 頭がガンガンしていた。それにどうしてか身体が痛い上に身動きが取れない。
 目を開けているはずなのに何も見えないのは、目隠しをされているから……?
 自分の身に何が起こったんだっけ……。1つずつ記憶を振り返る。そして、拉致されたんだと思い出した。

「丁寧に扱ってくれよ? 何と言っても『姫』なんだから」

 聞こえたのは林から連れ出してくれた生徒の声だった。
 オレの周りには何人かの生徒がいるらしい。足音がそれを伝えている。

「聞いた時はまさかと思ったけど、ホンモノじゃないか」

 囃し立てる声と口笛。聞いたことのない声がいくつもして、一体何人いるのかもわからない。
 腕は後ろ手に縛られていて、転がされているオレの身体を誰かが起こす。
 部屋は粉っぽい匂いがしていた。転がっていたその場所が床っぽくなかったから、使われていない体操用のマットの上に自分はいるらしい。
 という事はどこかの倉庫、みたいなところ?

「揃ったところで、そろそろ拝顔してみようか?」

 オレの身体を支えている男の声がして、顔の辺りに手が掛かる。
 パッと突然視界に光が差し込んで、真っ白に飛ぶ。

 口々にそれぞれの声が聞こえた。感嘆の声と、ため息のような音に交じって、『姫だ』という言葉も聞こえた。
 明るさに慣れてきた目に、ようやく中にいる人数が把握できるようになる。
 8人……いや10人は居そうだ。
 これから行われようとしていることは、嫌でも想像がついた。
 拘束されているこの状態では逃げ出すなんて不可能なことも、例え手足が自由だったとしても逃げ切れるとは思えない。

 不思議なくらいオレは落ち着いていて、現状を冷静に判断出来ていた。

「もしかして、この状況、理解できてない? ありすちゃん」

 騒ぎもしないオレに、見覚えのある男が尋ねてきた。

「それとも、怖すぎて反応ができないのかな?」

 林の中で声を掛けてきた2年生だ。
 どうしてこんな奴に頼っちゃったんだろうと後悔する。自力でだってなんとかできたはずだ。でもそれをしなかった自分に一番の責任がある。

「そう睨むなって、じきにどうでも良くなる」

 そう言うとシャツが引きずり出され、ボタンが下から1つずつ外される。
 まるで周りを囲む男子生徒たちに見せつけるように、ゆっくり。

「誰が最初にヤル?」

 まるでその場に居る全員がその言葉を待っていたようだった。

 口々に数字を叫び、それが飛び交う。
 まるで、競売を見てるみたいだ……。
 乱闘が始まりかねないほどに、その場が白熱していく。

──誰でもいい。誰か、助けて……!

 救いを求め、辺り一帯に目を走らせる。
 けれど誰もそんなことに気づこうともしない。
 気づいていたとしてもそうしないだけか……。
 諦めを感じ始めたオレの体を支えている男の体温が、密着した背中に感じて不快だ。
 身を捩り抵抗するオレを力で押さえつけ、目の前の劣悪な光景に男は恍惚としていた。

「さすが、姫の価値は高いな……」

 目の前でつり上がっていく数字に、満足そうに彼は声を上擦らせ呟いた。
 
「20万!」

 誰かが叫んで、その場は一気に静かになった。
 当然だ。それまでの金額が4万くらいだったんだから。
 その場に居る全員がその声の主を振り返り見ると、徐々にざわつき始める。

「20万出す。だから、俺にその権利くれよ」

「誰だ? お前……」

 声が近づいてきて、その姿が現れるとオレの隣にいた男は不審そうに眉間にしわを寄せ言った。
 どうやら招かれざる客、のようだ。

「金さえ出せば、文句ないんだろ?」

 まるで目の前の男の不機嫌には目もくれず、突然現れた生徒はかったるそうに言う。

「ふざけんなっ」

 そう言ったのは誰よりも一番前にいて、彼が現れるまではそれまでで一番の高値をつけていた大柄な体格の生徒だった。見るからに上級生だ。どうやら腕にも覚えがあるらしくて、それを誇示し見せつけるような尊大な態度でいる。

「大体20万なんて金、お前に払えるとも思えない」

「さあ、それはどうだろう?」

 楽しげに回答をぼやかす。その様子は明らかに目の前の上級生を相手にせず、バカにしているようで、挑戦的で好戦的、余裕すら見えるほどだ。
 それはもちろん当人なら尚の事感じとっていて、顔を真っ赤にして怒りに狂う。
 手を出したのは明らかにその上級生からだった。
 まるでそれを待っていたかのように、ヒラリと身軽に身体を躱すと軽く払うようにその身体に触れた。オレの目の前を大きな体が横切って、ガシャンと派手な音がする。
 どうやら何かの機材に頭から突っ込んだらしい。

「派手に面白そうな呼び込みがあったみたいだから、その内に噂を聞きつけた執行部がもうすぐここに来ると思うけど。みんなそれでいいわけ?」

 最終確認するように彼は余裕めいた表情のまま、そして手慣れた様子でこの場にいる全員に聞こえるように尋ねた。
 それを聞いた客として集まっていた残りの生徒たちは、自分達の行いが犯罪であることを理解しているらしく、我先にと転がるように倉庫から逃げ出していく。
 執行部……というと生徒会のことだ。そんな仕事もするんだと、つい数時間前に会った生徒会長と副会長の顔をぼんやりと思い出す。
 どうしてか、彼らならやりかねない気がした。

 見ている間に人は少なくなって、残ったのはオレとそれから主犯格の数名。
 憎々しげに乱入してきたその生徒を睨み付けていたけど、現行犯で捕まりたくはないようで舌打ちをすると外へと飛び出して行った。

「やれやれ、なんとかなったな……」

 彼は呟き、マットの上に転がされたオレに近寄ってくるのが見えた。

「って……おい、大丈夫か?」

 嗅がされた薬の影響なのか、それとも極度の緊張の所為なのか。一番危険そうな奴らから解放されたと同時に、オレの意識はまたどこかに引きずり込まれるように遠ざかって、何も見えなくなった。



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