逢魔が時の幻惑

カテゴリ:逢魔が時の幻惑 の記事一覧

逢魔が時の幻惑(R18) その1

 一部、性描写が含まれています
 苦手な方はお控えください


 それは仕事がお盆休みに入り、久々の長期休暇にようやく羽を伸ばせると思った矢先のことだった。
 実家からとは知らずに電話を受けたのが運の尽き。
 何を言っても逃れられようのない強い調子に負け、最終的には親父の生家に行くことを母親に押し付けられてしまった。
 親父の生家、つまりオレの祖父の家には、現在親父の兄夫婦が子供2人と祖父を含めて5人で暮らしている。この親父の実家に帰省するのが、母親にとってはストレスのようで、毎年この時期になると自分の代わりに行けと言ってくるのだ。この2,3年は仕事を理由にすることで断わっていたけれど、今年はウカツにもゆっくり休みたいなどとついつい口を滑らしてしまっていた。
 電車に揺られ、オレはため息を吐く。
 なんで……どうしてオレが?
 そう何度も頭の中で繰り返す。全ては断わり切れなかった自分が悪い。それがわかっていても諦めきれないのは、これから行く場所に後ろめたい過去を思い出してしまうからだ。
 長い長いトンネルを抜けると、光が差し込んで真っ白に染まった後、懐かしい景色が目前にぱっと広がる。一瞬胸が押されるような圧迫を感じて、それからもう一度深く息を吐いた。
 車掌のアナウンスがスピーカーを通してか細く聞こえ、次の停車駅への到着が近い事を乗客全員に知らしていた。


 駅から祖父の家までは歩いて20分ほどかかる。電車を降りてすぐに電話を入れてみたけれど、どうやら留守のようで迎えは期待できそうにない。オレは照りつける太陽を睨み付けると、両手の荷物を抱え直した。
 冷房が効いた中での内勤が多い仕事のため、暑さにはめっきり弱くなっているみたいだ。ダラダラと大量の汗が、頭やら首、全身から吹きだすように流れては落ちていく。
 辿りつくまでに干からびてしまうんじゃないだろうか。そんな妄想までしてしまう始末で、そうなった方がいっそ楽かもしれないとすら思ってしまう。

「……重い」

 荷物も気持ちも、前に進もうとする足すらも重くて、家が近づくごとにすぐにでも引き返したくなってくる。
 それでも昔は、祖父の家を訪れるのを楽しみにしている自分がいた。
 あれは高校を卒業する年の夏。その頃まで、オレは5歳年の離れた従兄弟のことを実の弟のように思っていた。
 お兄ちゃんお兄ちゃんと後ろをついて回るのが可愛くて、誰に頼まれるわけでもなくオレは率先して彼の遊び相手を買って出ていた。
 祖父も伯父さん夫婦もその日は留守にしていて、家にいるのはオレと彼の2人きり。
 13歳になる従兄弟はさすがに以前のように懐いてはくれないけれど、それでもオレにとっては可愛い存在に変わりなかった。
 庭の見える和室の部屋で、彼は昼寝をしていた。
 タオルでも掛けてやろうと近づいたとき、彼は寝返りを打って仰向きになった。
 その寝顔があまりに無防備で可愛くて、オレの胸はそれまでにない高鳴りを感じた。
 その唇が「おにいちゃん」と形どって動く。あどけなくて、純真無垢で。誰にも汚されたくないと思う反面、どうなるのか見てみたいとどす黒い感情が沸き起こる。
 その時彼の足の間のものが、薄い布の下でピクンっと撥ねるのが見えた。
 自分の知らない間に、どんどん大人へと近づいていく。
 ただの好奇心。それだけだと自分に言い聞かせ、オレは彼のズボンの中へ手を滑り込ませた。
 自分の手の中で小さな彼が息づいている。扱きあげるたびにビクビクと震え、それは大きさを増した。彼の浅くて速い呼吸に、自分が与えている刺激を感じていることを知る。ズボンを介していては窮屈で、オレは半ば乱暴に彼の下半身を露出させた。
 ひぅっと息を飲む声がして、恥ずかしいのか足を閉じようと内股に力を入れて隠そうとする。それを無理矢理両手で開かせると、目の前には天を仰ぐ彼の欲望が晒された。
 興味半分で見たAVを思い出し、あの時見た女がやっていたように口に含む。苦みと汗とそれから、従兄弟の香りがして。オレは夢中でそれを頬張った。
 舌で茎の部分を唇で締め上げ、括れたところへ舌を這わす。気持ちいいのか彼の腰は揺れていて、それすらオレの興奮に火をつけた。
 鈴口からは透明な液が溢れ出て、逃げようとするかのように彼の背中が反り返る。どうやら最後の時が近いらしく、彼は絞り出すような高い声をあげると、たっぷりと精を解き放った。トクントクンとオレの口の中で、性器として目覚めた彼が震えている。不思議なことに吐露されたものを飲み込むのは、オレにとっては全く苦痛じゃなかった。
 キレイに舐めとって服を戻してやる。けれどショックそうな顔をした従兄弟を見ているのが辛くなって、オレはその日のうちに逃げるように誰にも告げず実家に帰った。
 もう彼を弟のように見ることなんてできない。それに気づいた時、オレはもうあの家には行くまいと心に決めたのだった。


 祖父の家の前の坂道を上る。これを上りきったところに玄関がある。最後の力を振り絞り、ようやくたどり着くと玄関のチャイムを押す。
 昔と変わらない佇まいにホッとするのと、自分だけが変わってしまったようで複雑な思いがした。
 しばらく待ってみるけれど何の音沙汰もない。ここに来るのは久しぶりだけど、別に他人って訳でもないからいいだろう。
 汗だくで疲れた体を早く休めたくて、早々に自己判断すると中に入ることにした。

「ごめんくださーい、誰かいませんかー?」

 声を掛けながら靴を脱ぐけれど、帰ってくる声の1つもない。
 昨日のうちにオレがここへ来ることは知らされているはずなのに、そろいもそろって玄関に鍵もせず留守にするとはなんと不用心なのだろう。
 自分が今住んでいる都心部じゃ、空き巣に入られても文句も言えない。
 ずかずかと中に入り込むと、ひとまず居間へと足を進めた。
 キレイに片付いた部屋を一通り眺めると、別の部屋へと移動する。最後に従兄弟の部屋へと入ると、やはりそこにも姿はなくて、ホッと胸を撫で下ろした。
 彼も今は高校3年。今年が大学入試だって話だ。結構頭はいい方らしく、高校だって県内のトップクラスに進学したと、いちいち母親はオレに伝えてくる。しかも小さい頃はあんなに仲が良かったのにと、何も知らないくせにチクチクとオレの後ろめたい気持ちを刺激してくるのだ。
 勉強机の上には学校で使っている教科書のほかに参考書などか積まれている。どうやら噂通り、勉強は欠かさずしているようだ。あの小さかった彼が、そんなガリ勉になっているなんて想像もつかないけれど、やっぱり黒髪に眼鏡なんてかけたりしているのだろうか……?
 成長した彼をイメージしてみるけれど、オレの記憶はやはり13歳の彼で止まったままだ。
 部屋の片隅に置かれたパイプベッドに腰を掛ける。
 このベッドで彼は毎日寝ているのか……。もしかするとこの部屋に、彼女を連れ込んだりもしているのだろうか?
 そう思うと胸がズキリと疼く。
 あの日以来、オレの欲望の対象は1人しかいない。叶うはずのない相手だからと諦めようとしたことも何度もあった。それでも別の誰かと付き合うたび、原点に立ち戻る。
 オレは従兄弟のことが。あの小さくて可愛い弟のように思っていた彼のことを、今では1人の男として、あさましく恋愛の対象にみていた。




 Rシーン多めの(多分)短めのお話を更新します
 少しの間ですが、お付き合いください
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逢魔が時の幻惑(R18) その2

 一部性描写を含みます
 苦手な方、年齢を満たしていない方の閲覧はお控えください




 いつの間にか従兄弟の部屋で眠ってしまったようだ。目を開けるとすっかり部屋は夕日色に染まっていて、差し込んでくる光が眩しくて暑くて堪らない。

「起きた……んだ?」

 聞きなれない声がしてオレはそちらに目だけを向けるけれど、逆光になっているから顔が見えない。

「誰……だ?」

 寝起きでぼんやりした頭を抱え、目を細めてもっとよく見ようとする。それでもやはりわからなくて、その暗く影を落としている人物に尋ねた。

「ひどいなぁ、僕のこと忘れちゃったの? おにいちゃん」

「その声……」

 ビクッと弾かれたように体を起こすと、その声の持ち主がゆらりと動く。
 カーテンが閉められ、強すぎる夕日の光が遮られる。そこには幼い頃の面影を残した従兄弟が、確かに成長した姿で居た。

「来るってのは話には聞いてたけど、まさかこんな所で寝てるとか……びっくりしちゃったな」

 艶やかにほほ笑む彼は、さっきまでオレが勝手に想像していたガリ勉なタイプではなくて。茶髪で小麦色の肌、勉強そっちのけで遊びまくっていそうな、見た目から軽薄そうで今どきな高校生に見えた。
 にしても、あまりにも変わり過ぎだろう。
 オレの後ろをついて歩いていた幼くて可愛かったあの頃の彼と、今ニヤニヤしてオレの前にいる彼が同一人物だなんて思いたくない。いや、可愛いのは変わらない。それに付け加えて色っぽささえ感じるからこそ、信じたくないのかも知れない。

「どうしたの? 何か僕の顔についてる?」

 じっと見つめていると不思議そうに首を傾げながらオレに近づいてきて、その綺麗に整った顔を寄せてくる。慌てて彼から後ずさって離れると、楽しそうにケラケラと声を立てて笑い出した。

「そんなに慌てることないじゃん。何かやましい事でも考えてんの?」

「や、やましい? そんなわけあるはず……」

「だよねー? なのにさぁ、……どうしてココこんなにしてんの?」

 壁に背をつけ追いつめられたオレを、意地悪な光を宿した瞳で見下ろすと、彼は片足をベッドに乗り上げオレの股間にそのつま先を押し当てた。
 寝起きってこともあってオレのそこは硬く持ち上がり、彼に触れられたことでまた一段と大きくなる。

「へぇ……、こんな風にされてまだおっきくなるんだ」

「やっ、やめろ」

 怯えた声をあげるオレを侮蔑の目で見ると、彼はクスッと口角を上げて笑った。
 自分の分身をグリグリとズボンの上から踏みつけられ、足の裏で擦り上げられる。こんな屈辱的な事をされてさえ反応している自分に自己嫌悪を感じながらも、心のどこかではこの状況を甘受してさえいる。

「嘘つきだな。嬉しいんだろ? こんなコトされて興奮するなんて……ヘンタイだね」

「なっ……」

 じっくりと体の変化を観察され、言い当てられて言葉を失う。
 一気に体温が上昇して熱くなって、彼の顔をまともに見れない。

「僕から逃げ出してったあの日から、今まで顔を見せにも来なかったくせに」

「ナ、ツ……」

 顔を背けたオレを責めるように、彼の声が低く耳に届いた。
 オレは彼の名前を呼ぶ。すると突然彼は着ていたTシャツをオレに見せつけるようにゆっくり脱ぐと、オレの体の傍らに落とした。

「ねぇ、その服嗅ぎながら、自分でして見せてよ」

「えっ……なに言ってん、だ?」

「出来るでしょ? それくらいさ」

 信じられないことを要求されて言葉に詰まる。ほら、と彼は器用につま先でオレのチャックを下げ、隠すことも出来ない状態になっているオレのを嬲るように足の指先で軽く蹴りつけた。 
 
「な、ナツっ!?」

「自分がしたことを忘れたなんて言わせない」

 キッと強く睨み付けられて、その視線の鋭さにハッと息を飲む。
 やっぱり、あの夏の日を彼も忘れてなんかいないことがはっきりする。
 もしかして、あんな風に彼の『はじめて』を奪ったことを恨んでるのだろうか?

「お願い、聞いてくれるでしょ? ねぇ、おにいちゃん……?」

 意味深にオレのことを『おにいちゃん』と呼ぶのも、わざとオレに罪悪感を抱かせるためなのだろうか?
 疑念を抱きながら、彼の真意を探ろうと見つめるけれど、冷たい双眸は何も映さず。その胸の裡を読み取ることはできない。
 彼のシャツを引き寄せるとそれを顔に近づける。懐かしい彼の匂いがして、胸が締め付けられる。なのにオレの下半身は……みっともないほどに興奮を示して、自分で触らないうちから下着を濡らして染みを拡げていた。




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逢魔が時の幻惑(R18) その3

 一部性描写を含みます
 苦手な方や、年齢に満ちていない方の閲覧はご遠慮ください





 シャツを自分の顔に押し付けると彼の匂いに包まれる。穿いていたズボンを下着ごと膝まで引き下げて、股間で隆々と屹立したそれを自身の手で包むようにして持つ。
 とんでもなく卑しい姿を従兄弟の目に晒している。こんな恥ずかしい行為、人前ですることじゃない。わかっているのに、やめることができない。彼に自分の痴態を見られている。それだけで異常なほどの興奮を感じてしまって、自制が聞かなくなっている。
 正常な精神なんて、すっかり焼き切れてしまっているのかもしれない。
 彼はオレの傍らにこちら向きに座ると、ゆっくり手を伸ばしてきた。戯れのように彼の指がオレの滾りに絡まり、鈴口から溢れだす先走りを拭う。

「ふっ……はっ、あっ……」

 触れられて、思わぬ刺激を与えられるとゾクゾクっと背中を見知った感覚が通り抜けていく。ぐぅっと体を強張らせると、根元を強く握って耐えた。

「やっ、めろっ……触んなっ」

「いいだろ、別に。手伝ってあげてるんだし、遠慮することないよ」

 息も絶え絶えになって睨みつけるオレを見ても、彼は平然と笑い無遠慮にオレの陰茎を掴み上げ、上下にスライドさせて扱きあげた。
 どういう訳かやけに慣れた手つきにオレはすっかり翻弄されて、熱い吐息を漏らしてはその手に自身を擦りつけるように腰を動かしてしまう。

「イケよ……カズにぃ……」

 耳元で囁かれて、生暖かいものが耳朶をヌルリと這った。
 甘く腰が蕩ける。ズクンと重いような痺れが広がって、足の脹脛がピィンと張る。

「く、ぅっ……」

 ビクンビクンと体が小刻みに震え、息を止めた瞬間。目の前が真っ白になって、自身の手に包まれた欲望の先端からは、勢いよく白濁とした液が飛散した。
 跳ね上がった精がパタパタとシーツと彼の手を濡らす。はぁっはぁっと忙しなく息を吐くオレを、彼の目が熱を持って見ていた。

「すごい……たっぷり出ちゃったね。もしかして溜まってたの?」

 オレの体に乗り上げて座ると、彼は自分が興奮しているのを隠しもせずにオレを見下ろしている。

「ナツ……?」

 強要されたからとはいえこんなことをしてしまった自分がショックなのと、イッた後の倦怠感で何も考えられないオレに、彼は満足そうにそして妖艶な笑みを向けた。
 
「これで、おあいこ……だね」

 スルリとオレの上から降りると、新しいシャツを取り出して着てしまう。 
 そして何事のなかったように扉を開けると、まだベッドにいるオレに冷めたような目線を向けた。

「そこ、ちゃんとキレイにしておいてよね。自分が汚したんだから」

 パタンと扉が閉まり、階段を下りていく足音が続く。
 はぁ……と大きくため息をついて、オレは身体をゆっくりと起こした。
 嘘のような現実を、どう受け止めていいのかわからない。これは彼なりの仕返しなのだろうか。だとしたら、これで終わりになるのか……? 
 夕日はすっかり山の向こうに落ちたらしく、空は暗く沈んで夜の様相を見せ始めていた。


 階下に降りるとそこには伯母さんが戻っていて、台所で夕食の支度をしているのが見えた。声を掛けるとナツから寝ていたことを聞いていたのか、驚かれるという事もなく逆に仕事が大変なんでしょうと労われ、ゆっくりしてなさいなんて優しい声までかけられてしまった。久々の来訪なのに、以前と変わりなく受け入れてくれるのは嬉しいけれど、つい先ほどまでのことを思うとどんな顔をしていいのやらわからない。

「そうそう、みんなが揃ったら早速ご飯だし。先にお風呂、済ませちゃいなさい」

 居間に行こうとするオレを、伯母さんが思い出したように引き止めた。
 ここへ来るまでに大量の汗をかいたことだし、特にすることもないからその申し出を喜んで受け入れる。けれど、ずいぶん用意周到だなと訝しく思った。

「酒の相手をしてもらうって張り切ってたから、今夜は覚悟した方が良いわよ」

 なんて軽く付け足して言われて、そう言う事かとか納得する。
 伯母さんの所の2人いる内の子どもは、1人は高校生。もう1人も中学生で未成年なのだ。いつもとは違う晩酌の相手に2人とも期待してるわけだ。

「……わかりました」

 あまり酒は得意ではないけれど、期待されているみたいだから応えないわけにもいかない。やれやれと肩を竦めるとオレは荷物を取り、そして風呂場へと向かった。




 いつの間にか20万アクセス到達してました!
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逢魔が時の幻惑(R18) その4

 一部性描写を含みます
 苦手な方はご遠慮ください



 予告通りに風呂から出てくると待ち構えていたように、伯父さんと祖父の2人が晩酌の準備も万端に整えて待機していた。
 手招きされて彼らの前に座ると、まずは軽く一杯とビールを勧められる。
 グラスを手にすると、なみなみと琥珀色のよく冷えた液体が注がれて、カラカラに渇いた喉を潤すように一気にそれを煽った。
 それからどれくらい経ったのだろう。夕食が始まり、伯父さんと祖父の話を適度に聞きながら相づちを打つ。その一方で、同じテーブルにいる従兄弟の視線を痛いほどに感じていた。
 何かを言いたそうにしているのに、目を合わせようとするとすぐに逸らされる。つれないその素振りに、彼の気持ちがつかめない。気になるのに、それを口にするきっかけをオレは見つけられなくて、気がそぞろになっている。

「ごちそうさま」

 早々と夕食を終わらせて、ナツは席を立った。食べ終わった自分の皿を手に持つと、台所へと行ってしまう。

「なっちゃん、もういいの?」

「ん」

 伯母さんの問いかけにもこれといった愛想もなく、短く答えると2階の自室へと上がっていった。

「もう、せっかく久しぶりにカズくんが来てくれたのに……ねぇ」

 前はあんなに仲が良かったのに、と言わんばかりの口調だから、オレは愛想笑いをすることで答えた。
 どうしてなのか理由を知ったら、きっと卒倒してしまうに違いない。

「ああ見えて、カズくんが来るのを楽しみにしてたのに。久しぶりだから照れてるのかしら?」

 伯母さんは首を傾げ、片頬を手で押さえて不思議がっている。
 あんなことをオレに要求しておいて、今さら『照れてる』なんてありえないと思うんだけど。それ以上に疑問なのは……。

「楽しみに……していたんですか?」

「うちに来るって聞いた時のなっちゃんの顔。見せたかったわ」

「へぇ……見たかったな。それは」

 伯母さんの様子を見る限りでは、あからさまな嫌悪感を示していたわけではなさそうだ。そこまで嫌われているわけではないことを知れて、小さな安堵を得る。どんな顔をしてオレが来る知らせを聞いたのか、その時の彼の表情を見てみたい。本気でそう思った。

「カズくん、久しぶりに来たんだ。もっとイケるんだろ? もっと飲め」

「いや、……もう結構いただいてるんで」

 不意打ちで伯父さんにビールを注がれてしまった。
 大学の飲み会、社会人の付き合いと、酒を飲む機会はそれなりに経験してきたし、自分の限界量も知っているつもりだ。それなのに勧められるとその押しの強さに根負けして、オレはその後も自分の許容量を完全に超えて更に飲まされることになった。
 フラフラになりながら、伯母さんが用意してくれた布団に倒れ込む。そのまま目を閉じると天井がぐるぐると回っているような気がした。

 襖が静かに開くのを感じて目を開けた。そうすることで眠っていたことに気付く。
 部屋の輪郭がぼんやりとして見えている中。襖を背にして立っている人影を見つけ、慌てて体を起こした。

「っ、誰だ」

「しっ……」

 焦るオレにその影が体を屈ませ、口元に人差し指を当てて近づいてくる。
 くっつきそうなくらい顔が寄せられて、ようやくその正体がわかった。

「ナツ……」

 どうしてこんなところにいるのだろう? しかもこんな夜中に足音を忍ばせて……。

「わかってるんじゃないの? 僕がここへ来たワケ」

 薄ら笑いを浮かべ、上半身を起こしたオレの足の上に跨ると、向き合うようにしてそこに座り込む。
 そのままで固まっているオレの肩に自分の腕を回すと、少し顔を傾け唇を寄せた。

「続き……しよ?」

 彼の唇が短く魅惑的にそう動くのを、オレは瞬きもせずに見つめていた。

 くちゅくちゅと濡れた音が、互いの唇を貪りあうたび聞こえてくる。唇の表面が敏感になって、触れ合うたびに痺れるような快感が頭の奥をジンと鈍くさせた。
 どんなに彼とこうなることを望んだことかわからない。
 けれどこれは、本当にオレが夢見た形だといえるだろうか?
 まだ、自分は何も伝えていないというのに。まだ彼の気持ちをはっきりと確認したわけではないのに。こんなに簡単に。一時の欲望に流されて、思いを遂げてしまっては……以前の自分と同じになる。

「ナツ……ダメだ。こんなのは」

 彼の体を無理矢理に引き剥がし、オレは一歩の所で踏み止まることに成功する。

「……どうして? いいじゃない。気持ちいいコトしようよ」

「オレは……そういう軽い気持ちでするのはイヤだ」

 制止しようとするのも構わず、彼はオレに手を伸ばして来ようとするから、はっきりと言って断る。

「なに……それ」

 ピタリと動きを止め、彼は俯くと憮然とした口調で呟いた。
 ナツと彼の名を呼ぶオレを、煮え滾るような怒りのこもった目で睨み付ける。

「あの日。自分から僕に手を出したんじゃないか。その上1人っきりにして、僕から逃げて、ずっと姿も現さないで……。ようやく会えたと思ったら、今度は……僕を拒絶するの?」

「ナ……ツ?」

 彼の声が途中から張りがなくなって、最後の方は弱々しくなる。
 ポタリとオレの胸の上に雫が落ちてきて、そして気づく。
 キラキラと彼の頬を濡らしているものが、拭う事もせずに流れたままになっている涙だってこと。

「拒絶なんか……オレは」

 されることはあっても、オレがすることなんて絶対にないのに。

「したじゃないか、今っ」

「それは……」

 彼のことが大切で。自分の穢れた欲望で、汚してしまうのは嫌だったからだ。
 会わなかったのは、あんなことをしたオレを嫌悪する彼を見たくなかったから。
 大好きで、嫌われるのが怖くて……逃げてた。
 でももう、それも最後だ。

「オレは、ナツが好きだから。……だからもう、一方的にはしたくない」

 真っ直ぐに彼を見つめて、ずっと思い抱いていたことを告白する。
 彼の体がビクンっとして、吐息が震えるのがわかる。

「気持ち悪いって思われても仕方ない。……ごめん。明日には消えるから」

 オレの気持ちなど、受け入れられるわけがない。従兄弟で、しかも同性で。そんなのから告白などされても……。

「……気持ち悪くなんか……ない」

 ポツリと呟いたのを、オレは信じられない思いで聞いた。 

「だって、……僕も好きだ。カズにぃのこと……」





 すんません、ちょっと中途半端?
 続きはまた明日ってことで (>人<)

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逢魔が時の幻惑(R18) その5

 一部性描写が含まれます
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 彼の濡れた頬を両手に包み掬い上げるように上向かせると、ゆっくりとオレは上体を屈ませて薄く開いた口唇に自身のを重ねた。舌先で上唇を舐めると、それを合図に彼も差し出してくる。重ね合わせ絡めると、互いを滴る唾液が繋いだ。先程までの口交に比べ熱が入ってしまうのは、彼の気持ちを知ることができたから。同じだとわかってそれが嬉しいから、彼のすべてを感じとろうと神経が過敏になっているのかもしれない。
 くちゅっと濡れた音を立てて離れるのが名残惜しくて、何度も軽いキスを降らせる。

「んっ……、カズに、ぃ」

 もっと、と強請るように熱っぽく見つめられると理性が飛んでいってしまいそうだ。それを寸での所で踏みとどまるのは、並大抵じゃない。

「イヤだったらすぐ止めるから」

「そんなコト……絶対、言わなぃっ」

 彼の言葉を最後まで聞くこともなく、くすっと笑うと彼のシャツの下に手を差し込んだ。手のひらに素肌の滑らかさを感じながら、裾を手繰り上げる。すると指先に肌とはまた異なり、柔らかさを伴った小さな膨らみが引っかかった。

「そこ、……そんな風にされたら、ヘンな感じ……」

 体をピクピクさせながら、途切れ途切れに訴えてくる。
 どうやら乳首が感じるらしい。
 指先に触れる丸みを帯びた突起をきゅっと摘み上げると、彼はひんっと息を飲みオレを睨もうと顔を上げた。
 チャンスとばかりに、オレはもう一度彼の唇に吸いつく。

「ん……、んんっ、む、ぅ──」

 苦し気に声をくぐもらせ、せめてもの抵抗のつもりなのか、彼の手がオレのシャツの肩口を掴む。したいようにさせておいて、オレは構わず硬く変化した彼の胸の突起を指の腹でくにくにと捏ねてやった。

「ん、……ぅっ、ふぁ……あっ、くっ……」

 指先の動きに強弱をつけると、シャツを握りしめる彼の手に力がこもる。唇を塞がれているのが苦しいのか、顔を左右に振っては追いかけてくるオレから逃げようとしていた。唇がわずかに離れるたびに、彼の唇からは言葉にならない声が紡がれ、乱れた吐息が熱くオレの頬に当たる。
 この状態を続ければどうなってしまうのかなんて、とっくに見当がついていた。
 すでに切なげに彼の腰は揺れ、目は潤んで遠くを見るように焦点がずれ始めている。

「いっ……ぁ……はっ……、ぁっ……ぁ──っ」

 彼の腰の動きが激しくなり、オレの脚に自分のを擦りつけるように前後する。
 穿いたままのズボンに染みがたちまちにして広がって、まるでおもらしをしたように見えた。

「ウソつき……」

 はっはっ……と短く細切れになった息をつきながら、彼はオレの胸に額を押し当ててポツリと呟く。いつ自分がウソをついたというのか……。オレは彼の続きの言葉を大人しく待った。

「嫌な事はしないって言ったクセに……」

「……なら。やめても、良かった?」

 恨みがましく言うから、オレは意地悪く問い返す。
 弾かれるように体をビクンっとさせると、頭を左右に振った。

「ちがっ……そうじゃなくって……」

 否定し、わかって欲しそうにそう言うと視線を落とす。
 もしかして、自分だけが気持ちよくなって、イかされるのが恥ずかしかったのか?
 気まずそうに俯いたままの彼が可愛くて、胸がじんっと熱くなる。

「オレは、ナツに気持ち良くなってもらいたいんだよ」

「……カズに、ぃ?」

「オレ以外の男のことなんて忘れるくらいに……ね」

「あ……」

 驚きで体を大きく震わせ、彼は愕然とした顔でオレを見る。
 わからないとでも思っていたのだろうか。
 キスの仕方1つをとっても、彼がすでに経験済みだってことがわかってしまう。それに何よりも、オレの性器に自ら指を絡めて来たあの時、知識だけの行為ではないことをまざまざと感じてしまった。
 わざわざ、彼にわかっていると知らせたのは、今までの彼の過去を責めたいわけじゃない。そのことで少なからずオレがショックを受けたのは確かだ。だけど、彼のことを一番好きなのは自分だっていう自信があるから、それを知ってもらいたい。

「オレじゃないとダメだって。その体に教え込まないと、な」

「ばっ……」

 彼が顔を真っ赤にして文句を言い出す前に、汚してしまったズボンと下着に手を掛けると、素早く脱がせてしまう。
 彼のは未だ半勃ちの状態で、外気に晒されてヒクンッと目の前で大きく揺れた。それを見ると5年前に比べて、少し大きくなった気がする。

「そんなっ……まじまじと見んなよ」

 恥ずかしそうに両手でそれを覆い隠すから、苛めてみたい欲求に駆られる。
 しばらくその姿を見ていて、はたと閃いた。

「そういえば、せっかく夜這いに来たんだったよな?」

 彼がここへ来た目的。それを今更のように蒸し返すと、ナツは居心地悪そうに目を逸らした。

「どんなことをするつもりだったんだ?」

 ニヤニヤと笑い、問いかける。
 大体の予想はつくけれど、黙ってしまった彼をオレはじぃっと見つめた。

「それって……、僕にしろってこと?」

 しばらく考えた末、降参したように彼は言うけれど。それにも敢えて答えることなく沈黙で返す。 

「……」

 彼は自分のズボンを引き寄せると、そのポケットから小さな容器を取り出した。
 それを手に取ると、キャップらしいものを開ける。

「……僕のこと、忘れないように刻みつけてあげる」

 覚悟しろと挑戦的にオレを見つめ、彼はその容器の中身を自分の手の平にたっぷりと注いだ。



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