想いの行方

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想いの行方 1 R18

 お久しぶりです! 
 お話を更新するのは何か月ぶりになるのか・・・ 
 またしばらくの間おつきあいして下さると嬉しいです 

 今回のは、最初っからRシーンなので
 いつものごとく・・・ 

 年齢に満たない方、嫌悪感を感じる方の閲覧はお控えくださるよう
 お願いいたします m(_ _)m
 では以降を楽しめる方はこのままどうぞ~ 




 そこはオレと先輩の2人しかいない放課後の音楽室。その床の上でオレは獣のように這わされ、逃れようにも右手首にキツく食い込んだネクタイが、頭上にあるピアノの脚に結いつけられて自由を奪っている。機会を見ては左手を伸ばして解こうとしても、拘束は緩まることも外れることもなかった。

「ぃや……だ、も……放して。先輩」

 そんなお願いももう何度目になるんだろう。息も絶え絶えにお願いをしても答えが返ってくることはなく聞き入れてももらえない。それどころか思うように抵抗できないのをいいことに、彼の手はオレの身体の隅々まで余すことなく暴いていく。衣服が取り払われて無防備に露出した双丘のその奥が晒され、誰にも侵入を許したことのない場所を指と舌を使ってじっくり時間をかけて拡げられた。身体の奥から得体の知れない疼きが止めどなく生まれて、それが体内にじわじわと蓄積し溜まってくる。指の腹で内側を擦られる度にその入り口はヒクヒクとして、根元まで穿たれれば悦楽をねだるように吸いつき柔らかく蕩かされていた。こんなのは当然嫌悪すべきものなのに身体はまるで悦んでるみたいで、変化していく不安に震えが走る。

「コレだけ反応しといて、どこがイヤだってんだ?」

「うっ……く、ぅ」

 薄ら笑いを忍ばせた先輩の言葉に唇をかんで耐える。
 そんなオレを一瞥すると、それまで執拗に指で嬲り続けていた中心に己の熱い滾りを合わせた。一息に深くまで刺し貫かれ、腰を押しつけられると圧迫感が増す。入り口は柔らかく解されていても奥の方はまだ狭くて、内壁が強引に押し広げられる苦しさに息が詰まった。先輩の下で必死にもがいても、思ったほどの力が身体に入らなくて意味を成さない。

「ひぁっ……あ、……こんなっ……、ちがっ」

「違う? ……違うって何だよ? こうされたかったんじゃないのか?」

「そんなっ……こと、ないっ」

 乱暴に身体を前後に揺さぶられ、オレは息を呑んで漏れてしまいそうな声を押し殺した。彼の凶器を深々と咥えこまされた後孔は動くたびに濡れた音をさせ、敏感になった粘膜を絡みとって絶え間なくオレを責め立てて苦しめている。
 逃れようとずり上がった身体を引き戻されて、再び接合が深まる。貫かれたまま中を掻き回すように動かされると、そこから電気がびりびりと走って意識が飛びそうになった。

「いつも物欲しげに見てるじゃないか、気づいてないとでも思ってたのか?」

 耳元で低く囁かれて、ぞくんっと背中を這うような感覚が走り抜けていく。身体を反らしてやり過ごそうとするオレに、先輩が背後で笑った気がした。

「ホラ、お前のココは『もっと』って俺を締めけてるぞ」 

「んぁっ、……そんな、望んでなんかっ、なっ……」

 かぶりを振って否定してもそれを身体が裏切る。腰を揺らされゆっくり抜き差しをされると、その形までがわかるくらいに内側にいる先輩を締めつけて、食らいついて放そうとしないのを自覚させられる。これが自分の身体だなんて信じられなかった。

「本当に初めてなのかも、……怪しいもんだ」

「んっ……、あ……あっ」

 腰を打ち付けられて肌が鳴る。意地悪な言葉に反論するつもりにもなれなかった。
 先輩の手が脚の狭間を滑り、オレのを包み込む。やんわりと擦り上げられ、欲望で形を変えたそれは先端から溢れ出た透明な蜜でしとどに濡れて、彼の手の中でビクビクと跳ねるような動きをみせていた。自分の意思に反しているとはいえ、これだけあさましく快楽を強請る身体を晒していては、言い繕うことなどできやしない。

「あっ……はっ、ぁ……だ、だめだ……って」

 前と後ろの両方から与えられる刺激が強すぎて、全てを支配されそうで怖くなる。抗おうとしても先輩の行為は容赦がなくて、未体験のそれらに翻弄されていつしか自ら腰を揺らしていた。
 
「お願っ……ぃ、だから、……も、ぉ」

 彼の魔手から逃れようと、オレは懸命に自由にならない腕を引っ張った。キリキリと手首の締めつけが強まり痛みが増す。それでも脱出さえできるなら彼の手で惨めな醜態をさらすよりいくらかマシに思えた。
 そんなオレの努力も虚しく、限界がすぐそこにまで近づいてくる。大きな波が身体中を駆け巡り、蕩けそうなほどに甘くて鈍い感覚が腰の奥に集中して弓なりに背中が反る。

「んっ……ん、あぁっ……」

 どくんっと全身が脈打って両手足が強張った。いくら拒否したくても引き返すことができない衝動がやってくるのを感じて、声を上げまいと懸命に歯を食いしばる。身体の奥から押し寄せてきた極度の快楽が大きなうねりとなって、頭を甘く痺れさせ目の前が真っ白に飛んだ。その瞬間に脚の間でいきり立ち硬度を増した欲望の蜜口から、白く濁った液を迸らせ自身の下腹と先輩の手を濡らす。それより少し遅れてオレの中に先輩が深く身体を埋め、熱いものが注ぎ込まれたのを感じた。小さく呻くと両腕でオレの腰をしっかりと抱え込む。ぱたぱたと雫が滴り落ちてきて背中を濡らした。
 ようやくの解放とともに訪れたのは、早鐘のように打つ心臓の音と乱れた呼吸。気怠い身体を支えきれず床に崩れ落ちる。朦朧とした意識の中で振り返ると滲んだ視界にぼんやりと先輩の姿が映っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 3階の音楽室。その教室からは放課後になると毎日のようにピアノの音が聞こえていた。
 情報通なクラスメイトによると、ある生徒が特別に許可を得て使用しているのだそうだ。なんでもその人はコンクールに出場すれば確実に優勝しちゃうくらいの実力があって、ピアニストとしてのデビューも期待されているとか……。だけどどうしてロクに練習も出来ないこんな全寮制の学校にいるのかは全くの不明だという。
 当然そんな話を聞いては気にならないはずもなく。オレの足はピアノの音色に誘われて音楽室へと向かっていた。
 扉の前まで来るとさすがに緊張してしまう。学園から使用許可をもらってるなんて、考えてみればすごい特別待遇だ。
 一体どんな生徒なんだろう……?
 興味津々で少しだけ隙間を開けると、心地よい旋律がオレの耳に入ってきた。
 クラッシックなんて趣味じゃないから正直よくわからない。そんなオレでさえこのまま聞いていたい気持ちに駆られて、思わずその場に立ち尽くしてしまう。

「誰か、そこにいるのか?」

 ピタリと音が鳴りやんで、足音が近づいてくる。逃げるかどうか咄嗟に悩んだものの、足は全く動かなかった。
 扉が勢い良く開いて、目の前にその人物が現れる。
 ピアノを弾いてるなんて言うから小柄な体型の可愛らしい少年を想像していたオレは、その期待を裏切られて口をあんぐりと開けたまま彼を見上げた。
 ネクタイの色からすると2年生。身長はオレよりも10㎝くらい高いだろうか。黒髪と切れ長の目尻。愛想がイイとは言えなさそうな雰囲気を漂わせ、オレのことを訝しげに見下ろしている。

「なんだ? 1年か……」

 何の用だと言わんばかりの迷惑そうな口調に、オレは予め用意していたセリフで答えた。
 
「す、すみません。忘れ物……しちゃって」

「……」

「あの、取りに入っても?」

 不審そうな彼の態度にも負けずオレは中の様子を窺いながら尋ねた。どうやら音楽室には彼1人しかいないようだ。彼の身体を押しのけて、オレは無理矢理に中へと入る。そして自分が使っている机までやってくると身体を屈ませてその中を覗き込んだ。

「良かった、見つかった」

 それは授業中に配られたプリント用紙だった。それをわざわざ彼に確認させて、オレは喜ぶ素振りを見せつける。そう、ここへ来たのはすべて計画した上でのことだった。用もなく音楽室を訪問するほどの勇気はなく、かといって明らかな嘘をつける図太い神経もない。苦肉の策として考えたのが、本当に忘れ物をしてそれを取りに来ることだった。

「見つかったのなら早く出て行ってくれないか?」

「……」

 眉一つ動かさず素っ気ない言葉が返ってきて、オレは肩を落とすととぼとぼと扉に向かった。彼の早く出て行って欲しそうな様子を見ていると、せっかくきっかけを作ったというのに、このまま大人しくなんて帰ってやりたくなくてピタリと彼の前で足を止めた。

「あ、の……さっき先輩が弾いてた曲。最後まで聴かせて欲しいんですけど」

「はぁ? お前、何いきなり言ってんだ?」

「どうしてもっ! だって途中だったしこのままじゃオレ、気になって」

「そんなの今どきネットとかでゴロゴロ転がってんだろ?」

「オレ、曲名とか知らないし! それに先輩のっ、先輩のが聴きたいんですっ」

 絶対に引き下がるものかと彼を見上げて食い下がる。オレの剣幕に圧倒されたのか、彼は沈黙するとしばらく困った顔をしてオレを見下ろしていた。

「お願いします」

 目の前で拝み倒すと頭上高くから諦めたようなため息が聞こえ、彼の返事を待たず押し切る形で極上の笑顔で見上げた。

「……ありがとうございます。先輩」

「ったく、図々しいヤツ」

 彼は気に入らなそうに一言だけ漏らすと教室の奥へと向かう。その後ろを追いかけると、オレは彼の姿がよく見える特等席を陣取った。
 ピアノの前に座った先輩は、深く深呼吸をすると指を鍵盤に乗せた。
 軽やかに、まるで舞っているかのような指の動きにオレの目は釘付けになって、そこから奏でられるピアノの美しい音色に耳だけでなく心までもが魅了されてしまう。
 心地よい旋律に包まれて、オレは目を閉じる。
 ただ聴いているだけなのに、どうしてなんだろう……?
 授業で教師が弾くピアノとは全然音が違う。もっと、この時間を堪能していたい。彼が奏でる音楽をずっとずっと聴いていたいなんて願ってしまう。

「おい、……んだよ人がせっかく演奏してやったのに寝てんのか?」

「え、あ……」

 いつの間にか演奏は終わっていて、気づけば身体を揺らされていた。すぐには焦点の合わない目を彼に向けると、ぼんやりとしたその姿が徐々にはっきりしてくる。

「あ、……オレ。どうなってた?」

「……なんだ? イッてたのかよ、……エロいヤツ」

「いってたって何? オレ、途中からすごい気持ち良くて。ってか、いつの間に終わっちゃったんですか?」

「……」

「こんなの初めてで……よくわかんないけど。オレ、先輩のピアノ……好きだ」

「は、あ? 今度は告白か?」

 彼の言葉に、自分が何を口走ったのか改めさせられて急激に恥ずかしくなった。いくら惚けていたとはいえ、何をいきなり告白めいたこと言っちゃってるんだろう。だけどオレは感じたことをそのまま正直に言っただけだし、好きなのは彼の弾くピアノなんだし。別に変なこと言ったわけじゃない……よね。
 そんな言い訳がましいことを自分に言い聞かせてみたけど、顔が熱くなるのを感じてガタガタと席を立った。

「ねぇ、また来てもいい? 良いよね、オレ邪魔は絶対しないって約束するし。ただ聴かせてもらえるだけでいいから」

 言いたいことだけ言うとオレは机の間をすり抜けて先輩から逃げるように離れる。彼の返事も待たず音楽室を飛び出すと、オレは一度だけ振り返って、そして弾むような気持ちで階段を駆け下りた。


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想いの行方 2


 すみません、お話の都合上ちょっと短めです m(_ _)m





 その日を始まりに、オレの放課後は音楽室で過ごすのが日課になった。
 最初のうちは教室から締め出そうとしていた彼も、毎日相手をするのが面倒になったのか今じゃすっかり諦めたようだ。そんなことに労力を割くよりはオレの存在自体を無視することにしたのだろう。それを良い事にオレは音楽室に通いつめ、気の済むまで彼の奏でるピアノを堪能する。相変わらず誰の作曲でなんていう曲名かはわからないけれど、そんなことを知らなくてもオレは充分満足だった。それに先輩の練習を邪魔はしないという約束だったから、交わす会話もほとんどない。
 だけど、少しくらい自分に興味を持ってくれてもいいんじゃないか?
 こちらのことを気に留めるふうでもなく、ただ黙々とピアノを弾いている先輩をチラリと見て、そんなことを不満に思う。
 ここに通うようになってからもうすぐ2週間が経とうとしていた。それなのにいまだオレは彼から名前すら聞かれていない。彼からオレに用があるときは『おい』とか『お前』とかそんな感じで呼ばれるんだけど、そんなことは本当に稀で。オレは彼の名前を知ってるっていうのに、なんだか不公平な気がしてならない。
 先輩の名前は須藤 七臣(すどう ななおみ)。この学園内には彼のファンなんかもいて、『音楽室の君』なんて密かに呼ばれているらしい。確かに外見はさほど悪くない。話し方はちょっと粗暴で取っつきにくいけど、基本的に性格は物静かだし、無駄におしゃべりでもない。それに、彼がピアノを弾いている姿は、なんというか格好良くて色気がある……なんてことをこっそり思ってたりするのはオレだけの秘密だ。

「……あ、この曲……」

 聞き覚えのあるメロディに、オレは現実へと引き戻された。

「エリーゼのために、だっけ……?」

 疎いオレですら知ってる。オルゴールなんかでもよく耳にする明るい感じのフレーズ。と言っても最初の方しか知らない。いつものように耳を傾けようとした時、曲調は突然ガラリと変わった。押し迫ってくるような低音が単調に鳴り響き、不安を助長する高音の旋律。そして高みへと昇っていき頂点に達したと思ったら今度は転げ落ちていくかのような……。
 突如として胸が押しつぶされそうな辛さを感じて、オレは演奏中の先輩を見つめた。ピアノに向かっている時の真剣な眼差しはいつもと変わらない。だけど何かが違う。先輩が生み出す音のひとつひとつがオレの胸を締めつける。
 苦しくて、悲しくて……切ない……?
 何の根拠もなくそう思った時だった。

「お前……なんだ? 泣いて、るのか?」

 突然音が止まって、驚いたような先輩の声にビクンッと体が震えた。頬に手を遣って確認すると濡れた感触がして自分でも呆然とする。

「えっ……なんで? どうして……」 

「それはこっちのセリフだ……。本当に、何なんだ? お前……」

 不審気で不愉快そうな声が思ってたより近くから聞こえて、彼の手がオレへと伸びてきた気配に反射的に後ずさって躱していた。どうしてなのかわからないけれど触れられたくなくて、すかさず自分のカバンを掴むと反対の手の甲で涙を拭き取りながら、大急ぎで彼の横をすり抜ける。

「ごめ……、んなさい。オレ、今日は帰る……から」

「おい、……お前、待てよっ」

 引き止めようとする声がしたけれど、それを振り切って音楽室から逃げ出した。脇目もふらず階段を駆け下りると、1階まで一気に下ったところで足を止める。はぁはぁっと短く息を弾ませながら壁に寄り掛かると、そのまま廊下に座り込んでズキズキと痛みを訴える胸を押さえつけた。

「ワケわかんない……」

 とにかく、一刻も早くあの場所から立ち去らなきゃいけないような思いに駆られて、ただそれだけの理由で逃げ出した。すれ違いざまの先輩の顔を思い出して膝に顔を埋める。見間違いかも知れないけれど、一瞬寂しそうに見えて。それが残像の様に目の奥に焼き付いて離れなかった。



「なぁ、お前さぁ。最近音楽室に入り浸ってるって本当かよ?」

「ん? ああ……それが何?」

 それは昼休みのこと。一緒に食堂へ行った友人の1人が声を潜めてコソコソと話しかけてきた。別にそのことを隠しているわけではなかったから、オレは至って普通に返答するとその態度に呆れたようにため息をつかれた。

「ああって、お前……。よくあの先輩に受け入れられたもんだな」

「ん……、そうかな?」

 先輩に受け入れられたなんて思ってもない。オレがあまりにしつこかったから、それで仕方なく許されているだけのことだ。きっと今でも彼はオレがそのうち飽きて来なくなることを望んでるに違いない。

「ご本人には自覚がないってか? でもあの先輩って相当な人嫌いで有名だろ?」

「へぇ……そうなんだ」

 それは初耳。でもまぁ、言われてみれば確かにそうかもしれない。初めて会った時の迷惑そうな顔を頭に浮かべて、あれだけ愛想がなければ誰だって近寄りがたいはずだと思いなおすとオレはふっと笑みが零れるのを押さえられなかった。

「そうそう。それでも1年前には1人だけ、あの人が気を許す人がいたって」

「……ひとり?」

 あの先輩にそんな相手がいたなんて……。信じられないけれど1人だけっていう所が妙にリアルを感じさせて。一体どんな人物だったのか知りたいような知りたくないような、複雑な思いに駆られる。それでももっと詳しい話を聞かせろと身を乗り出して催促すると、それまで隣で話を聞いていた奴も会話に参戦してきた。

「あぁ、その話なら俺も知ってる。卒業しちゃってもういないんだろ? その人」

「そ。でもって卒業と同時にその先輩とも終了……それでずっと1人って」

「しかもその先輩を追っかけてこの学校に入学してきたって噂だぜ?」

「そこまでしても結局別れちゃうんだから、儚いよなぁ」

 2人は同情するかのようにため息交じりにそう言うと、今度は心配そうな顔をしてオレを覗き込んで来た。

「なんだよ? お前たち何が言いたいんだ?」

「いやいや……桜海(おうみ)だって充分可愛いんだから。気をつけろよな」

「はぁ?」

「一度フラれて痛い目を見てる男って、何するかわかんねぇだろ?」

「ばっ……バッカじゃねぇの? 何考えてんだよっ」

 ここは全寮制の男子校で、そんな特殊な環境だから同性との恋愛もこの学園内では珍しい事ではない。だからって相手にだって好みってものがあるわけで、多分誰でもいいはずはなく……というか。どうしてこいつらにそんな心配をされなきゃならないんだ?
 そう思うとフツフツと怒りが沸き起こってくる。

「心配してやってんだぜ? 可愛い桜海ちゃんがキズモノにならないようにさ」

「……んだよ可愛いって。大体そういう事言うなっ」

 2人が面白がってオレをからかっているのは丸分かりだ。いい加減にしろよとばかりに2人に蹴りを入れると、おどけて笑いながらオレから逃げていく。追いかけるわけでもなく彼らを見送ると、オレは不意に足を止めていた。
 先輩が練習もままならないこの学園に入学した理由。もしかして本当に好きな人を追いかけてきたんだろうか?
 そんなふうに思うとキリッと胸を鋭い痛みが走った。
 あの日、あの曲を聴いてからなんだかおかしい。前みたいに先輩のピアノを聴いていても心はどこか落ち着かなくて。彼の事ばかり目で追い掛けてしまう。

「どうしちゃったんだろ……オレ」

 疼きの残る胸を押さえて、オレは音楽室がある校舎を見上げた。

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想いの行方 3



 ベートーベン作曲の『エリーゼのために』は、彼が恋した女性エリーゼに捧げた曲だ。2人は恋に落ちるが、エリーゼは貴族の娘でベートーベンとは身分違いのために関係は許されず、やがて破局を迎える。
 この曲の始まりは互いを愛しく思う慕情、そして後半の激しいところは周囲に反対され辛く悲しい想い、それらに対する葛藤を表現している……のだそうだ。
 どうしてもあの時流れ込んできた感情の理由が知りたくて、手始めにとあの曲のことを調べてみたんだけど。そんな背景があったなんてオレは全然知らなかった。ただ、先輩はこういうことも知っているんだろう。ということは、先輩は自分の過去と『エリーゼのために』の逸話を重ね合わせてたんじゃないかなんてことが考えられる。もちろん意図的にそうしたのかはわからないけれど、少しくらいは感情移入していたはずだ……なんて。この間友人から聞かされた話とその後独自で調べたことも加味して、そんなふうに結論付けてみたけど。
 だけど、例えその通りだったとして。どうしてオレが胸を痛めたり涙したりするんだ?
 一番の謎が解けそうなのに解けなくて、スッキリしない。

「おい。心ここに有らず、かよ?」

 先輩がピアノを弾くのを中断すると珍しく話しかけてきた。オレは頬杖をついてピアノの方へ視線を向けると、さも不機嫌そうな様子の彼を見つめ返す。

「先輩。エリーゼのために、弾いてよ」

 なんとなくだけど、もう一度聴けば確かめられるんじゃないかと思った。
 突然のオレのリクエストに彼は一瞬戸惑った顔をしたけれど、ピアノに向き合うといつものようにすぅっと深呼吸してから指を鍵盤に乗せて奏で始めた。
 誰もが知っている有名な始まりにオレは耳を傾ける。そうしているうちに彼が紡ぎ出す物語に引き込まれていく感じがした。
 明るく楽しさに満ち溢れた仲睦まじい2人だけの日々。永遠に続くかのように思われた幸せからやがて訪れる不穏。許されない恋と苦しみ、周囲からの批判。押し切れる力はなく気持ちは揺らぎ、翻弄され、そして常識という壁の前にして決意した別離。1人になり打ちひしがれる彼が夢見るのは楽しく美しく彩られた過去の記憶。
 そんなイメージが音と共にオレの中へと流れ込んできて、苦しくて切なくて……堪らなくなる。

「……も、いい」

 最後まで聴いて、それまで抱えていたモヤモヤの理由がようやく分かった気がした。どうしてこの曲でオレを悲しくさせるのか。そして、この場所に居てはいけないと感じるのか。思い返せば最初っから彼の態度に表れていたんだ。

「よくわかった……から。オレ、もうここには来ない」

「何、突然言いだしてんだ?」

 訳が分からないとばかりに勢いよく立ち上がった彼から静かな怒気を感じて、間合いを取るべくオレは床に置いていたカバンを取り上げ肩から下げた。

「大体、お前がリクエストしたから弾いてやったんだろ? なのに何怒ってんだ?」

「別に……怒ってなんかない」

「俺にはそう見える」

 一歩また一歩と近づいて来たかと思うと、突然伸びてきた腕にカバンが捉えられる。なんとかグイグイ引っ張ってみるけれど、手を放してくれそうにない。怒ってるように見えるのはオレなんかより先輩の方だ。そう思ったけど口に出しては言えなかった。

「放してくださいっ」

「だったら、ちゃんと説明しろよ」

「そんなことっ」

 説明なんて出来るはずがない。先輩の曲を聴いて感じたことは全てがオレの妄想によるものだし、確証なんてものは一切ないのだから。勝手にオレがそう結論付けて思い込んでるだけの話だ。
 至近距離から口ごもったオレを覗き込んでくるから、目が合わないように視線を逸らす。

「逃げるなよ」

「逃げてなんかないしっ、それは先輩の方だろ」

 言われたことにカッとなって思わず口走っていた。自分の口を慌てて抑えたけれどすでに遅く、彼はオレの言った言葉に苛立ちを感じたのか眉根を寄せて睨みつけていた。

「……どういう意味だ? それ」

 怒りを孕んだ低い声。繊細な旋律を奏でる手がオレの胸倉を乱暴に掴み、そのまま力任せに身体を押されて、オレはよろめきながら数歩下がって壁に背中を押しつけられる。

「俺が? 何から逃げてるって?」

「……っ」

「言えよ」

 詰め寄られて強要される。押し返しても彼の力は思った以上に強くてビクとも動かない。

「忘れられないんだろ? だから思い出に浸ってるんだ」

「はぁ? 何、言ってんだ」

「1年前。付き合ってた人がいたんだってね。この学校の先輩で名前は藤宮 晴那(ふじみや はるな)って……」

「おまっ」

 名前を出した瞬間に彼の手の力が強くなった。首元を押されると思ったように息が吸えなくて苦しくなる。だけどそれ以上に、胸の奥が痛かった。だけどもう止められない。

「現実から逃避して、記憶の中にだけ生きるってどんな感じ?」

 自分自身でさえ嫌な言い方をしてると思った。こんなことを言われて怒りを感じないはずがない。だけど、それがわかっていても酷いことを言わずにいられなくて、彼を傷つけたいという衝動に突き動かされていた。
 しんと静かになって、空気が張り詰める。先輩の腕から力が抜けて、オレは圧迫される息苦しさから解放された。

「お前だったのか。最近俺のことを調べまわってるっていう1年ってのは」

 激しく罵られるのかと思っていたのに、予想に反して彼の声は冷静だった。
 オレは友人から聞いた話だけでは不十分に感じて、ここ最近の間に僅かなつてを頼りに何人かの上級生に接触していた。それを彼が知ってたことが意外で、どうしてなのか疑問に思う。先輩は他人に興味がないはずじゃないのか? だから自分に干渉してくるオレの存在は目障りだし、関わるつもりがないから名前も聞いてこなかったんだろう? 

「俺の過去を嗅ぎまわって、それでどうしたいんだ?」

「どうって……それは」

 別に何がしたいって訳でもない。ただ理由が知りたかっただけだ。それなのに先輩とその人の事を聞けば聞くほどモヤモヤした気持ちは溜まるばかりで、胸の痛みは消えなかった。
 どうしたいのかなんて、オレの方が知りたいくらいだ。

「突然現れて、迷惑もお構いなしに毎日のように押しかけてきて。放っておけば好き勝手にして……、お前は、何が望みなんだ?」

 思いがけず強い力で引き寄せられると、一瞬にしてその腕の中に抱きしめられていた。
 ふわっと空気が流れて、自身を取り巻く香りが彼からのものだと思うと、昼間に感じたのとは比べようにならないほどズキズキと胸が痛みだす。

「……な、にを」

 考えもしなかった彼の行為に、オレは混乱していた。見上げると間近に彼の顔があって、咄嗟にその胸を両手で押し退け距離を保とうとする。

「知ったのなら……お前まで、逃げるなよ……」

 先輩の言葉が耳元に聞こえて、それが呪縛かのように動けなくなる。
 影が見上げるオレの上に落ちてきて、柔らかいものが唇を塞いだ。
 荷物が床に落とされて、彼の手が器用に片手だけでオレのシャツをズボンから引き出す。裾を捲り上げた素肌に自分のとは別の温もりを感じて身体がピクンっと跳ねた。
 彼のもう一方の手はオレの頭を支えるように添えられていて、キスから逃れられないでいる。息をするのもやっとの口の端から、つぅっと唾液が一筋零れ落ちるのがわかった。

「せんぱ、い……」

 不意に足を払われて、姿勢を崩したオレはその場に倒れ込んだ。身体の上に先輩が乗り上がって、自分のネクタイを緩めて外すとオレの右手に巻きつける。抵抗をものともせず力づくで頭上に持ち上げられると、ピアノの脚に固定された。

「え、……あ、……何すっ」

「これでもう、逃げられない」

 彼は仄暗い笑みを浮かべると、身動きのできないオレへとその手を伸ばした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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想いの行方 4



 右手首についた痣はなかなか消えることはなく、あれから数日が経った今でさえうっすらと痕跡を残していた。
 あれから一度も音楽室に行っていない。
 いきなりあんなことをされたのだからそれは当然のことだけど、習慣にしていたことがなくなると放課後を持て余してしまう。

「あぁ──、ヒマぁ……」

 教室にはオレを含めた3人が何をするわけでもなくたむろしていた。自分の机に突っ伏して空を仰ぎ見る。会話に参加するわけでもなく、雲がゆっくりと上空を流れていく様を眺め穏やかな時間が過ぎていくのを感じていた。

「今度の日曜、どうするよ?」

「ん? ……あぁ、そうだなぁ。映画とか?」

「何か面白いのやってたっけ?」

「さぁ……あ、行くんなら生徒手帳持ってかないとな」

「桜海ちゃん、気が早ぇって」

 2人の会話を聞き、何気に早速カバンを探るオレに笑いながら友人が言った。
 いつもカバンのポケットに入れてるんだけど、探れど探れど見つからない。

「あれ……どこかにやったっけ?」

「何、もしかして失くしたとか? だっせぇ」

「ん──……、ってか本気でない」

 自分の部屋で出した記憶もなければ、最近使った覚えもない。あるはずの場所にないってことはもしかしてどこかで落としたのか……? だんだん焦りを感じてきてカバンの中までもひっくり返すけど、やはり出てくることはない。

「どこで落としたんだろ?」

 学園内で落としたのなら誰かが届けてくれてもいいはずだ。いつのタイミングで失くしたのかわからないけれど、名前もあるし写真だって……。

「意外に自分の部屋に落ちてんじゃねぇの? 帰ってよく探してみろよ」

「う、ん。そうしてみる」

 もしかして、あの時音楽室で落としたんじゃないよな?
 あの日。意識が戻った時にはすっかり部屋は薄暗くなっていて、オレは床に倒れたまま放置されていた。見渡しても先輩の姿はなくて、腕を縛っていたネクタイもすでに外されていた。節々の痛みと腰から下にかけての違和感を堪えて、自分の荷物を手繰り寄せ抱えると気怠い身体を引き摺るようにして音楽室を後にした。
 散々好きなように弄ばれた挙句に1人で置き去りにされていたことが、追い打ちをかけて惨めな気持ちにさせた。
 どうしてこんなことになったのか、先輩はどういうつもりでオレを抱いたのか……。いくら自問自答を繰り返しても答えはなく、頭の中は混乱していて酷い頭痛がした。
 寮に戻ってようやく張り詰めていた緊張が解けて、ベッドに倒れ込んだ後のことはまるで覚えていない。
 嫌なことを思い出してしまって口中に苦味が走り、ため息で紛らわせる。

「大丈夫かよ? 桜海の奴」

「ん──、元気ないよな。ここんとこ」

 背後にそんな会話を聞きながら、オレは教室を後にした。
 寮の部屋をいくら探し回っても見つからず、生徒手帳を紛失したことがわかってから2日が経ったある日のこと。 

「桜海、お客さん」

 休み時間にクラスメイトがオレの所までやってきて、廊下を示しながら言った。
 教室からは死角になっていて姿までは確認できない。仕方なく席を立って廊下まで出て行くことにする。
 教室から一歩外に出ると、そこで待っていた須藤 七臣を見つけて身体が凍りついたよう冷たくなり硬直する。完全に油断していた。あの悪夢のような日からもう少しで1週間が過ぎようとしていたし、先輩の方からオレを見つけ出しわざわざ会いに来るなんて思ってもなかった。

「桜海 知幸(おうみ ともゆき)って名前だったんだな。お前」

「なんでそんなこと知って……」

「生徒手帳。……持ってないんじゃないか?」

 やっぱりそうだったんだ、と思った。あの時のどさくさでカバンから落ちて、彼が拾って持っていたのならいくら探しても出てくるはずがないし、誰も届けに来ないわけだ。
 それにしても今頃になってオレの名前を知ったところでどうだっていうんだ。
 
「返してください」

 手を差し出すと彼は楽しそうにクスッと笑った。その態度が無性に腹立たしくて、オレは彼を睨み上げた。

「取りにおいで。放課後、音楽室に」

「誰がそんなっ」

 見え透いた罠に飛び込むヤツがどこに居るっていうんだ。
 あの日散々な目に合わせておいて、今更優しげな声で言われたところで騙されるわけがない。

「怖いのか?」

「そ……っなわけ、ないっ」

 一歩、彼が前に出る。それに合わせて思わずオレは後退していた。これじゃオレが彼に怯えていると認めているようで、気持ちを奮い立たせて一歩前に出てやると、そんなオレの強気な姿勢に彼は再び笑って見せる。

「待ってるよ、桜海」

 彼は少し屈んでオレの耳元に囁く。瞬間、背中をゾクッと冷たいものが走り抜け、オレは片手で耳を押さえると、すぐさま先輩を目で追い掛けた。目を細めオレの反応を満足そうに見て、それ以上は何もせず背を向けるとやけにあっさりと去って行った。
 何もかもが口惜しくて腹立たしかった。今頃になってオレの前に現れたことも、生徒手帳を人質に自分のテリトリーに呼び出すやり口も。きっと何か魂胆があるに決まっている。そうでなければおかしい。
 オレの中の警笛は鳴り響いていて、明らかに危険だと伝えている。けれどそれとわかっていて、こうして彼の領域に訪れているなんて、オレもとんだ愚か者だ……。
 久々にやって来た音楽室の扉を前にしてオレは大きくため息をついた。
 ドアノブを掴むとゆっくり回す。ギィッと軋み音がして隙間が開くと、初めて来たときと同じようにピアノの音が聞こえてきた。
 何度もここを訪れたけれど、その曲は多分初めて聴くような気がした。
 今度はどんなイメージでこの曲を弾いているのか……。
 そんなことを思うとまた胸がキリキリと痛みだす。

「桜海、来たんだな」

 ピタリと曲が鳴りやんで、奥から先輩の声がした。
 オレは教室の中に入ると扉を後ろ手に閉める。覚悟を決めてその声の主に姿を見せると、彼は嬉しそうに破顔した。

「先輩……?」

 一見、彼は上機嫌に見えるけれど。それが妙な胸騒ぎを引き起こす。
 手招きされても固まったままのオレに構わず、いつもオレが座っていた窓際の席の椅子を引くと言葉を続けた。

「ここにきていつものように座れよ。そうだ、好きな曲を弾いてやる。何がいい?」

「な、に……」

 訳が分からない。一体何だって言うんだ? もしかしてオレのことをからかってるのか?
 何を考えているのかわからない先輩の行動に、オレはどう対処していいのか注意深く様子を窺う。

「どうした? こっちに来ればいいだろ」

「……ふざけるな。誰がっ」

「用心深いもんだな。……じゃあ、これはどうする?」

 彼はポケットから小さな冊子を取り出すと、それを顔の高さで掲げた。
 逆光でよく見えないけどそれは生徒手帳に見えた。すぐさま取り戻したくて足を前に出したけど、それを見た彼の顔がほんの少し笑った気がしてその場に踏みとどまる。

「ん? どうした、取りに来ないのか?」

「それを机に置いて離れろよ。じゃないと行かない」

「へぇ。……そうきたか」

 感心したように彼は呟くとしばらく手にしている手帳を眺め、そしておもむろに背後の窓を開け放した。
 今度は何をする気だ? そう思った時彼は手帳を持った手を窓の外に出して、オレの方を見るとにっこりと微笑む。

「取りに来いよ。そうでなければ、ここから捨てる」

「誰が、そんな脅し……」

「本気でそう思うのか?」

 その窓の下は裏山に面している。藪の中に投げ捨てられでもしたら、おそらく探し出すなんて不可能に近い。まさかそんなことをするはずがない。そう信じたくても彼ならやりかねない気がして究極の選択を迫られたみたいに動悸がする。

「そうか……残念だな」

 彼の声が聞こえて、その手が一度こちら側に戻ってきたのがやけにゆっくりと見えた。
 投げ捨てられてしまう。それを確信した時、足が床を蹴って彼の元に飛び込んでいた。

「や、めっ」

「最初から素直に来ていれば優しくしてやるのに。どうして抵抗するんだ? 桜海」

 オレを受け止め頭上からする彼の声に、負けを認めざるを得ない。

「……卑怯者」

 睨みつけると後ろ髪を掴まれ仰ぎ見る姿勢を取らされる。詰るオレに彼は口の端を上げて見せるとその顔を近づけてきた。

「どうとでも言え。お前は俺から離れられない。……そうだろう?」

「ふざけっ……」

 唇が柔らかいもので塞がれ、吐息が封じられる。言葉を続けられなくなったオレの舌を吸い上げると、合わさったところからクチュリと濡れた音がする。背中をゾクゾクとした感覚が這い上がってくると今にも膝から崩れ落ちてしまいそうで、オレは両手を先輩の背中に回すと必死になって縋りついていた。

「あれから1週間。その間どうしてたんだ? 桜海」

「うっ、あ……」

 机の上に上半身を捩じ伏せられて、開いた脚の間に先輩の膝が割り込んでくると股間が押しつけられる。彼の膨らみを尻に感じさせられて、忘れてしまいたい記憶が呼び起された。
ブアッと全身から火が出るくらいに熱くなり、身体が震えだして逃げようともがくとさらに強い力で封じられる。

「覚えてるみたいだな」

「ぃや、だ……。やめろ」

「自分で慰めることもあったのか? それとも、耐えられずに誰かに抱かれたか?」

「だっ……」

 耳のすぐ近くで吐息交じりに囁かれると、それだけで身体を動かせなくなる。その上屈辱的な言葉で嬲られ、ロクに言い返すことも出来なくて悔しさだけが募っていく。
 先輩の手が服の上から尻の狭間に触れ、指がその場所に強く突き立てられる。喉の奥が鳴るほどに息を呑みこんでその衝撃に堪えるオレを、嘲るように笑うのを背中に感じた。

「放せよ、オレに触んなっ」

「口ではどう言おうが、抱かれたくて疼いてるんだろう?」

「ちがうっ」

 悪魔のような低い囁きを、首を振って否定する。だけど彼の手がスルスルと腰から前に伸びてきて、密かに欲望に孕んだ前身を包み込む。泣きそうなくらいに情けない気持ちになって、オレは自分の身体を支える机の天板をぎゅっと握りしめた。どれだけ抗おうと結局は彼の意のままにされる。その度に惨めな思いをするのはもうイヤだった。




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