蜜月の隣で~真実からの蜜月・サイドストーリー

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蜜月の隣で 1

薄暗い部屋で男にされるがままその唇を受け入れる。舌先だけで弾力を愉しみながら輪郭をなぞるように下唇を舐められ、それから深く合わさる。ゆっくりとしたペースは完全に男のもので、それに焦ったさを感じながら差し込まれた舌を軽く吸い上げた。

本当はこんなはずじゃなかったのに……。

そう思わずにいられなかった。
勇気を出して食事に誘い、お酒の力を借りて接近する。それだけでも十分だった。
のろけ話を聞かされたくなくて店を出ることを提案したオレは、伝票を持って先に会計に向かう高野の後ろを追いかけた。

そこには先客が2人居た。その奥の人物を見て、高野の表情が一瞬にして固まる。と、突然伝票がオレの胸に差し出され、反射的に受け取ってしまう。
理解するよりも先に察してしまった。その人が高野の大切な人なのだ……と。
 有無を言わさずその人と店を出ていく高野を見送り、取り残されたオレは仕方なく会計を済ませ、どこか心寒い気分で店を出た。

「もし良かったら、飲み直しに付き合ってくれないか?」

失意と共に帰宅しようとしていた足をその声が引き止めた。

「え……? オレ?」

振り返ると先に出て行ったはずのもう1人の連れの男が店を出たところに立っていた。

「どうせ帰るんだろう?」

この男の目には今のオレがどう映っているのだろう。全てを見透かすかのような、そんな目の持ち主だ。
1人で過ごすくらいなら……と二つ返事で承諾した。

最初は行きつけだと言うバーに入った。高級感漂う薄暗い店内はおおよそ同年代では来れないような重厚感でオレたちを迎え入れた。耳を傾ければ店内に流れるジャズのサウンドと、カウンターからはシェーカーを振る小気味良い音がする。

「こんな高そうな店、オレには」

「何を言ってる? いいから、何か頼めよ」

そう言われてメニューに目を通してみる。が、目に付くのは価格ばかりで目が回りそうになる。

「早海様、お久しぶりです。本日は何にされますか?」

「俺にはいつもので……こいつには何か作ってやってくれ」

オレに決めさせるのは難しいと判断したのか、足音もなく現れたスタッフにそう頼む。
そのスタッフは幾つかオレに好みなどの質問をした後去って行った。

「本当によく来るんだね、この店」

スタッフとの会話と、今座っているこの席も案内される時に『いつもの席』と呼んでいたことを思い出す。

「なんだ?疑っていたのか」

「そうじゃないけど……」

男の身なりを見れば大体のステータスは分かってしまう。
決して既製品ではなさそうなスーツと靴。それから整えられて後ろに流した髪。身に纏う空気感までが違いを教えて来るようだ。だから、この店が行きつけだと言うのも至極当然の事だと素直に思える。
だからこそ、自分があまりにも浮いた存在だと自覚させられた。

「そういえば、名前……」

 出会ってからここに来るまで名乗り合いもしなかった。
 なんだかそういう感じにはなれなくて、あえて聞くこともなかった。けれど、なんと呼べばいいのかわからなくて困る。

「オレは玉城。玉城 由宇(たまき ゆう)」

「ゆう?」

「女みたいな名前だって思ってるんだろ?」

 今までだって散々そう言う事を言われてきたから男が名前を繰り返したのも同じだろうと思った。

「いや……いい名前だな。お前に似合う」

 ちょっと考えて、早海はそう言ってくれた。その言い方が気障っぽくて恥ずかしさがこみあげてくる。だが、全然嫌味っぽくなくて、この男にはそれが似合っていた。

「あなたは……? 『早海』さん?」

 顔が勝手に赤くなるのを感じながら、オレはそう店員に呼ばれているのを思い出しながら尋ねた。

「早海 正嗣(はやみ まさつぐ)」

 男はどこか笑みを含んだ顔でオレをまっすぐ見つめそう答えた。


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蜜月の隣で 2

しばらくして、テーブルには頼んでいたカクテルと水割りが運ばれて来た。

「美味しい……」

一口、舐めるように口を付けただけだったが、あまりの好みの味に感嘆する。

「良かったな」

まるで自分が作ったかのように満足そうな顔をする早海を見て苦笑する。自分が作らせたのだから、手柄は自分のモノだとでも言い兼ねないと思ったからだが、そんな事到底本人に言えるわけもない。

知らぬ間に時間は過ぎ、気づけば見知らぬ天井の下にいた。
勧められるまま何杯か呑んだのは覚えていた。ふらつく足でタクシーに押し込まれて……。
店を出てからの足取りを思い出しながらぼんやりする頭を抑え体を起こす。見慣れない部屋を見渡していると部屋の向こうに人の気配を感じた。

「気がついたか?」

声の主に目を向ける。
明るい廊下を背にして立っている早海の姿があった。シャワーを浴びた後なのか髪が濡れて、整髪料で後ろに流していた両サイドの髪が顔にかかっている。

「まだ寝ぼけてるのか?」

そう言いながらゆっくりと近づいてきて顔を覗き込まれる。

「ずいぶん、印象が変わるもんだなって……」

ポタポタと雫を落とす髪に手を延ばし触れた。

「俺は高野じゃないぞ?」

そう言われてやっぱりと思った。気づかれているそんな気がしていた。

「分かってる。そんな事、思い出させないでよ……」

はっきりと見つめ返し言った唇を早海の指がなぞった。それは明らかにある意図を持っていて、オレは早海の目を直視しながら誘うように指を口に含んでやる。

誰でもいい。どうしようもない気持ちを引き摺ったままの今のオレを慰めてくれる相手なら、一夜限りの行きずりの男でも。自暴自棄と言われようが関係ない。

「後悔、するなよ?」

早海はそう言うとオレに口づけた。


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蜜月の隣で 3 R18

息も絶え絶えのオレに対して、早海は全くの余裕顔で丹念に愛撫を施していく。触れられた所がまるで性感帯かのように熱を持ち、自分の知らない扉を開けられるような気がした。
 何かを考える余裕なんて全くないほど与えられる快楽に飲み込まれていく。
 すでに早海の指や舌でトロトロに蕩かされて物欲しげにしているところに、尋常ではない熱い塊りを感じてそれを確認した。

「や……ムリっそんなのっ」

 硬く張りを持った凶器を見て腰を引く。すかさず引き戻され高い位置に腰を固定され、大きく脚を広げたところへ身体を割り入れられると、それはゆっくりと確実に内側へと押し拡げ入ってきた。

「んっ……くっ」

 声なんか出したくないのに口腔に入れられた早海の指に阻まれる。

「力、抜けよ。入らないだろう?」

 半分くらい入ったところで早海が苦しげにそんなことを言う。
 気が変になりそうなくらいの圧迫感で、オレは激しく首を横に振った。自分ではどうしようもない。手足は緊張で緩めることすらできず、痛みで涙が溢れる。

「も……抜いてっ」

「由宇……」

 名前を呼ばれ、優しく目尻を唇が触れると強い力で体を引き寄せられ、一気に全身を激痛が貫いた。

「痛……いっ、もぉ、いやぁっ」

 体内に収められた脈動するものは、そこにあるというだけで存在感を主張していて、動いてもないというのにオレに苦痛を与える。
 先程までの欲望は一瞬にして萎えて、早くこの状況から解放されたくてたまらない。

「早海さっ……」

 動きもしない男の名を呼ぶ。何かを待っているような、そんな様子に不安を感じた。何をされるのかわからない不安じゃなく、どうなってしまうかわからない不安。

「ん……あ」

 そんな気持ちに気付いたのか、男の手がオレの脚の間のものを手のひらに包み込んだ。刺激を与えられて、その欲望が再び再燃する。

「あ……な、に?」

 身体の奥から沸き起こるような妙な感覚が腰の辺りで疼きだすのがわかる。

「キたか?」

 早海の意図することがわからなかったオレを激しい何かが襲う。全身が張り詰め肌が粟立つ。前を刺激されているからってだけじゃない、奥から突き上げるような快感に身を捩り陶酔する。
 オレがその状態になるのを待っていた早海が腰を動かし始める。がっちりとした体にしがみつき、突き上げられる行為に身を任せていつしか自分からも腰を振った。
 
「アッ……イクッ」

 しばらくして、いつも感じるような快感どころじゃない、それを上回るほどの波が押し寄せてくると手足がピンと張りつめた。
 早海を咥えこんだところが大きく脈打ち、絞り込むようにうねる。

「俺も、一緒にイってやるよ」

 そう聞こえたと思うと、奥深くに打ち込まれたモノが内部で熱い飛沫を大量に叩きつけるのを感じた。


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蜜月の隣で 4 R18

 最初から最後まで早海は落ち着き払っていて、翻弄されっぱなしだったのが癪に障る。オレはうつ伏せで枕に顔半分を埋めたまま隣にもやって来ず少し離れたところで煙草を吸って満足そうにしている男を睨みつけた。

「なんだ? まだ足りないのか?」

 オレの視線に気づいたのか、ニヤニヤした顔で煙を吐き出す。

「っだれが」

 そう言って体を起こそうとしてから、あっと硬直した。
 下半身の激痛と共に体の奥からドロリと液が零れ落ちてくる。

「初々しい反応だな」

「……」

 返答しようもなかった。どうせわかっていて言ってるに違いないのだ。
それくらい早海は手馴れていたし、オレには余裕はなかった。
 どう処理すればいいのかもわからず、ただ俯いて堪えるだけのオレに近づくとわざと聞こえるくらいの軽いため息をついた。

「まずは、シャワーか」

 そう言うと強い力で抱き上げられ、オレは何もできないまま早海にしがみつくしかなかった。

 煌々とした明りの下、広いバスルームのタイルに四つ這いの状態で背後からシャワーを押し当てられる。
 細い水流がジクジクと痛みを訴える場所に当たって流れ落ちる。
 自分ですると言い張ったものの、結局力では敵わず主導権は完全に早海に握られていた。

「イイ格好だな、由宇」

「っ」

 ふと顔を上げた先に鏡が見えた。その中の早海と目が合う。

「やだ……見るなっ」

 誘導されたと思った。今にも泣き出しそうな自分の顔がそこに写っていて、わざとそれを見せつけるために……。そんなことに気付いたところでもう遅かった。
 
「んっ……あ」

 指で掻き出されるたび、声が漏れてしまう。覚えたばかりのその場所が、疼いて物足りないと言っている。そんなコトを知られてしまってはダメだと、口をついて出そうになる懇願の言葉を飲み込むのがやっとだ。

「由宇」

 早海の声がして指が引き抜かれる。
 冷血な男を恨めしく思いながら背後を振り返ろうとした時、両手で腰を掴まれた。
 来ると思った時にはすでに貫かれていた。
 すでにシャワーと指で解されて、更にはつい先ほどまでその容積を受け入れていた所は易々と侵入を許した。

「あ……なんでっ」

「欲しかったんだろ? コレが」

 腰を動かされると欲しかったところに刺激を与えられて、息が止まるくらいの感覚に頭が蕩けそうになる。
 何度も突き上げられ、後ろから与えられる刺激だけで幾度となく達する。目の前がぼんやりとかすんで意識を失いかけた時、早海がオレの体に精を放つのをかすかに見た。


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蜜月の隣で 5

 朝は眩しすぎて目に毒だ。
 カーテンから零れる日の光を腕で遮りながら目を覚ます。
 見覚えのある天井と十分な広さの柔らかいベッド。わずかに動くだけでも響いてくるような痛みと腰の痺れは昨夜の出来事が嘘や夢ではなかった事を示していた。

「由宇そろそろ……」

 そう言ってやって現れた早海はすっかり支度を整えて準備万端。寝起きのオレと時計を見比べて、ため息をつくように言った。

「後、10分で支度しろ」

 把握しききれないながらも、意図を察する事はできた。大慌てで、ベッドから降りようとしてふらつく。そんな身体を早海にも支えられてかろうじて立っていることができた。

「……そうだったな。安心しろ。初めてってのはそんなモノだ」

 ゆっくりオレをベッドに座らせると、明らかに忘れていたという態度でそう言った。

 その後、ゆっくりとしか移動できないオレの身支度が終えるのを待って、
一緒にその部屋を出た頃には遅刻が確定していた事はいうまでもない。
 本当は早く1人になりたかったが、車で送ると言い張る早海を邪険にも出来ず助手席に座る。乗り込んだのと同時に車が発進して、職場の場所も教えていないのにと疑問に思う。

「あ、場所は」

「知ってる」

 短く答えた早海は少しだけイラついているように見えて、それ以降の言葉が続かない。
 多分、高野のことを調査させていたのだろう。昨夜、早海が一緒にいたヒトは明らかに高野の特別な何かで、それは早海にとっても同じだったはずだ。
 だから、あの時オレに声をかけてきた?お互いに失恋してそのキズを舐めあうためにあんなコトをした……?
 流れていく景色を見ながら、胸の奥がツキンと痛むのを感じた。少なくとも早海はオレの気持ちを知っていたし、あの時その行為を求めたのはオレ自身。

 オフィスの入ったビルの人通りの少ない場所で車が止まる。チラリと早海の顔を見上げると大きな手が伸びてきた。

「んっ……」

 何かを発する前に唇が塞がれる。長い長い最後の別れのキスをオレはただ目を閉じて受け入れていた。惜しみながら唇が離れて、目を開けると早海の強い視線から逃れるように顔を逸らした。

「由宇、これ渡しておくから。何かあったら連絡すればいい」

 車を降りる間際になって何かを手に掴まされる。
 それは名刺で、代表取締役の肩書と共に早海の名前があった。

「あっ……」

 言い返そうとしたときにはドアも窓も閉められていて声は届かない。そのまま何も伝えられず赤いテールランプを見送って、オレは手元に残された1枚の紙をポケットに入れ、もう会わない方がいいのかも知れないなと思っていた。


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