短編集
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最近、ごく一部の生徒内で流行っている遊びがある。
誰が最初に持ち込んだのか、100円ショップに売っていそうな水鉄砲のおもちゃ。
放課後になるとそれを使ってサバイバルゲームのようにして打ち合う。もちろん、弱ければそれだけ多くの水を被ることになり、帰るころにはずぶ濡れ。しかし、季節も手伝ってそれはエスカレートの兆しを見せ始めていた。
「広樹(ひろき)っ、ちょっと匿って!!」
そう言って教室に飛び込んできたのは同じクラスの佐久間 良太(さくまりょうた)。
見るからに集中攻撃を受けたように水に濡れていて、止める間もなく物陰に隠れてしまう。
その後を追いかけてきたらしい生徒が、廊下をあわただしく通り過ぎてまた戻ってくる。その数が2,3人いることから佐久間がターゲットにされていることは明らかだった。
「あれ? 委員長、良太見なかった?」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは同じクラスの奴。キョロキョロと教室内を見渡して尋ねられた。
「ああ、見なかったな……それより……」
教室内をうろつこうとするのを咎めるように見ていると、そいつはしまったという顔をしてあまり確認もせず早々に教室を出て行った。そして、廊下で仲間に中にはいないことを告げると走り去っていく音がした。
それを聞き届けると短いため息をつき、佐久間が隠れた方向に視線を送る。
「ああー、助かったぁ。さんきゅ、広樹」
満面の笑みで掃除道具入れと壁の狭い隙間から出てくると近づいてくる。
「おまえ、最近ターゲットにされてないか?」
「ああー、そうそう。さっきも給水中にやられそうになって、仲間ともはぐれちゃってさ」
笑いとばしながら言うその態度に何故かムッとしてしまう。
大体、仲間ならちゃんと守ってやればいいのに、どうしてしないんだ?
佐久間はいわゆるアイドル的な存在だ。教室内でも飛び抜けて明るく周りにはいつも人がいて笑い声が絶えない。
「で、広樹は? 何してんの?」
「俺は……今日の日誌をつけたら帰るだけ」
「ふぅん、そうなんだ。委員長だもんねぇ」
興味なさそうにそう言うと、机の上の日誌をぱらぱらとめくっている。
「じゃぁ、それ、待ってるから、久しぶりに一緒に帰ろう?」
今日の日付分を開くと俺に差し出して破顔した。
そう、佐久間と俺は同じ中学からこの高校に進学した。中学までは普通に話をする程度だったのが、最近じゃそれほどのつきあいもなくなってしまった。一番の理由は1年の時にクラスが離れたことと、その時にできた友人のタイプが違ったため……。というのはタテマエで、本当のところは……。
日誌を書く手を止めて、佐久間を盗み見る。
端正な顔立ち、髪は柔らかそうな猫っ毛で細く、夕日が教室に差し込んでその綺麗な横顔を照らしていた。
「くしゅんっ」
突然、佐久間に動きがあってドキッとする。
「さぶっ」
ぶるっと見た目にも震えた佐久間をよく見ると、まだ服は乾いていなくてところどころ濡れたところが素肌を透かして見えている。その上、髪もまだ濡れているのだ。
慌てて持っていたタオルをカバンから取り出して、佐久間の頭にかぶせると乱暴に拭いてやる。まだ季節は夏になりきっていない。だから、日が沈み始めると急に涼しくなってくるのだ。
「さっすが、委員長。タオルなんて持ってきてるのか?」
「ばぁか。ほら、あとは自分でしろよ」
「ん」
茶化すように言い出した佐久間を適当に放り出して、タオルを押し付ける。
「広樹の匂いがする……」
急にポツリとつぶやいた。
その言葉に体が固まってしまう。
佐久間と距離を置いた理由、それは……。それは彼を意識してしまったから。
ただのクラスメイトじゃなく、それ以上の存在として。
そんな気持ちに感づかれたくなくて自然体で側に居たくて、だから離れることにした。……なのに。
「広樹?」
俺の沈黙に何かを感じたのか、佐久間がタオルから眼だけをのぞかせた。
このまま抱きしめて、その関係を変えてしまう事なんて今なら十分できそうな気さえする。そんなことをしたらこいつはどう思うのだろう。
「……っ早く拭いてしまえっ」
今は、欲望が自制心に勝つ前に背を向けるのが精一杯だ。
もし、欲望が勝って今だけを満たしたところで、その後の後味の悪さや佐久間から受ける視線に耐えられそうにもない。
「ほらっ、帰るぞ」
日誌を手に取り、カバンを持つと佐久間に声をかける。タオルを首に掛けて荷物を手に取り、佐久間が俺の後ろを追いかけてきた。
多分、俺たちの関係はこのままが一番ベストなんだろう……。
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一学期の期末テストがあと一週間で始まる。緊張感を漂わせる者もいれば根拠のない理由で余裕な奴もいる。その後者側の一人が佐久間 良太(さくま りょうた)だ。大体、テスト前にも拘らずまだ水鉄砲遊びをしようとしていたのには驚かざるを得ない。
イヤそうに帰宅の用意をしている佐久間を校舎から連れ出すと、
「あっ」
突然にんまりと笑って言った。
「これから、広樹の家に行ってお勉強するってのはどう?」
嬉しそうにそう言うが、絶対にそんなつもりはないはずだ。
「却下だっ」
速攻で断る。
中学の時もそうだった。
『一緒に勉強しよう』
そう言いだすのはいつも佐久間で、結局宿題をさせられるのは俺。最後に答えを書き写して本人はやったつもりのご満悦。それなのに成績自体は悪くないんだよな……。
ねぇねぇいいじゃないかぁーと甘えるような声で言われて、俺も悪い気はしなくて……そして、こうなるんだ。
俺の部屋で完全にくつろぐ佐久間を見てため息を吐く。
「久しぶりだー、広樹の部屋」
6畳ほどの部屋にベッドと中央に置かれたテーブル。いつも勉強するのはそのテーブルで、今はそこにお茶の入ったグラスと無造作に積み重なったオレの勉強道具が置いてあった。
「あっ、ネコ!」
家に帰ってきたのが嬉しいのか、身体を壁に擦り付けながら甲高い声でニャンと鳴きながら俺の部屋に入ってきた。最近飼いだした子ネコで遊びだすと止まらなくなるのだが、危険な出会いをしたようだ。
「ねこじゃらしっ、ねぇ、ねこじゃらしあるんだろ?」
みるみる内に目が輝きだすのがわかる。やっぱり……。仕方なく要求されたものを取り出し手渡した。
しばらくバタバタと音がする。子ネコと戯れる佐久間の大騒ぎに付き合ってやる時間はない。
俺は無視して参考書を開いた。
小一時間ほどした辺りで不意に集中力が切れる。そう言えば、物音一つしなくなって静かだ。
「佐久間……?」
隣の空いている部屋を覗く。子ネコと佐久間は確かにその部屋にいたはずだった。一瞬姿が見えなくて、扉を開けると床にネコがすやすやと眠っていて、その隣で佐久間も一緒になって寝ている。
「こら、こんなところで寝るなよ」
佐久間の横にしゃがみ込んで言うが返答はない。どうやら本気で寝ているらしい。
「佐久……間……?」
寝息を立てる唇が半分ほど開いているのが見えた。ドキドキと鼓動は高鳴ってその唇に吸い寄せられる。
無防備な寝姿は理性を失わせるのに十分すぎるほどで、家には俺たち以外にはいなくて……。
あと少しで唇が触れる寸前、子ネコがピクリと動くのが目の端に映った。
そんな些細なことで自分がしようとしてることに気付き、とっさに離れる。
(やばい……俺)
口を押えて小さくつぶやいた。
ついこの間友人としての関係を望んだはずだったのに、やっぱり諦めきれていないようだ。
起こさないようにそっと部屋を出ると自室に逃げ帰る。そこで呼吸を整えるように深呼吸をするとやりかけの勉強を続けることにした。
再び佐久間がこの部屋を訪れたのはさらに一時間後で、すっかり日も暮れていた。
「寝ちゃったよ」
まだ眠そうに眼をこすりながら、この部屋に来た本当の目的も達成していないくせに満足したような顔をしている。本当に相変わらずな奴だ……。
俺はでもそんな佐久間が好きで、嫌われたくなくて優しく笑った。
「今度は勉強、教えてくれよな……」
ちょっと俯きがちにそう言うと、佐久間は帰ってしまった。結局一度も教科書を開けてなかったな……。そんなことを反省しながら、次に思いを馳せた。
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高校に進学してから急に交友が途絶えるなんてよくある事だし、そんなに気にする必要なんてないと思ってた。
だけど、あいつだけは違う。東堂 広樹(とうどう ひろき)だけはそんな関係なんて認めたくなかった。
なのに、1年の時にクラスが分かれてからめっきりとその関係は希薄になって、2年で同じクラスになれたと思っていたら会話を交わす程度までオレのランクは下がっていて。少なからずショックだった。
確かに付き合う友人は全く違った。中学までは一緒になってバカなことをやっていたのに、高校ではどちらかというと真面目なタイプと交友を深めたらしい広樹と、変わらずバカなことをやってきたオレとはすれ違う事の方が多くて。しかもあいつは学級委員にまでなってしまうし、更に距離が離れてしまうように感じた。
だから、唯一中学から変わらず呼んできた名前だけは変えたくなくて、オレの友人が『委員長』なんて呼んだり、あいつの友達が『東堂』と呼ぶのに対抗してオレは頑なに『広樹』と呼ぶことに決めた。
気が付けばずっと目で追いかけていて、自分でも変なんじゃないかなんて思う事もあった。でも、だから気づいてしまった。広樹は敢えてオレとの距離を取ろうとしてる。……でもどうして?
その理由が知りたくて、事ある毎に絡んでみる。そして、今日。水鉄砲で放課後のサバイバルゲームで広樹に助けを求めた時にその理由がなんとなくわかった。
オレにタオルを貸してくれた時の広樹の反応とその表情に一瞬だけ走った戸惑いと葛藤。
オレは待った。広樹がどんな答えを出すのか期待しながら……。そして、それは見事に裏切られた、と感じた。
「オレって……ホモ、なの……?」
そこまで考えてつぶやく言葉が風呂に響いてしまった。
湯気が浴室全体を覆って頭がボーっとする。そんな実感は全くなくて、ただ東堂 弘樹が気になっているんだと思ってた。でもそんな事は同性相手にありえないことかも知れなくて……。でもあの時確かにキスされてもいいと思ってた自分がいた。もちろん誰を相手にしてもイイって訳じゃなく、『広樹』だから。
「オレ……キモイ……かも」
溜息とともにザブンと浴槽に体を沈めた。
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それから1か月が過ぎ、真夏の猛暑が迫る中、あと1週間で学期末テストが行われるという頃。委員長面をして広樹が言った。
「テスト1週間前だってわかってるんだよな? 佐久間」
いつものように水鉄砲で遊ぼうとしていたオレをわざわざ引き留めて言う。
どう返答したらいいのかわからず困ってしまう。広樹の言いたいことはわかっていた。
「でも、ほら。まだ1週間もあるし……」
「そんなだから……」
ため息交じりに頭を抱えて言う姿は、本当にオレと同い年なのかと疑うくらい先を見ていて……。
「わ……わかったよ。帰ればいいんだろ?」
悔しくて、でも広樹の言う正論には敵わないから帰宅の用意をした。
帰り道、これと言った会話もなくただ広樹の後姿を不貞腐れて歩いているといい考えが浮かんだ。
「これから、広樹の家でお勉強するっていうのはどう?」
我ながら名案だと思った。
そうすれば広樹とも一緒に居られるし、何より名目がいい。
「却下だっ」
すぐさまそういうのはわかっていた。中学の頃からオレは広樹を利用して宿題をラクして終わらせていたから。
「ええー、いいじゃないか。けちー」
さんざん文句を言ってやると広樹は根負けすることもオレにはお見通しだ。
久しぶりに入る広樹の部屋は何も変わっていなかった。
強いて言えば優等生らしくテーブルに参考書なりの勉強道具が積まれていることくらいだ。
「ほら、せっかく来たんだから、何かしろよ?」
広樹に言われて仕方なくカバンに手を伸ばす。
その視界の隅に柔らかそうな小さい毛玉のようなものが見えた。
「ネコ……?」
尋ねるオレに明らかに広樹の失意の念がこぼれる。ねこじゃらしを催促するオレに広樹は仕方なさそうにその要望に応えてくれた。
俺は勉強をするから、と広樹の隣の空き部屋に子ネコと一緒に入れられて放り出される。一緒に遊びたかったのになんで? と広樹を見るが、全く相手にもされていないような素振りに少し悲しくなった。
少し待つものの広樹はやはり来ないようで、オレは子ネコと遊び始める。散々退屈をしていたのか、子ネコの元気はオレの少し沈んだ気持ちを存分に楽しませてくれた。
1時間もすると少し疲れてしまう。子ネコも同じようでぺたんと座るともう遊ぶ気はないのか反応しなくなった。
「お前は良いな。広樹といつも一緒に居られる」
子ネコの傍に寝そべってその体毛を撫でてやる。気持ちよさそうにグルグル言いながら目を閉じるのを見て、いつしかオレもウトウトとしてしまった。
気が付くと広瀬が傍にいて覆い被さるようにしてるのがわかった。びっくりしたものの体は動かないし、起きてるのがばれたら……と思うと寝たふりを続けるしかないと思った。
顔がおもむろに近づいて、キスをされるんじゃないかと鼓動はドキドキと高鳴った。
ほんの数センチの所で広瀬が止まる。もう吐息が唇に触れているのに届かない。薄く目を開けると慌てて自室に戻る広樹の後ろ姿が見えた。
「イクジナシ……」
つぶやく言葉が広樹に対してなのか自分自身に言ってるのかわからなくて溜息をつく。まるでネコのように丸く体を縮める。すぐに広樹の顔を見ることは出来なくて、もう一度目を閉じた。
それからまた少しして目が覚める。ほんの少し暗くなり始めているのを見て時計を確認する。
傍にはもう子ネコの姿はなかった。多分ご飯を食べに行ったのだろう。
ゆっくり起き上がると広樹の部屋に入る。
「ん……寝ちゃったよ」
わざと眼をこすり、大きく伸びをするように言うと広樹が笑うのを見た。
その顔が懐かしくてドキンと胸を打つ。やっぱり……オレは広樹のことが好きなんだ。改めて確認してしまって顔を逸らした。
「今度は勉強、教えてくれよな」
自分勝手な言葉だと思ったけど、次に繋げたかった。
どんな顔して言ってるのか見られたくなくて俯いたままだったけど、広樹は承諾してくれる。それだけのことなのに顔は綻んでしまって、嬉しくなる。
「じゃ、また明日なっ」
帰り際、少し離れたところで振り返って言った。
気づいてしまった気持ちはもう止められない。
広樹はどう考えているのかわからないけど、オレは深く考えるのは苦手だから、きっとずっと広樹を困らせるのだろう。
そんな気がした。
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ある日の昼下がり。
いつも通り自宅に帰ると、母さんが押入れの中に上半身を突っ込んだ状態で何やらしていた。
「ただいま」
俺の存在に気づいていないようなので、わかるように声をかけてやる。いつもならまだ職場にいるはずの時間。帰って来るにはまだ早すぎる。
「おかえり。やだもうこんな時間?」
時間を気にするように時計を見るとそう言った。探し物は見つかったようだ。
「母さんこれから出張なの。留守番お願いね」
そう言うと慌ただしく準備済みの荷物を手に取り玄関へ向かった。
「はいはい。お土産とか気にしなくていいから」
手をひらひらさせて見送った。
俺は西條 智樹(さいじょう ともき)、高校2年生だ。
うちは両親が共働きな上、父さんは単身赴任。母さんも仕事に復帰してからは比較的出張もあり、留守番はよくある。そのため、自炊なんかも出来たりする。
あわただしく出かけて行った母親を見送った後、自室に荷物を置いて、私服の短パンとシャツに着替えると、窓から見慣れた顔が見えた。
従兄弟の葛西 守(かさい まもる)、通称守兄(まもにい)。俺より3つ年上で、現役大学生。そして俺の家庭教師も兼ねてる。頭も顔も良くて、それに凄く優しい。兄弟のいない俺にとっては兄のように頼れて憧れの対象だ。
でも、今日は勉強を教えてもらう日じゃないはず…。
大慌てで玄関に向かうと、来客を知らせるベルの音より早く扉を開けた。
「あ、その。窓から見えたから」
言わなくても良いような言いわけめいたことを伝えると、守兄は堪えきれない様子で笑った。それを見ると全身から火が噴き出すんじゃないかと思うほど熱くなった。
「ごめんごめん」
守兄の口調はまだ笑っていた。
「もう! 急いで出てあげたのに、そんなに笑うなんて酷いよ」
どうやら俺が扉を開けて大急ぎで出てきたのがツボにはまったらしい。
「だから、ごめんって。あんまりにも可愛かったから」
リビングから聞こえてくるその声に誠意はあまり感じられない。
やれやれとグラスに冷たいお茶を注ぎながら小さくため息をついた。
守兄からすると、俺はまだまだ小さい従兄弟の様で、事あるごとに可愛いと言ってくる。
「だから、もう俺高校生なんだけど?」
守兄の前にお茶の入ったグラスを置く。その手が、伸びてきた守兄の手とぶつかった。
瞬間、弾かれたように手を引き戻すとグラスが倒れた。
「あっ」
お茶がテーブルと床を濡らしている。近くにあったティッシュを大量に手に取ると、水溜りになった床に被せた。
「ごめん」
なんとなく謝った方が良さそうに感じた。
「いいから、何かないかな? テーブル拭かなきゃ」
「うん、持ってくる」
台所に行き、拭くものを探す。手にとって戻ろうと振り返ると、リビングに居る守兄の姿が目に入った。
実は数日前に守兄から告白っぽい事をされた。
『好きだよ』と言ったその時の守兄はちょっといつもの感じではなくて、視線は熱っぽく、口調はおだやかだったけど、なんだか怖かった。
あの時は笑って誤魔化してみたけど、手が触れた瞬間はっきりと思い出してしまった。
「智樹?」
気づいたら守兄が台所手前で立っていた。
「見つかったよ。まったくいつもどっかに行っちゃうんだよね」
あえて明るく言ったがワザとらし過ぎたか…。守兄の顔はあまり良く見えない。
なんとかこの場面をやり過ごさなきゃ。
守兄をすり抜けて、テーブルにこぼれたお茶を拭く。
そんな俺の背後に、守兄の影が大きく重なった。
振り向く前に抱きつかれる。
胸の音が大きくドクンっと高鳴った。
「守兄……?」
首筋に顔を埋められると、何だか恥ずかしくなってくる。
「智樹、良い匂いがする」
守兄が声を出すと、ビクンと身体が跳ねてしまう。声が、息が、首筋のその部分に当たってくすぐったい。
「は……ずかしいこと言うなっ」
上ずる声を抑制しようとするが、思うようにならなかった。
まるでそういう事を見透かしたようにクスッと笑ったのがわかる。
「智樹は案外感じやすい方みたいだね」
耳元で囁かれてゾクっと背中を這うような感覚がおこる。
体を捩ってみても守兄の両腕が腰に巻きついて逃げ出せず、腰から下は完全に守兄が密着していた。
俺の両腕は二人分の体重をテーブルの間で支えになっていて、自由にはならなかった。
「ダメだよ。もう待てない」
逃げ出そうとしているのをするりとシャツの中に手が潜り込んで制止された。
人差し指と親指で胸の突起が転がされ、摘ままれるとひゃっと喉が鳴った。
「こんなに硬く尖らせて。……気持ちいい?」
「ん……なんか……ヘン」
指の腹で転がされたところがジンジンするのと、いつもより感覚が研ぎ澄まされているのに、指で挟まれても痛みどころか気持ちいい。
こんな事普通じゃないのに、今はこの快楽で分からなくなってる。
今度は両方の手で胸をいじられ、首筋を吸われたり舐められた。
シャツは捲り上げられ、素肌は外気に晒されて完全に上半身を支配されていた。
「守兄……だめっ……これ以上はやばいって」
俺の制止も聞こえないようで、やめてくれる気配はまったくない。もう、これ以上されたら止められなくなってしまう。
それまで胸の突起を弄っていた手が、ゆっくり下半身に伸びてきた。
「守兄っ、そこはっ……」
なんとか阻止しようと身を捩るが甲斐なく履いていた短パンの中に侵入された。
直に触られてそれはピクンと震えて硬さを増す。
「ちょっとだけ、先の方が濡れてるね?」
人差し指が先端を突くと、ほんの僅かにヌルッと滑る。ワザと俺にわかるようにしてるんだと思うと顔が熱くなった。
自分のではなく、守兄の手で包まれて上下に動かされている事に興奮が隠せない。
追い上げられて、耳からと胸からの刺激を受けて究極まで高まった俺は、呆気ないほど簡単に従兄弟の手の中で果てた。
短い息をついている俺の頬や耳元に守兄が唇を押し当てている。
ずいぶん浅ましい姿を見られてしまった。
急激にリアルに戻ってきた頭の中でこの後どうすれば良いものか必死に考えていると、守兄が俺の耳にそっと何か言った。
えっ?とその言葉を反芻する前に短パンが下着ごと引き下ろされた。
テーブルについていた腕は取られて、上半身が台の上にうつ伏せになっていた。少しだけ開いていた脚は守兄の前に押し広げられ、普段晒されない所が、完全に開放されてハッとなった。
「やっ……やだっ」
反射的に閉じようとした両脚を、片手で押さえつけられるとその狭間にやわらかいものを感じた。
体を起こそうにも腰が固定されていてどうにもならず、ゆっくりと丹念に舐められるその感触を感じざるを得ない。
たまに細くて硬いものが中に入っては、柔らかく濡れたもので拡げられる。
そんなことをされている内に、なぜか達したばかりのそこがまた硬くなってきていた。
あまりのことに涙が滲む。
こんな良いようにされて、まだ快楽を追い求めようなんて、なんて見苦しい姿なんだろう…。
「もぅ……やだ……ぁっ」
耐えられず声をあげて後ろを振り返った。
すると守兄が俺の口を唇で塞いだ。軽く吸い上げられて、そのまま耳元にも移動し、キスされる。
「我慢して。痛いのはイヤだろ?」
優しいいつもの守兄がいた。
「……ん」
小さく頷いた俺に「いい子だね」ともう一度キスをくれた。
「じゃあ、指。舐めて」
口元に守兄の指があてがわれる。
舌先だけでチロチロ舐めると中に2本の指が入ってきた。
「ん、可愛いよ。智樹」
俺が舐めている様子を見ながら笑みをこぼす。
「もう、良いかな」
そう言うと俺の口から指を引き抜き、それを今度は後孔に当てがって一気に貫いた。
痛みと、それから中身を掻き回される違和感に息もつけない。だけどある一点に当たった時それは急にやってきた。
「何か……ヘン……抜いて」
奇妙な感覚に脚はガクガク震えていた。
中身の奥の方に指が当たると、勝手に背中が反り返る。
「ココが良いの?」
意図的にその部分を責めてくる。
声にもならない声をあげる俺を興奮したような表情で見ている。
「だ、ダメ。また出ちゃう」
「いいよ、出しても」
「やだ……ぁ」
後ろを弄られてるだけなのに触られてもない所が腫れているのがわかる。しかも大量の透明の液が床に滴って、頭が蕩けてしまいそうな快感だけに支配される。
「じゃあ、いくよ?」
守兄がようやく指を引き抜く。
しばらくして、今度はそんなものとは比較にならない大きなものを充てがわれ、身体の中に押し入ってきた。
じっくり溶かされたそこは大きく拓いて守兄をずっと奥まで受け入れてしまう。
「んっ……あっ……ぁっ」
奥まで貫かれた衝撃で自覚もなく白濁とした液が流れ出るように零れ、イッてしまう。
短い呼吸で痛みを堪えていると、肉を食む感触を愉しむように腰を回し動かされる。その度にグチュグチュといやらしい音がして体を熱くする。
「智樹……」
徐々に動きが早くなる中、守兄に何度も名前を呼ばれた気がした。
ただ、最期の時は力強く抱き締められ、俺の中の奥の方に熱い飛沫を感じた。
守兄から解放されて、ぼんやり床に座っているとすでに服を整えて後片づけをしている姿が目に映る。自分も手伝わなきゃと思うのに、腰から下が怠いのと痛いのでどうにもならない。
「どうかした?」
片付けを終わらせた守兄が俺の頭を撫でる。
「な、なんでもないよ」
間近で守兄の顔を見れない。
それにしても、知らなかった守兄の意外な一面。
「凄く……強引」
自分でも気づかないうちに声に出していた。
告白されてはいたけど、まさかこんな形で応じることになるとは思ってもいなかった。
「なんだか、無かった事にされそうだったからね。チャンスを逃したくなかったんだ」
ちゃっかり聞かれてたって事と、こちらの思惑がバレてることに閉口する。
「俺が……本気で嫌がったらどうするつもりだったんだよ?」
「んー、その時は……」
考える様子の守兄を見上げた。
視線が絡み合うともう外せなくなる。
「それでも諦めないよ。それに、勘は外したことがないんだ。絶対に大丈夫だって」
そう言ってから思い出したように再び口を開く。
「それに……初めてでトコロテンまでしちゃうなんてわかったから、これからが楽しみだよね」
俺が真っ赤に顔を染めるのを楽しげに見ながら言った。
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