はじめるまえに……
最近あまり明るい話を書いてないので
息抜きにお付き合いくださいっ
このカテゴリ「月はセピアに色づいて」は
各ストーリーの登場人物の記憶に残る過去のお話を書いてみようっ
というわけで立ち上げました
まぁ、
いわゆるサイドストーリー的な?
そんなわけで
今回は
「長月の戸惑い」より、「門脇 雪人」の記憶に残る過去のお話です
もしも、奇特な方がいらっしゃって、
「この人とこの人のCPで書いてほしい」
などのご要望があって、、
非表示でもコメントでリクエストをいただけたら
お応えするかもしれません
早海×本郷
とか
早海×光稀
とか
由宇×早海
とか
直樹×隼人
隼人×裕司
なども
何でもアリですよ?
その場合は記憶じゃなくて夢落ちの場合もありますけれど……
あくまでもサイドとしてお楽しみいただけたらいいなぁと思います
気が向いたらリクください
ではでは、楽しんでいただけたらいいなぁっ (*≧艸≦)
それは僕こと、門脇 雪人が秘書室に配属されてすぐのこと。
この会社の社長である早海さんが、本郷さんに隠れてこっそりと近づいてくると耳打ちするように囁いた。
『本郷が持ってる手帳、見たことあるか?』
それは本郷さんが肌身離さず持ち歩いている1冊の手帳。いつも何かを書き込んではいるけれど、そう言えば中を見たことがないし、見せてもらったこともない。
何を書き込んでいるのか、後輩としても部下としても非常に気になっているけれど、おこがましい気がして聞けなくていた。
『今度一度覗いてみるといい。面白いものが見れるから』
悪戯っぽい目で早海さんはそれだけを言うと、本郷さんに見つからないようにまた離れていった。
それ以来ずっとその手帳の事が気になってしまって、目で追いかけるようになっていた。そんなある日、珍しく本郷さんの机の上に手帳が置いたままになっていた。
どこからどう見ても、いつも持っているあの手帳。辺りを見渡しても姿は見えず、今ならこっそりと見たところでバレることはない。
僕は少し思案して、そして……誘惑を断ち切った。
やっぱり、他人の物を勝手に見るなんてダメだよね……。
そうは思っても、やはり未練は残ったけれど、自分だったらきっとこっそり見られるのは気分が悪いはず。
いつか、本郷さんが自分から見せてくれる時まで、その時まで待とう。
それ以降手帳の存在は忘れるように心掛けたのだった。
給湯室へ行くと女の子たちの声が聞こえる。
雑談するのはやはり給湯室と相場は決まっているらしいけど、そこに堂々と入っていけるほど僕は肝が据わっていなくて、彼女たちの会話が収まるのを待つことにしていた。
別に聞くつもりなんかは全くないんだけれど、勝手に耳に入ってしまうんだから仕方がない。
『そうそう、また更新されてたの。例の人のっ」
『ああ、あのレビュアーさん?』
レビュアーっていうと……○べ○グってサイトのユーザーの事らしい。
女性はそういう会話が好きだから、まだまだ時間が掛かっちゃうんだろうな……。
『そう、ごうさん! 今度はスペインバルに行ったみたいでさぁ……』
『あの人のレビューってホント率直だから、参考になるのよねぇー』
『そうそう、だから今度行かない? その店』
ごうさん……か。
そのサイトは僕も良く利用していて、確かに彼女たちが言うように彼もしくは彼女のレビューはとても参考になる。
金額帯から各料理の細かい見た目、完成度、味。どれも的確な評価で、あの人のお奨めならば間違いないと思える。仕事関係の人と食事に行ったり、会食の用意をするのも結構参考にしたりしている。
女性たちに大人気みたいだよ、良かったね……。
心の中で祝福しつつ、僕はその場から離れることにした。
どうも、女の人は苦手だ……。
本当はお水を少しばかり欲しかったんだけど、仕方ないから後でまた来ることにして……。そんなことを思っていると前から本郷さんがやってくるのが見えた。
「こんな所で何をやってるんだ?」
そう言いながら、近づいてきたからすかさず手に持っていたカップを隠す。
「あー、えっと……」
言いにくそうにしていると、手に持っていたカップが見つけられてしまう。
「中に入ればいいだろう?」
そう言って本郷は中の様子も気にせずに給湯室に入っていく。
「あっ、本郷さっ」
慌てて追いかけたけれど、時すでに遅く。本郷さんは女性たちの聖域に入った後だった。
本郷さんと入れ替わりに、そこを占有していた女性たちが出てくる。
若干不服そうな顔の彼女たちは、それでも秘書室の高嶺の花、本郷さんと最接近できたことでやや頬を紅潮させて恥ずかしげに見えた。
「ほら、気兼ねなく使えるようになったぞ」
本郷さんはというと、全くそう言う事に興味なさそうで。僕にそういうと得意げに言って見せた。それを見た僕はというと、そんな本郷さんに苦笑するしか無くて、そういう彼が『彼らしいな』なんて思ったりしていた。
「さっきの、給湯室にいた女の子たちですけど……」
秘書室に戻るまでの間、僕は本郷さんに話しかけた。
「ん……? ああ」
そういえばそんな存在もいたなと言いたげな様子で、でも話を聞いてくれようとしているのがわかる。
「彼女たち『ごうさん』っていうレビュアーの話をしていたんですよ」
何気なく言った言葉だったのに、一瞬本郷さんの様子がほんの少しだけ変わった気がした。それはしっかり見ていないとわからない程度の変化だった。
「へぇ……それで?」
「最近そちらでは話題の人みたいですね。彼女たちも随分信頼してるようでしたよ」
「……」
「僕も気になってるヒトなんです。一体どんな人なんでしょうね?」
そんなことを言っているうちに秘書室に到着してしまう。
「……気になる……か」
本郷さんが言ったその言葉は微かに聞こえただけだった。たぶん聞かせるつもりなんてないようだったから、あえて追求しなかったけれど。ほんの少し嬉しそうな顔をしたのは気のせいだったのかな……?
そんなことがあってからしばらくして、たまたま本郷さんの手帳を見る機会が巡ってきた。
日程の打ち合わせをするために本郷から見せられたから、不可抗力。
そこには、きっちりとした本郷の性格通りにメモ書きがいくつかあって、その中の1か所に見慣れない名前があった。どうやらどこかのお店の名前らしいのはわかったけれど……。すごくそれが気になってしまった。
そして数日後。
『ごうさん』のページは更新された。
紹介したお店は、あの時僕が見た見慣れない名前と同じで、それだけで察してしまった。
ごうさんは……本郷さんの事なんだ。
『意外な趣味だろう? 俺が薦めたんだけどな』
後に早海さんに尋ねたら、ニヤリと得意げに笑ってあっさりそう答えた。
あのサイトに『ごうさん』の名前でページを作ったのも早海さんの仕業らしく、それを律儀に更新し続けている本郷さんもらしいと言えばらしくて……。
その時初めて、社長である早海さんに嫉妬を覚えた。
拍手・コメントありがとうございます!!
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