2012年07月 の記事一覧
その日のオレは憂鬱だった。
待ち合わせをしていた場所にたどり着いた時には30分の遅刻。それからさらに遅れて入ったキャンセルの連絡が追い打ちをかけた。
約束していた相手とはいつもそんな感じだ。お互い自由だしタイプも同じ。気に入ったのがいたらそれで解散。 後腐れもないし二人でいることでメリットもある。だけど、さすがに土壇場っていうのは気分が悪いってものだ。
怒ったところで仕方がない……と携帯をポケットに滑らせると、気分も新たに馴染みの店に向かうことにした。 そこは駅からほど近い場所にあり、1人でも入ることのできる所で、ちょっとした料理なら食べることもできる。見た目は普通。だけどオレのようなのが行くとすぐにわかる独特な空気というのがある。
あまり広い店ではない、5~6人が座れる程度のカウンターと小さなテーブル席が2つ。一目で客層と面子がわかるようなシステム。
最初に気に入らなければ話しかけることも話しかけられることもない。それがここの一番いいところだった。
店の扉を開けるとまだ時間が早いのか先客は2人だけ。どちらもが受入れ対象外だ。
通り抜けて一番奥の席に移動しカウンターの席に座った。
「今日はおひとりですか?」
すでに馴染みになってしまった店の主人とはそんな会話で始まる。
名残惜しそうな視線を感じつつ完全にそれを無視するのも快感だ。
「お腹がすいてるから何か作ってよ」
わざと聞こえるような声で可能性を否定してやる。これからゆっくりご飯を食べようとしてる奴が乗ってくるわけないだろってことだ。
適当に料理と酒を見繕い注文する。これで少しは時間が稼げる。
これから始まる長い夜をどんな相手と過ごすか…。できれば後腐れのないさっぱりしたドライな関係が築けるタイプがいい。顔は……もちろん好みのがいればそれに越したことはない。そんなことを考えているとカランと店の扉が開いた。
無意識に入ってきた客を確認する。身長も体格も申し分ない。自分の好みに照らし合わせながら評価する。結構好みな感じだ。だけど、なんだか違和感がする。たぶんこいつ、ノンケなんだ。
無防備に視線を浴びながらなぜか近づいてくる男の姿を、オレはどうすることもできず目で追いかけていた。
一つ席を開けて隣にそいつは座った。
どうやらカンは正しいようで、普通に仕事帰りにこの店に寄っただけ……のようだ。
運ばれてきた料理をつつきながらオレはなんてツイていないんだろうと人知れず溜息をついた。
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やり辛い。そんな一言に尽きる。
あのキャンセルの電話があった時に自分も帰るべきだったかな……と後悔さえしている始末だ。
かといって、休み前の夜にまっすぐ帰宅なんて味気ないに決まっている。特定の恋人がいるわけでもない一人っきりの部屋で何を楽しめばいいというんだ。
無言のままに食べているだけだとあっという間に食事は終わり、仕方なく残ったビールを口元に運んだ。数分してまた店の扉が開く音がして、オレはその場所に立っている男にくぎ付けになった。
見知った奴だ。でも、二度と会いたくなかった。
そいつは確実にオレを認識した。そしてゆっくりと近づいてくる。
「光稀、久しぶりじゃないか」
一体どういうつもりなのか、そいつ高幡 椋介(たかはた りょうすけ)はオレの隣に空いていた唯一の席に座った。
1年と少し前までこいつと付き合っていた。でもあれは付き合っているというより支配するものとされるものの関係だった。そして、ある日突然一方的に終わったのだ。
「あれからどうしてた?」
わざとらしく傷を抉るのも、その不愉快な口調も笑みも何もかも変わっていない。
嫌悪感がこみ上げてくる。どうしてこんな奴に自分を自由にさせていたのか、そして夢中になっていたのかわからない。
「今でも思い出すんだよ、お前のこと。光稀はどうなんだ?」
「もう、忘れました。そんなこと」
嘘は簡単に見抜かれる。そんなことわかっていても言わずにいられない。
覚えてるに決まっている。初めてだった。求められるのも求めたこともなにもかも。
そういう事をすべてわかった上で今質問していることだってわかっている。
「どうだ?今夜また久しぶりに」
「ご遠慮します」
速攻で断り、水の入ったグラスに手を伸ばす。椋介と居ると喉が渇いてしまう。緊張している証拠だろう。それはつまり、まだ未練があるってことなのか……?
そのグラスごと手を捕らえられ、あわてて引き戻そうとする。
「俺は覚えてる。お前の弱いトコロひとつひとつ」
顔が近づいてきてこれほどないくらいの至近距離で囁くように言った。
耳元の低音が首筋にも感じる。ゾクッとする反応はどうしようもない。
「どんなに強気な態度をとったところで、お前はオレに従うんだよ。最終的には」
そう……。悔しいことではあるが以前はそうだったんだ。でもそれはこの男をどうしようもなく好きな自分がいたからであって、今のオレではない。
「残念でしょうが、そんなつもりありませんから」
椋介の言葉を否定する。こういうやり取りは前にも繰り返されていたことだ。駆け引きのようなやり取りをするのが好きな男だった。
でも、もう過去の話だ。
「お前さえ良ければまた前のように上手くやらないか?」
この男、以前にも増して図々しくなった。あまりにも自分勝手なことを言い出す男にオレはいい加減イラつきを感じていた。
一方的な別れの後、どんな思いで気持ちを整理したのかとか、あの時のオレの意思や気持ちはこいつの中に今現在もないんだ。
「身体の相性も一番良かっただろ?」
どこまでも下世話な奴。もう相手をする気にもなれない。
オレは黙ったままグラスを弄んでいた。早く飽きてどこかに行ってくれないものだろうか…。ふと周りを見るとオレと椋介の会話に耳を傾けていたらしい客たちと視線が合った。ああ、そりゃあ気になるんだろうさ。昔の恋人とばったりなんて、そんな面白い話題ないからな。しかもちょっとした修羅場じゃないか。
心がどんどん冷えていくのを感じる。
「なぁ、光稀!」
焦れた男が少し大きめの声を上げた。
少しは相手にされていないことが分かっただろうか?
視線を男にもう一度戻す。昔感じたような魅力はもう無かった。ただの男だ。そう思うと最初に感じた焦燥感のようなものは消えていく。
「オレからはもう話すことはないし、しつこい男は嫌いじゃなかったか?」
落ち着いてサラリと言った。一瞬にして火花が飛び交う。
その言葉は、あの時こいつが立ち去る時に言った最後のセリフだ。
それは椋介も覚えていたらしい。
「こいつっ」
怒りに任せて男が手を振り上げた。店中がざわめく。その時、椋介の後ろで狭い思いをしていただろう男が立ち上がりその腕を握っていた。
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「お兄さん、ちょっと、それはない」
余裕の表情で驚く椋介に言った。
「なんだ、お前」
「だって、店で暴力は良くないでしょ。俺も巻き込まれるわけだし」
ぎゅっと握りあげるように男は椋介の腕を掴んでいるようだ。体格ではほぼ互角なのに、立ち位置が有利なのかそれとも何かやっているのかわからないがその体はびくとも動かない。
「この人も嫌がってるみたいだし、俺から見てもお兄さん脈なさそうだよ?」
振りかざした腕を自分の背中に回されて、どうやっているのかわからないがそれが苦痛を与えているようで、椋介の顔が苦悶にゆがむ。
口では文句を言いながらも、さすがに敵わないと思ったのか椋介はされるがままその男にたやすく店から連れ出していく。
「光稀、おぼえてろよ」
椋介の姿が店から見えなくなる寸前、捨て台詞のように言い残す。そんな光景をオレは呆然と見送っていた。
信じられないことにオレを救ってくれたのは偶然隣に座ってたノンケの男だった。
「すみませんお騒がせして」
戻ってくるなり男は店主に頭を下げた。
出来すぎなくらい人のいい男なのか?
オレは急にそいつに興味と更なる好感を持った。
騒ぎを起こしたとして、男はこの店を去るようだ。それに気が付いてオレはその後を追いかけた。
「すまない。助けてもらったのに」
「え?ああ、別にいいですよ。ちょうど迷惑してたし……」
店を出てすぐのところで捕まえた。
わかりきったことだが、オレを見ようとしないそいつに提案を持ちかける。
「もし時間があるなら奢らせてもらえないか?お礼がしたい」
「ああー。でも俺そっちの趣味ないんで」
困ったように言った。やっぱりそうだったか。オレのカンは正しかったわけだ。
「気づいてた。そういうのは無しでどう?」
オレは仲間内でも評判のいい笑顔を見せてそう誘った。
「じゃあ、そう言う事で……」
戸惑ったように照れながらも彼は乗ってきてくれた。
「オレ、沢良宜 光稀(さわらぎ みつき)」
「高野 将人(たかの まさと)」
自己紹介するとなんだかおかしかった。
別に日頃行っている仕事場での会話と変わらないことなのに、どちらも少し緊張していて。
「いい店知ってるんだ。行こう」
自然と笑いがこみあげてくるのは久しぶりだった。
気持ちよく高野を店に案内しながら、オレの憂鬱はいつの間にか吹っ飛んでいた。
それから、店に入ってからしばらくはぎこちなかった会話も、お酒が入ってくることで少しずつ打ち解けてくる。それにしても、高野は酒が強い。一緒になってしばらく付き合っていたオレは先に酔いが回っていた。
「沢良宜さん、大丈夫なんですか?」
心配げに高野が声をかけてくる。
「ん、だいじょうぶ」
高野の声は耳触りが良くて心地よかった。どうやら、こいつの声もオレの好みなのだ。
どうしよう……。自分でも気づいていた。わかっていて誘った。でも……ダメ元で言ってみたい。それが何かを壊すことになっても……。
「こんなこと、男に言うの初めてなんですけど」
おずおずと高野から言い出した。
「俺、沢良宜さんならいいかな」
突然の申告にオレの方が息をのんだ。そう、願ったりかなったりで……。
「別に……オレはいいけど?」
素直に承諾してみる。
「そう……なんですか?」
やけに高野は真剣な表情だった。それを見てオレはわからなくなる。
酔いに任せて言っているだけなのか、それとも本気か……?
「からかったりしてません?」
「ないない」
緊張しているのなら、その緊張をほぐせばいい。境界線を感じているのなら見えないようにするだけだ。そして勢いに任せているのなら、それを煽ってやる。
「なんなら、今から……どう?」
大胆にオレから誘った。高野の喉がゆっくり上下するのが手に取るようにわかった。
大体どんな奴でもそうだ。その気がないなんて見せかけて、本当は興味があったりする。そしてそれをオレは見逃したりしない。
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この辺りにはいわゆるそういう場所として部屋を提供しているところがある。
それを見越していたわけではないが、結果としてはそうなってしまった。
薄暗くした部屋の照明が、緊張する高野の姿をさらに暗く影で縁取っていた。
「オレより年下なんて絶対ウソだろ?」
着ていたスーツが皺にならないようにハンガーに掛けながら、オレは他愛のない会話で声をかけてみた。
「高野……?」
反応がない。まさかここまで来て怖気付いたのだろうか。
振り返ろうとしてがっちりと背後から抱きしめられた。
「沢良宜さん……」
顔が見えないからどんな表情で言ってるのかわからないけど、声に切なさを感じる。同じ男としてその感情が理解できた。
「……みつきって、呼んでいいですか?」
「ああ、好きに呼べばいい」
どうせ「次に会う」ってのはないんだろう?
心の中でつぶやいた。一晩だけならば、どう呼ぼうとそいつの勝手だ。
吐息が触れ合うくらい接近して、完全に重なる。
そして、オレにとってはいつもの、こいつにとっては初めての夜が始まった。
ひとしきり互いの唇を堪能し、ベッドに男を誘導する。
高野のわずかに緊張した顔がオレの気持ちを昂らせていた。
「光……稀?」
男の上に馬乗りになると、この先何が起こるのかと不安気な声を出す口を唇で塞ぐ。そうしながら、男のシャツの中に手を延ばした。
わずかに汗ばんだ肌、弾力のある筋肉が適度についた体躯。指を這わせその感触を楽しみつつ、ゆっくりと腹から下に手を延ばすと、服の上からでもわかるくらい張りを持った塊に当たった。
「ココ……キツそう」
首筋に軽く唇が当たるようにしながら、指でその場所を示す。
男の反応を伺いながら、ゆっくり服に手を掛ける。拒絶はなかった。
「嫌なら、目、閉じていて」
そう言うと、硬く反り返ったものを手にとった。頭上で高野が息を飲むのが聞こえ、それらを感じながら更に硬度を増したそれの先端から根元まで丁寧に舌を這わせた。
時折、高野の呻く様な声と、たまに頭に触れる指の感触がオレを刺激する。
もう、互いの吐息しか聞こえなかった。
十分に舐められててらてらと濡れるそれから顔を離すと、近くに用意しておいた容器を手にする。
粘液質な液体を指先に乗せ、それを自分の後孔に侵入させて十分に解す。そんなオレの行為を高野が見ているのを感じた。たったそれだけの事なのに身体が熱くなって興奮する。
「光稀、エロい……それ」
「ん……も、高野の……ココに挿れていい?」
返答も待たず、手を支えにしてそれを後ろにあてがうと、ローションで溶かされた蕾は自身の体重をかけられて、少しずつ口を開いて痛みを伴いながらも受け入れていく。
「ん……あっ」
身体の中に高野の拍動を感じる。指では届かない奥の深い所まで侵入されているのを実感しながら短い吐息をついた。
ゆっくりと動き始めると腰を高野の腕に支えられ、引き寄せられて接合がより深くなる。その動きに合わせて自身の脚の間で息づくものを自らの手で慰めながら、薄く目を開けて男が感じている顔を見つめていた。
「光稀、すごい締まって、良過ぎっ……もう、あんまっ、もたない」
荒々しい吐息が言葉通りに終わりが近い事を示している。
「う……ん、イッて……高野」
言い終えるより早く、高野の腕が腰の高さを固定していた。下から突き上げる激しい動きで体が揺さぶられる。 突然、グイっと奥まで押し込まれたかと思うと、熱い飛沫が体内でほとばしるのを感じた。
しばらく動く事も出来ず、高野の上で呼吸を整える。
身体には高野の存在を感じていた。それはまだ硬さを保ち続けていて物足りなそうに孕んだままだ。
「高……野……?」
腰を捕らえていた手に力が込められ、高野が不意に体を起こす。角度が急激に変わって息を呑み、思いがけず近くまで寄ってきた男の肩にしがみついた。そのままの状態で思いがけないほど力強い腕に支えられ、背中がシーツに触れた。
あまりに軽々と体位を変えられたことで忘れかけていたことを思い出す。
その腕力であの時椋介を抑え込んだのだ……。
「ん?光稀?」
高野が訝しげにオレの顔を覗き込む。
「何か……別の奴のこと、考えてた?」
「え……あ」
あまりに鋭い洞察力に言い返す言葉も見つからない。
「俺に抱かれながら別の奴のことを考えてたのか……」
「や……あ……ちがっ」
否定しようとした言葉が高野の唇に吸い取られた。
「んっ……あっ」
唇が離れるのと同時に大きく腰が動かされる。
予期せぬ動きに声が漏れた。
「俺のことだけ考えてよ……光稀」
オレを求める高野と視線が絡む。熱くてまっすぐなその目に捉われ、腰が甘く疼き刺激を求めるように揺れる。
先ほど体内で放出された体液が潤滑油の役割を果たして動きをスムーズにしていた。高野がゆっくりと腰を動かすごとにはしたなく音を立てて、聴覚でも犯されるような気がする。
「高野っ……」
ゾクゾクっと肌が粟立つ感じがした。
前立腺を刺激されて快感が身体を貫き、意図せず高野を締めつける。
その反応に満足そうな表情を浮かべた男が見えた。
「すごい、ハマりそう……」
「んっ……」
再び唇を塞がれて、酸欠状態に陥る。
激しく揺さぶられて、もう何も考えられなくなるほど快楽の渦に飲み込まれていった。
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日付が変わって、まだ太陽も昇らないような時間にふと目が覚める。
どうやら少し眠ってしまったらしい。
ご丁寧に体にはシーツが掛けられていて、隣には眠り込んでいる高野の姿があった。こっそり抜け出すと音が出ないよう注意を払いながら服を着て、そして部屋を出た。
一度体を重ねれば自分の気が済むだろうと思っていた。だけど実際はどうだ?あのまま朝を迎えてシラフになった高野を見たくはないと思った。もともと高野はノーマルの人間だ。そしてそれをこちら側に引き込んだ。一時の気の迷い、朝を迎えればそう思う事だろう。それでいい。自分のいた世界に戻るのが高野にはお似合いのはずだから。何とも言えない気持ちをうまく表現しようもなくもやがかかったような閉塞感を感じた。こんなの…早く忘れるべきだ。そう自分に言い聞かせた。
それから流れるように時間は過ぎ、また週末がやってくる。
いつもの待ち合わせをする場所に立ち、オレは携帯を眺めていた。
あの日、あんなことになる前まではオレからまた連絡をする予定だった。また飲みにでも行こうなんて話をしていたし、連絡先の書いた番号ももらっていた。それを登録するはずだった。そう、「だった」だ。今更蒸し返したくはないだろうと、そのメモをオレは捨ててしまった。
もしかして、後悔しているんだろうか。
「光稀」
物思いにふけっているとどこからか聞き覚えのある声がした。
とても耳触りが良くて、心地の良い声質……。
「やっぱり、光稀だ」
すぐそこに高野の姿があった。その表情には何の後悔もなくてオレの方が動揺を隠せないでいる。
「高野……」
久しぶりと言えばいいのだろうか、それともあれからどうしてた?とか。どちらも違う気がして言葉に詰まって高野の顔がまともに見られない。
「どうして、ここに?」
選びに選んで口をついて出た言葉がそれだ。
「光稀に会えるんじゃないかって」
偶然ってやつなのか。何気にそんなものに感謝しながら、ふうん……と気のない返事を返す。
「今回は、俺に付き合ってもらえないですか?」
その言葉の真意を見極めようと、オレは高野を見た。まっすぐな視線にぶつかって、やはりどうしようもなく胸が騒いで見返すことができない。
オレの戸惑いを知ってか知らずか、高野に腕をひかれる。断ることも出来たのに、為す術もなく付き合わされる羽目になった。
やっぱりこいつ強い……。
酒を飲むにはまだ少し早い時間。にもかかわらず休み前だからか、意外に席は埋まっていて待っている人までいるような状態だ。そんな中、オレは高野の酒の強さに舌を巻いていた。
それでも、前回よりはセーブしていた方だと思う。それでも飲むピッチはやや高野ペースに引きずられて早かったのかもしれない。
後悔し始めているオレに対して高野はまだ普通の表情で、そういうのも小憎らしい。
「光稀は……酔うと途端に色っぽくなる」
それまで全く触れても来なかった話題。一瞬耳を疑うような高野のセリフに、理解ができないでいた。
「そんなふうに言われたこと……ないですか?」
「……そんなこと言うヤツもいたかもな」
過去の記憶を思い出しながら言うオレに差し伸べられた手が頬に触れた。
イヤではない。むしろ心地よくて、初めて会って会話した時からそれは変わらず、そんな思いが形にならない。
「……ってくださいよ」
酔っているからか頭がぼんやりしていて全く言葉がわからない。
今、なんて……言ったのだろう。
「光稀?」
「え……あ、何?」
「だから、俺と……次も会ってもらえますか?」
さっきとは言葉が少し違ったような気がしたけど、どうでもいい。
こいつは……高野はどんな関係を望んでいるのだろう……?
探りを入れたいのに、いい言葉がこんな時には思い浮かばない。ただ、頭の中で次も会うという言葉が巡っていて、せいぜい小さな声で「次も?」と尋ねるのが精いっぱいだ。
「次も、その次も俺とだけ」
まるで子供に言い聞かせるように高野が言った。
それがまるで契約を交わすようで、くすっと笑ってしまう。
「じゃぁ、高野とだけ」
契約は成立。それだけで気持ちが収まる気がした。
もともと、定位置に居座り続けるなんて気持ちはなかったのだからこれでいい。
それ以上を求められても応えられるかなんてわからないし、オレには軽い付き合いが好ましかった。
だけど、これからどんなことが始まるのだろう…?
そんなことを考えるだけで少し胸が高鳴るのだった。
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