2012年08月 の記事一覧

真実からの蜜月 11

 それから後は運ばれてきた料理を味わいつつ、チェックリストの項目を埋める。一通りの項目を確認し終わっても携帯に光稀からの連絡は入って来ない。
あれから軽く1時間は過ぎている。

 どうして連絡してこないんだ?

 一つの疑問が水面に石を放ったように波紋を起こし全体へ行き渡ると、この数日ずっと感じ続けていたモヤモヤしたはっきりしない何か再び心を覆い始めた。

「高野さん、この半年くらいで変わりましたよね?」

「そうか?」

 半年前と言えば光稀と出会った頃だ。生返事を返しながら、もうそんなに経つのかと思い出して懐かしくなる。

「そうです。今付き合っている人の影響……かな?」

 そう言うと照れ隠しをするようにへらへらと笑い、両手で水の入ったグラスを口元へと運ぶ。

「どんな風に変わったんだ?」

 つぶやくように尋ねた。光稀と付き合うことによって、どんな変化があったのか自分にはわからない。

「そうですね、簡単に言うと怖い人かと思ってました」

「なんだよ、それ」

「でも、最近は空気が柔らかいというか、話しやすくなってきたから」

 ちらりと目線だけを動かして俺を見て、それから恥ずかしそうに頬を紅潮させた。それを聞いているうちにこちらも少し気恥ずかしくなり、玉城から目を逸らす。

「きっと、今の恋人ってすごくいい人なんだろうなって……」

「玉城がそう思うんなら、そうなんだろうな」

 光稀と出会ってから、確かに心境の変化っていうのはあった。
 初めての同性との関係と、それによって塗り替えられるたくさんのこと。全て、光稀と関わることにより変わっていった。そしてそれは、これからもそうであって欲しい。
 そう思えるのに、どうしてあんな逃げるようなことを言ってしまったのだろう。
 後悔しても取り返しのつかない自分の発言にため息が漏れた。

「そろそろ、出ましょうか?」

 ほんの少し暗い声の玉城に諭されて腰を上げる。クセで伝票を持った俺に玉城が慌ててそれを取り返そうと手を伸ばしてきた。

「今夜の食事はオレが誘ったんですからっ」

「いや、貴重な意見も聞けた事だし、俺が払って当然だろう?」

 頑として譲ろうとしない玉城を押しやり、強制的にレジに行くとそこにはすでに先客がいた。
 見覚えのある仕立てのよいスーツとその横顔は紛れもなく早海だ。
 まさかとその奥を見ると間違いようのない姿が見えた。

「光稀……」

 にわかに信じられないものを見た気がして、我を忘れそうになるのを辛うじて堪える。

「高野さん……?」

「悪い、玉城。今回は頼む」

 伝票を押し付けるように手渡すと問答無用で光稀の腕を掴む。

「将人っ!?」

 動揺と困惑に彩られた声に体温が急上昇する。

「来い」

 それだけ告げるのが精一杯だった。


web拍手 by FC2
スポンサーサイト




にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

真実からの蜜月 12

 店の外に無理矢理連れ出し、人通りが少ない路地裏に引き入れて、随分店から離れたところまで来るとようやくその腕を放す。

「どういうつもりなんだ? お前っ」

 激怒する光稀を無言で見つめた。今、俺の胸を支配するどす黒い感情は嫉妬だ。どんな言葉も感じないほど冷たく心を冷やしていくのがわかる。
 そんな俺の何かを感じたように光稀が突然言葉を止めた。

「連絡」

「……何?」

 俺の言葉がわからないように光稀が震えるような声を発した。

「待ってたんですよ? ずっと」

「あ……」

 その反応で俺からのメッセージが届いていたことを確認できた。

「知ってて連絡をくれなかったんですね?」

 ダメ押しで確認する。
 光稀からの返答はない。それだけで十分な回答だった。
 苛立ちが頂点に到達する。グッと手に力を込めると固く握りしめる。

「まさっ」

 制止しようとする光稀を無視し、左腕を振り上げるとそのまま力任せに壁に叩きつけた。
 ジンと痺れるほどの痛みが身体を走り、少し苛立ちが紛れる。
 それは、自分に対する怒りだ。光稀をそういう行動に走らせたのは紛れもなく自分自身だ。そう思うとやるせない気持ちになる。

「将人……手が」

「ん、良いんですよ。そんなモノ」

 痛々しそうに俺の手を気遣う光稀を引き寄せる。
 そこがどこであろうと関係なかった。

「あっ……」

 光稀の声が俺に吸い込まれる。
 押さえつけて唇を塞ぎ抱きしめる。

「好きです。光稀がどう思っていようと関係ない」

「将人やめっ……」

 その腕を阻止しようと懸命に抵抗するが、光稀の手には力が入っていない。傷ついた俺の手に本気を出せないでいるのか、それとも本当には嫌がってはいないのか……?

「誰かに見られたらっ」

「構いませんよ、俺は。恥ずかしいのは光稀の方だ」

そう言った俺の言葉に意味が理解できたのか、光稀の頬に朱が走った。

「大丈夫。騒がなければ誰も来ないですから」

 その耳元に囁き、その体を壁に押し付けた。
 通りからは少し離れているとはいえ、誰も来ないなどという保証は何もない。

「や……だ……」

 弱々しく光稀の声が頭上で聞こえた。
 数日ぶりに光稀に触れる。たったそれだけなのにまるで飢えるようにその体を欲しいと思った。
 服の上からその体のラインをなぞると、それだけで光稀の吐息が震える。
 その足もとに膝をつき、そっとその膨らみを外気にさらす。
 声を漏らすまいとしているのか自身の両手で口元を押えているのを見上げて確認すると、手の中で息づく彼の分身をわざと見せつけるように舌で舐め上げた。


web拍手 by FC2

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

真実からの蜜月 13 R18

 時折籠った声が漏れ出て、それが興奮を助長させる。光稀も同じ思いなのか口腔内でその昂ぶりが大きくなるのを感じた。

「ん……将人っ……もっ、イクっ」

 途切れ途切れの言葉と小さな喘ぎ声を漏らしながら、ガクガクと光稀の膝が震える。
 いつも以上に早くその限界を迎え、息を詰まらせて光稀が達する。その間も腰が小刻みに揺れ、口中に苦みが広がった。指で根元から扱きあげその先端を吸いながら綺麗に舐めとると光稀の体がビクンと震える。
 軽く服を整えて光稀を窺うと、息遣いも荒く壁に背をつけてもたれ視点の定まらない目を軽く閉じるのが見えた。

「だ…れが……」

 まだ整わない呼吸を必死で抑え込むように光稀が小さな声で言った。

「誰が好きじゃないなんて言った?」

「みつ……き?」

 一瞬のうちに理解できないでいる俺にその体が飛び込んできた。

「好きだよ。オレも」

 今まで聞いたことのないような切ない声だった。 
 胸にしがみついた光稀が唇を寄せてくる。応じるようにその頭を持ち、引き寄せた。

「うれしいです、とても」

 ようやく聞きたくてたまらなかった言葉を聞けた。そうか。と今更に思う。
 付き合いを始めてから今まで、光稀からその言葉を聞いたことがなかった。それがいつの間にか暗い影となって俺を浸食し、気づかないうちに自信まで喪失させることになろうとは今までに考えたことすらなかった。

 エレベーターで2人きりになると同時にその体を抱きしめた。
 腕の中で光稀が顔を赤らめて笑う。

「もう少しくらい待てないのか?」

 早くそうしたくてマンションまでタクシーで帰ってきたのだ。待てるはずなどない。

「ダメです。どれだけ我慢したと思ってるんです?」

 タクシーの中で運転手にばれないようにこっそりと手をつないでから、その葛藤は始まっていたのだ。
 触れられるくらい近くにいるにもかかわらず、公にそれを実行できないもどかしさ。それに耐えるのはまるで苦行のようだった。

「ん……ダメ、だって……」

 その魅惑的な首筋に噛みつくように唇を寄せると腕の中で光稀が色っぽく身悶える。

「そんなこと言いながら、もう反応してるし」

 軽く触れるだけでその存在がわかる。

「1度イッたのにエッチだな、光稀は」

「ばっ……ばかっ」

 その言葉の裏に秘められた思いがさらに胸を熱くする。
 エレベーターが減速を始め、目的の階に止まると目の前の扉が開く。

「今夜こそ覚悟してくださいね。寝かさないですから」

 俺はそう光稀に囁くと合鍵を準備する。

「それは、こっちのセリフだ。覚悟しろ」

 負けじと言い返す光稀に俺はにんまりと笑った。


web拍手 by FC2

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

真実からの蜜月 14 R18

 暗闇に浮かび上がるしなやかな肢体を背後から抱きしめ、その内部に深く腰を打ちつけ穿つ。

「っく……」

 絞り込まれるようにきつく締めつけられて思わず声を漏らし、襲いかかる快感の波を堪える。

「将人っ、また……、イクッ」

 涙声で辛そうに光稀が声を上げるのを、心地よく聞きながら首筋でも特に感じやすい耳の後ろに唇を這わせてやった。

「ヤ……ぁ」

 ピクピクと体を震わせ、シーツに擦り付けるように腰を動かす。光稀の胸で色づく二つの突起にも愛撫を加えてやるとそれだけでさらに後ろが強く締まって、俺にも限界が近づく。

「光稀、一緒に」

「うんっ……まさっ」

 光稀の欲望を手で握り、先端の敏感なところを人差し指で刺激すると、待ちかねたように声もなく精が放たれる。それを追いかけるように俺も光稀の中へ欲望を注ぎ入れた。


web拍手 by FC2

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

真実からの蜜月 15(最終話)

 しばらくは光稀の体の上に倒れこんだまま息を整え、綺麗な背中にキスを落とす。

「ん、くすぐったいよ」

 かすれた声でクスクスと笑い、逃れようと俺の下で光稀が動いた。
 それ以上は追いかけず、彼の隣に移動すると引き寄せて密着する。

「愛してる、光稀」

 腕にすっぽりと収まる頭に顔を埋め光稀の香りを吸い込むと、その体温が上昇したのがはっきりと手を介して伝わってくる。

「オレも……好きだよ」

 首まで真っ赤に染めて光稀が応じてくれる。そんなことが嬉しくてギュッと抱きしめた。

「将人……早海さんのことだけど」

 おずおずと言い出したその言葉に「うん」と返す。
 聞く準備はできていた。

「彼は、あのバーで知り合った一人でね。一緒に一晩の相手を探した相棒なんだ」

「相棒……?」

「あの容姿だから一緒にいると恋人に見られるし、嫌な相手とはそれでカムフラージュできる。だけど……」

「ん?」

「お互い同じようなのがタイプで……」

 言いにくそうに光稀が言葉を詰まらせた。

「つまり……将人みたいな『タチ』を襲うのが好きなんだよね」

「えっ?」

「だから、今夜会ったのは将人に手を出さないように言うためで」

 一瞬気が遠くなる。
 つまり光稀は俺を守るために早海に会っていたわけで、それなのに俺は光稀を取られると勘違いしてて……。

「俺は、光稀しか」

「だって、今までもあいつに横取りされたことあるしっ、将人もそうならない保証なんてないと思って……」

「俺には光稀だけだよ。後にも先にも」

 言い聞かせるように伝える。今までの経験があってのことだからこればかりはそうするしかなかった。しかし、そんな話を聞いても納得がいかないことがある。それは早海と初めて会った時のことだ。
 光稀から俺に視線を向けた時の彼の眼差しは明らかに「不快」で「敵意」を感じた。

「早海は、光稀のそういう相手ばかりを?」

「全員じゃないけど、オレがいいなって思った相手は大体そんな感じだった」

 拗ねるように断言する光稀に俺はようやく合点がいく。
 要は光稀に近づく男たちをそういう手段で排除していたという訳だ。たまたま会えないでいる間に俺が光稀の隣に収まったのが気に入らないに違いない。
 早海の気持ちを何も知らないまま、光稀は誤解し続けていくのだろう。そう思うと気の毒に思ってしまう。

「何笑ってんの?」

 俺を見て不満げに言う光稀をもう一度抱きしめる。
 彼は知らなくてもいいことだ。

「大丈夫。これからゆっくりと証明してあげるから」

「将人……?」

 絶対に離さない。胸にそう誓いながら不思議そうに俺を見つめる光稀にキスをした。



web拍手 by FC2


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

web拍手 by FC2