2012年09月 の記事一覧

蜜月の隣で 24

 オレの髪に指を絡ませ弄んでいる早海を見上げる。

「もっと、話さなきゃいけない事が他にあるだろ? 俺たちには」

真剣な眼差しが注がれて、それから逃げるように顔を背けた。もう、関係を偽る必要などないのだからオレのことなど放って置いてくれればいいのに……。

「由宇」

名前を呼ばれる。まるで電気が走った様にビクンと身体が震えた。ちゃんと向き合わなきゃいけないのはわかっているのに、いざとなると面と向かって答えを聞くのが怖い。

「好きだよ、由宇のことが」

 思ってもみない言葉が囁かれる。穏やかな口調はまるでオレに言い聞かせるようで、だけどそんな言葉を簡単に信じられるわけがない。

「そんな言葉……信じろって?」

「……そうだ」

 バカにしてると思った。けど、その言葉は口には出せなかった。早海が本気で信じろと言ってるのがわかるから。

「何なんだよ……?」

 自信に満ちた態度を見ていると悔しくなる。
 オレが早海のことを本気で嫌いになれないのをわかってる……?

「オレの事を賭けの材料にして落とせるか、からかってたんでしょ? だったらもう、賭けにも勝った訳だし、オレは必要ないだろ?」

 早海と電話の相手に話しているのを盗み聞いて俺なりに理解したことをまくし立てるように言った。それを早海はただ黙って聞いていて、一通りオレが話し終わると、一呼吸おいてそれから口を開いた。

「初めて同じ夜を過ごしてから次に連絡があるまで、気になって仕方なかった。由宇から電話があってどれだけ早く会いたかったことか……」

 思ってもみない言葉が早海から飛び出してきた。突然の告白を受けて気持ちが揺らぐ。
それでもその言葉を鵜呑みには出来なかった。

「う、そ……」

「そんな時に賭けを持ち掛けられた。俺がお前を落とせるかどうか。それで、乗る事にした」

『掛け』の内容が早海の言う通りかどうかはわからない。だけど、最後まで聞かなきゃいけないように思った。
語り出す早海を目を逸らさずに見つめる。

「2度目で確信した。誰よりも本気で由宇が欲しいって」

 そう聞いてかすかな記憶を思い出す。
 確かにあの時、部屋から出る直前の早海はどこかいつもとは違った。何かを言いたそうな、でもそれが何なのかはわからなくて……。
 自分の部屋なのに取り残された感じがして、寂しくて切ない思いを感じたのを覚えている。

「あの花火の夜は覚えてるか?」

「う……ん」

 忘れるはずもない。オレにとっての特別な、早海との記憶。
 出会ってから3回目にして、初めてのデートらしいデートだった。

「あれは賭けの相手がセッティングしたものだ」

 『賭けの相手』そう聞いてしまうと気分が萎えてしまう。あの時にはすでに賭けられていて、何も知らず会ったこともないヤツに楽しまれていたわけだ……。

「ちゃんとデートぐらいしろって怒られた」

「早海さんが怒られる……?」

 そんなの想像できなくて訊き返してしまう。
 それで早海の表情は少しだけ柔らかくなった。この話題に触れることは少し緊張していたのが伝わってくる。

「その……賭けの相手って……?」

 どうしても聞いておきたくて尋ねた。オレの予想では……。

「ホテルで会ったろう? 紹介はしなかったけど、俺の従兄弟で……」

 やっぱり、あの少年……。早海の従兄弟?

「ただの……従兄弟なの?」

 早海に対する懐き方は普通じゃなかった……と思う。いくら従兄弟でもちょっとベタベタしすぎてた。

「……? 由宇が心配するような関係はないよ」

 オレの質問が最初わからないようで、少しして気づいたようだ。

「だって……、電話してる時も……恋人みたいだったし」

「俺と、あいつが?」

 コクリと頷いて見せると、おかしそうに早海が笑い出す。

「笑い事じゃなくって……」

 ムキになって言い返す。オレは至って真面目だった。

「由宇……嫉妬してたのか?」

 確認するように言われて、しかもあまりの図星に熱のせいだけじゃなく全身が赤く染まる気がした。


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蜜月の隣で 25

 ぐうの音も言えないオレの反応を見て早海は嬉しげだった。
 自分と従兄弟の関係を怪しまれているとは予想外だったらしい。

「さすがに……あいつに手を出すなんて考えたことなかった」

 両腕が伸びてきてオレを包むように抱きしめる。

「誤解は、解けた?」

 確認するように耳元で言われると、オレはぎこちなく頷くしかなかった。
 なんだろう、この脱力感。
 勝手に勘違いして、怒って思い悩んで、その上熱まで出して……。
 ちゃんと向き合えばすぐに解決したようなことなのに大げさに騒ぎ立てたような中身のない無駄な時間。

「ごめんなさい」

 信じられなくて。疑って、真実を確かめもせずに逃げたオレを早海はちゃんと追いかけてきてくれた。

「一度手に入れたものは手放さない主義でね。……だけど」

 そんなことを言いながら、オレをベッドに押し倒し、身体の上に乗り上がって、首元をなぞるように這わせると、ある所でそれを止める。

「ココの説明を願う」

 そこは昨夜見知らぬ男に噛まれたところで……。痛みが走った時の記憶とその場所は一致していて息をのむ。

「昨日の夜、何があったんだ? 由宇」

 先程までと打って変わって冷たい声が背中をゾクリと這う。

「あの後……知らない男に声を掛けられて……」

 言いたくないのに鋭い視線が許してくれない。
 震える声で詰まりながら言い始めたオレを早海が目を逸らすことなく見ていて、胸が痛む。

「路地裏に……。でも、すごく嫌で逃げたんだけど……」

 そういう問題じゃないよね……。誘われてオレはついて行き、例え少しでもそれを許したことに違いはなくて。せっかく誤解が解けてもこれで終わりかも知れない……そう思った矢先、服のボタンが下から一つずつ外されていく。

「早海…さん?」

 声をかけると、イラついたように突然左右に押し広げ、残っていたボタンが飛ぶ。

「なっ……」

 早海の乱暴な行動にオレは身体を硬く強張らせた。
 露わになった上半身を確認するように隈なく視線が這う。一通り確認したのか不意に身体の上から降りると部屋の片隅に歩いていく。
 貞操観念の低いオレに嫌気がさして出て行ってしまうのではないか……? そんなのは絶対嫌だと思った時、パチンという音と共に部屋の明かりがつけられて、眩しくて目を細める。
 気づかないうちに太陽は完全に沈み、部屋は暗くなっていた。
 
「由宇、全部脱いで、俺に見せろ」

 壁に背を着き、拒絶をさせない強い口調で静かにオレに言う。しなければそのまま帰ってしまうかも知れなくて、不安を感じながらオレはベッドから降りた。

 まず、シャツに手をかけ、袖から腕を抜き足元へ落とす。同じように下も脱いでしまうと煌々とした明りの下、全裸を早海に晒した。
 恐る恐る、早海を窺い見ると悠然とした態度で煙草に火をつけ煙をくゆらしている。

 この部屋で自分だけがあられもない姿で、それがとんでもなく恥ずかしくて、隠すものもなく立ち尽くすオレを凝視するその視線だけで変になりそうだ。

「ベッドに腰掛けて、大きく脚を開くんだ」

 強い命令口調は変わらなくて、その内容を実行するにはあまりにとんでもない格好で拒否したくなる。きっと一度でも拒絶すれば早海は許してくれなくなるような気がして、ベッドに向かった。


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蜜月の隣で 26 R18

 腰を下ろし膝を立てて脚を大きく開いて、壁に背を着いて座るとその中心に早海の視線が注がれるのを感じた。
 吐息が熱くなってくるのは熱とそれから尋常じゃないこの状況で興奮しているから。

指示がないまま、時間だけが経過する。不安と混乱と羞恥でわけがわからない。


どうすればいい? どうすれば、早海は満足する……?

 
 視られているうちに脚の間で形を変えはじめたそれに手を伸ばす。片手で包むようにして持ち上げて、さらにその奥でまだ固く閉じた蕾に、自分で十分舐めて濡らした指を突き立てるとゆっくりと中に侵入させた。
 最初は拒むようにきつく締まっていたのに、指を出し入れするほどに緩まり指の付け根まで飲み込んでしまう。

 見せつけるように自身の後口を指で犯しながら吐息を吐く。早海の眼差しが熱くて目を閉じても逃れられずに視姦されているみたいだ。

「あ……、ん……早海さん」 

 軽く目を閉じ、早海を呼ぶ。誘うようにもう1本指を入口に這わせると敏感になった粘膜が収縮して中の指を締め付けた。

「早海さんじゃなきゃ……やだ。ココは……貴方しか知らない……」

 熱くて辛くて、目尻からは溢れ出した涙が流れ落ちた。
 そっとその滴が指で拭われる。目を静かに開くとすぐそばに早海の姿があった。

「んっ……早、海……」

 言葉ごと唇に吸い取られる。さっきまでの冷たさが嘘のように優しくて、蕩けそうな頭をさらに甘美に痺れさせる。長い長いキスはオレの不安だった心を宥めて癒してくれた。

「由宇、舌で舐めて」

 口元に指を差し出されて、言われたとおりに舌でその指を奉仕する。少しして指が口から引き抜かれ、十分に濡れているのを確認すると、今もオレの指を咥えこんだ部分へとぴったりと押し当てて、入ってきた。

「そのまま、抜かなくていいから」

 同時に体内で早海と自分の指を感じて、指を抜こうとしたオレの手の動きを察してそう言う。

「だって……あっ、や……」

 困惑するオレに構う事なく、早海が指を探るように動かし始めた。そうする事で自身の指共々キツく締め上げてしまい、その存在を再度認識してしまう。
幾重にも違う形の刺激を受け、早海から与えられるモノだけで頭がクラクラしてくる。

「アツ……い……早海さん……」

「ん……、由宇」

オレの限界を感じたのか、早海に手を添えられながら指が身体の外へ出された。

抱き締められ、ベッドに仰向きにされる。ホッとしたのも束の間。
 両脚が大きく広げられて膝は折り曲げられるとその間に早海が身体を押し進めてくる。

両腕で早海の肩を押し返したけど、ロクに力も入らない。抵抗出来ないままに受け入れを余儀なくされ、存分に拡げられて緩まっていた後口は早海を呑み込んだ。

「早、海さん……早海さ、ん……」

 途切れ途切れにその名を呼ぶ。ギュッと抱きしめられて小刻みに突き動かされ、息が短く速くなる。

「由宇……由、宇」

 求められて必死にその背中にしがみつく。固く抱き締め合い息ができなくなるほどに唇が塞がれる。

「お前は、俺だけ知ってればいい……誰にも触らせるな。これからもずっと……」

「んっ……あっ……ああっ」

 ガクガクと揺さぶりが激しくなり、返答できるような余裕もない。
 知っててそうするのか、それともこれも命令なのかわからない。だけど、早海のその言葉はオレにとってはすごく欲しいモノで、嬉しくて涙がまた溢れて零れ落ちた。


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蜜月の隣で 27

 はぁ……。

 ベッドの中でため息混じりに息をつくと、オレは早海がいる方をこっそりと恨めしく見た。
 熱はぶり返してしまったようで、身体は熱くて気だるい。そうなった理由はもちろん分かってるし、どちらかと言うと自業自得だから仕方ないとも思う。だけど、何故だかモヤっとしたモノを感じずにいられないのは、多分早海がとても上機嫌なせいだ。

「……納得、出来ない」

 オレ一人がこんな目に合うなんて絶対おかしいと思う。
 大体シャワーを浴びていてあの場に居なかったとはいえ、早海があんな内容の話をしていたことが原因だし、それを聞いてどのように解釈するかなんて言うのはオレの感性とか何かわからないけれど、とにかくそういう雰囲気とかが関与しているわけで。どう考えても誤解をしたオレに責任を転嫁された気がする。
 確かに、その後のオレの行動はかなりまずかったと反省してる。正当化するわけじゃないけれど、あまりのショックで何が正しい判断なのかを考えられなかった。だから、見知らぬ男について行ったのは、あれは単なる事故だ。

「理不尽だ……」

 ボソリと呟いた言葉は早海には届かなかったようで、何かを手にこちらへ戻ってきた。

「何か、言ったか?」

 反省とか後悔なんて言葉から縁の遠そうな早海に、そんな風に尋ねられても答えられるわけがない。
 仕方なくオレの意識は彼が手に持っているものへと移った。ベッドから這い出してそれを覗き込む。

「な……んです? これは」

 聞かずにいられないモノが器の中にあった。
 白くてドロっとしてて、所々焦げた感じもある。とにかく『得体の知れない何か』としか言えない。
 早海はそれを匙で一掬いすると、オレの口元に差し出す。

「いいから、食べろ」

 そんなモノを押し付ける態度は明らかに脅迫だと思う。
 一瞬身を引いたオレは、早海とそれを交互に見比べ食べるべきなのか充分な時間をかけて悩む。

「そうか……さすがに熱すぎか?」

 オレが食べようとしないのをそんな風に解釈したらしい。
 自分の口元まで持っていくと息を吹きかけて冷ましてくれる。

 いやいや、そういうんじゃないんだけどな……。

 意外に甲斐甲斐しいその姿を見ながら、更に食べなきゃいけない事態になりつつあることも感じてしまう。

「ほら、あーん……」

 再度オレに匙を近づけて、まるで子どもに言うみたいで可笑しい。
 あまりに勧めてくるものだから一口くらいならいいか……なんて気になってきて、思い切ってそれを口に含んだ。

「ん……あ、おいしい」

 見た目はどうあれ、思っていた以上に味は整っていた。

「そうだろう?」

 やけに自信たっぷりな早海の表情に既視感を感じた。あれは……そうだ、初めて連れて行ってもらったあのバーで、あまりに美味しくて褒めたらまるで自分の手柄のようにしてた……。

「誰に、作ってもらったんですか?」

「ん? これは行きつけの店の店主だ」

 これだ。本人は全くそんな意識はないし、それをどうとも思っていない。だから変な見栄を張ることもない。とても自分に素直で正直だからこその尊大な態度だから、いつの間にか許してしまうのかもしれない。

「作ってくれた人、電子レンジで温めるように言ってませんでした?」

「そういえば、そんな事言ってたかもな?」

 たぶん、聞いてなくても火を使うより電子レンジで温める方が楽だと誰もが思うはずなんだけど、そんなことも早海は知らないのか……。焦げているところを見ながらそんなことを思うと笑えてくる。

「ほら、続き食べろよ」

 そう言うと更に一匙掬い上げてくれた。オレが笑っていることに気分を害したような素振りを見せてはいたけれど、実のところ照れ隠しなのかと思うと可愛く見えて、でもやはり可笑しかった。
 

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蜜月の隣で 28

 食事が終わり、すっかり空になってしまった器を見ながら、何か違和感を感じる。
 どう考えても準備が良すぎる早海に疑問を感じずにいられない。

早海はどのようにしてオレが体調を崩して仕事を休んでいることを知ったのだろう?

早海の口から聞きたくなりながら、隣で仕事の状況を電話で受けている男をそっと見つめた。
早海が居ないと進まない事があるようで、時折深刻そうな顔をする。

「何だ? 心配そうな顔だな?」

電話が終わって、そう言うとオレの額に手を伸ばして熱を確かめる。それから少し安心したように笑った。
食事の後に解熱剤を飲んだから少しラクになってきている。薬の影響で少し眠気も出てきて、頭はボンヤリしていた。

「もう、オレは大丈夫だから。仕事、戻ってよ。大変なんでしょ?」

早海の足を引っ張るような存在にはなりたくない。

「アレは……大丈夫だよ。ちゃんと指示したから」

「だけどっ……」

まだ反論しようとした唇をキスで塞がれる。

「ん……」

角度を変えて深く合わせられ、早海の胸にしがみつく。
オレだって今夜は早海と一緒に過ごしたい。だけど、今、それだけのことで他に迷惑をかけるのは違うと思う。

「……わかった。仕事に戻る」

ため息と共に早海が重々しくそう言った。どうやらオレの気持ちを汲んでくれたようだ。

「ちゃんと安静にしてるんだぞ」

念を押すように言う。
うん、と頷きながらも切なくなってしまうのは仕方がない。
自分から仕事に戻るよう促しておいて、笑顔で見送れないなんてすごく矛盾していると自分でも思うのに、うまく表情が作れない。

「由宇……」

早海が玄関の扉を開ける寸前、最後とばかりにギュッと抱き締められ、その後呆気ないほどあっさりと解放された。

「じゃあ、行ってくる」

「ん、いってらっしゃい」

微妙な笑顔で送り出し、玄関の扉が閉まった。
この部屋から早海を送り出すのは二度目。そういえばあの時もこんな気持ちだったかも知れない。
まだ近くにいるかも……と思うと静かに音を立てないように鍵を掛け、トボトボとベッドに戻りながらそんな事を思い出した。


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