2013年02月 の記事一覧

闇に月は融けて/番外編 その14


はじめるまえに……

 気づいたら、昨日5万Hitを達成してました
 みなさま
 ご訪問ありがとうございます!

 5万Hitの御礼が出来ればいいのですが……

 とりあえず、番外編が終わったら考えますね

 あっ、でも、その前にバレンタイン企画ですね
 こちらもおいおい……w

 今回は少なめです
 調子がでなくてごめんなさいっ

 ではでは、続きをどうぞっ (≧▽≦)ゞ




 連休の前日だというのに、寄り道もせずまっすぐ帰宅する。
 今までなら適当に食事を済ませて、呑みに出かけていたに違いない。自分以外に誰もいない部屋で、時間を持て余すだけの長い夜を一人で過ごす。
 レンタルしてきた映画を観ながら毛布にくるまっていると、いつの間にかウトウトとし始めていた。
 自分を温める毛布からは正木の匂いがして、まるで彼に包まれているようだ。
 少し前まで自分のものしかなかったはずの殺風景な部屋には、今や正木の私物がところどころに目に付いて、彼用のマグカップや二人分の食器。それから脱いだままになっている部屋着などがあって、すでに自分だけの空間ではなくなっていることをオレに伝えていた。それらは決して迷惑などではなくて、それどころか嬉しいような恥ずかしいような気分にさせてくれる。
 なのに今、その存在が近くになくて、ぽっかりと穴が開いたような孤独感を感じる。 

「早く……会いたいよ、正木……」

 心の底からそう思う。
 今この同じ時間を、彼がどんなふうに過ごしているのだろう。
 出向は今日で最終日のはずだから、どこかに呑みに出かけているだろうか。それとも、オレと同じように1人で過ごしているのか……?
 彼の匂いが染みついた毛布をぎゅっと引き寄せると大きく空気を吸い込んだ。

 彼の香りは切なくて、胸にキリッと痛みが走る。

 ひと眠りすれば正木の方から会いに来てくれるだろうか?
 いつもと同じ満面の笑顔で、オレの名を嬉しそうに呼んで、誰よりも安心を感じるその腕に抱かれる。離れていた時間はそれだけで心の隙間を埋めて、オレは満たされていく。

 そんな想像をしようとするのに、何故だか浮ぶのは最後に見た正木の悲しげな……。

 何度考えても、どうして正木が『東堂』なんて名前を口にしたのか。その説明がつかない。自分と『東堂』との関係を知っているのは、今となってはごく限られた人だけのはずなのに……。
 だから考えられることはただ一つ。
 誰かが故意に正木へ知らせたってことだ。
 一番疑わしいのは高林部長だけれど、彼があの件の腹いせにそんな事をするとは考えにくい。正木をただ不愉快にさせるだけなんて、あの人らしくないけれど……。
 だけど、それさえも証拠は何もないし決めつけるには確証もない。

 思考は堂々巡りを繰り返すばかりで答えなどは出ないけれど、一つだけ決まっていることがあった。
 正木が望もうが拒否しようが、『東堂』とのことは話すつもりだった。
 それで彼の不安が解消されるなら、それ以上の事はない。
 だって、オレと『東堂』の間にあったことはすでに過去の出来事で、自分にとって今一番大切なのは正木なんだから……。

 そこまで考えると軽く目を閉じ、一息つく。
 それまで混乱状態だった問題を整理すると、少しだけ気持ちが軽くなった気がして、急激に眠気が襲ってくる。

 何もかも、明日……正木次第……だ。

 

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闇に月は融けて/番外編 その15

はじめるまえに……

 ようやく連休突入です
 甘いクリスマスだけの予定が
 思わぬシリアス路線で
 計算外なのです

 まぁ、それもいいだろう……
 番外編という名の
 第2シーズンみたいでw
 
 ではでは、続きをどうぞっ




 どれくらい経ったのか、来客を告げるチャイムが鳴ったような気がして目が覚める。
 テレビに目を向けるとすっかり映画は終わっていて、DVDの最初のメニュー画面が開き何度も同じオープニングの曲が繰り返されていた。
 なんとなく音が耳障りで、リモコンを手探りて手繰り寄せるとデッキの電源を切る。
 しんと急に静まり返って、今度は何かが物足りない気がする。

 聞こえたと思ったチャイムの音は気のせいだったのか、再び鳴ることはない。
 何時なんだろうと時計へ目を向け確認すると、すっかり日付を超えていた。こんな時間に誰がくるというのか……。
 きっと聞き間違いなのだろうと、もう一度毛布を被り直し目を閉じてみる。けれど、やけにそわそわして、もしかしたらなんて思うと確認せずにいられない。
 毛布から這い出してフラフラと玄関へと向かい、解錠する。

 誰も居なかったならそれでいいんだ……。

 自分に言い聞かせるように扉をほんの少しだけ開けて、隙間から通路の様子を見る。
 わずかに開いただけでは表の様子がわからなくて、ゆっくりと扉を開けた。
 すると通路の壁際、屋外灯の白っぽい光を受けて黒く沈んだ影を見つけ、思わず扉を勢いよく全開にすると外に飛び出していた。

「久市さん……」

 それは見つけられて困ったように笑って見せて、オレを呼んだ。

 どうして、こんな所に居るんだろう。会えるのは夕方くらいになると言っていたのは、正木自身だったのに……。

 目の前にいるのが信じられなくて自分の目を疑う。
 まだ、夢を見てるのだろうか……?
 でも、薄着のオレの身体から急激に体温を奪っていく冷気と、頬に受ける痛みにすら感じるほどの冷たさは、夢なんかじゃなく……。

「終電じゃ帰れなくて……。だから、泊めてもらえないですか?」

 オレを見て少し悩んでから、困り顔のままそんな事を言う。
 でも、正木に言ってもらいたいのは、そんな本心を押し隠したような言葉ではない。

「……正木」

 彼を招き寄せるように手を伸ばし、外気に晒されて冷たくなった彼の頬を両手で包むように触れる。そうすると正木の腕がおずおずとオレの腰に回ってきて、身体がぴったりと合わさった。
 
「もっと他の、帰ってきたら言うべき言葉があるだろ?」

 真っ直ぐに間近にある正木を見つめ、憮然とした口調でやり直しを求めた。
 だって、ここは……。この部屋は正木が帰ってくるべき場所だと……そう彼が思っていたんじゃないのか?
 だから部屋には正木の私物が持ち込まれて、それがすんなりとオレの空間だったところに融け込んで、我が物顔で占拠しているんじゃないのか?
 分かりにくいかも知れないけれど、オレの意図をわかってくれることを信じて、彼が放つ次の言葉を待つ。

「……だた、いま……」

「おかえり、正木」

 合っているのか確認するように、口ごもりながら言った正木に、オレは大正解といわんばかりに満面の笑みを浮かべると冷気を纏った身体へと自身をすり寄せた。


 部屋に戻るとがっちりと強く抱き締められて、まるで捕獲された様に壁に押し付けられてキスを受ける。
 重なる唇は冷たくて、でも彼の吐息は温かくて。たかが3日間離れていただけなのに、気持ちの上ではそれ以上だったように感じられて、もっととオレからも催促するように深い交わりを求めていた。

「仕事が終わって、まだ最終の便に間に合うと思ったらいても立ってもいられなくて、気づいたらここに向かってたんです」

 オレの疑問に答えるように正木が話すから、オレからも疑問を投げかけてみる。

「早く、オレに会いたかった?」

「当然じゃないですか」

「連絡の一つも寄越さなかったクセに……?」

 恨み言を言うと正木はどう言っていいのか迷うように苦笑する。

「すみません」

「あんなこと言ったあとに、そのままいなくなるから……」

「……」

「すごく不安、だった……」

 そんなつもりは全く無かったのに、滑るように弱音を吐露していく。
 正木がやけに優しく感じられて、素直にオレの話を聞いてくれるから、きっとそれに甘えていつもなら言えないことまで言えてしまうんだ。

「……すみません、久市さん」

 啄むような軽いキスをすると、正木は言い逃れをするわけでもなくただ謝罪する。
 けれどその表情は少しだけ強張って見えた。
 やっぱり、まだ気にしているんだ……だから、オレに連絡が出来なかったんだろう?
 
「オレが好きなのは、正木だけだ……だから話すよ。どんなことでも」

「え、……あ、でも……」

 ひどく動揺して見せるから、オレは彼の名を静かに呼んだ。
 すると、ぴくんっと何かに怯えるように正木の身体が跳ねる。

「聞いてくれる……よね?」

 とどめを刺すようにそう言うと、正木は観念したように無言で頷いた。



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闇に月は融けて/番外編 その16


はじめるまえに……

 更新、遅くなりました

 ついに久市さんが話し出すのか?と思いきや……

 ではでは、続きをどうぞ (≧▽≦)ゞ




 自分の部屋に正木がいる。
 彼がここへ来るようになったのはつい最近の事だというのに、居なかった3日間はぽっかりと穴が開いたように感じられて、その隙間をどう埋めればいいのかわからなかった。
 いつの間にか浸透していったその存在は、自分にとっても傍に居て当然になっていて、視界にあるだけで心が安定し落ち着く。

「正木、先に風呂にでも入る?」

 話を聞けとは言ったけれど、改まって膝を突き合わせてっていうより、もっと自然な形で話がしたくて。それに抱き合った時の正木の身体があまりにも冷たく感じられたから、このままでは風邪でも引いてしまうんじゃないかと、そんな気がした。

「……そうですね」

 正木の口調はどこかよそよそしく感じられて、それがオレの胸をもやっとさせる。

「じゃ、お風呂入れてくる」

 どうせまたオレが話をするのを避けていると、そう思ってるに違いない。
 でも、それを否定せずにオレは正木に背を向けた。
 いつまでもウジウジとしているのは正木らしくない。それにオレのことを信じてくれるなら、きっと乗り越えられると思った。正木は男だし、救済の手を差し伸べられるのをただ待っているだけの奴ではないはずだから、それを信じている……けれど。

「早く気づけよ……」

 バスタブに溜まっていく湯をしゃがみこんで見ながら、独りごちた。
 昔から感情の起伏が少なくて、好きと嫌いの差が自分の両親でさえ判断が難しいのは知っていた。けれど、正木に対しては今までにないくらい積極的な行動をとっているから、どれくらい彼を好いているのかなんてわかってもらえるはずなのに。どうしてだろう、うまくいかないのは……。自分に何が足りていないのだろう? それがわかれば、正木は不安を感じなくなるのだろうか?

 ぼんやり考え事をしていると、突然黒い影がオレの上に落ちて驚いて見上げる。
 水音でそれ以外の音はかき消されて、全く聞こえていなかったしその気配すら感じなかったけれど、そこにはスーツの上着を脱いだだけの正木がいて背後から抱きしめられる。

「なかなか……、戻ってこないから」

 オレの肩に顔を埋めるようにして一呼吸すると、寂しそうにそう言った。

「どこかに行ったわけじゃないだろ?」

「そうですけど……、離れてるのは嫌です」

「そんな子供みたいなこと言って……」

 苦笑すると、ギュッとオレを抱く腕に力が籠められる。
 そんな行為が、まるで誰かにオレを獲られまいとするみたいで、子供じみた正木の独占欲を感じた。

「こういう気持ちは初めてで……どうすればいいのかわからないんです」

「そんなの……」

「久市さんは平気なように見えるのに、自分ばかりが熱くなっているようで……。そう思うと貴方が、仕方なく俺に付き合っているように見えてきて……、不安で……」

 やはり、正木にはオレが淡々としているように見えていたのか。
 そう正木が受け止めていたのなら、その程度にしか彼に自分の想いを伝えていなかったことになる。それは不本意なことだけど、認めるしかない。

「あの会議の後、部長から『東堂』って人の事を聞いたんです」

「高林さんから……?」

 まさかとは思っていたけれど、出所はやはりそこだったのか。
 背後の正木の顔は全く見えないけれど、わずかに頷いたのがわかった。

「出向することが決まって、念のためと思って……、そうしたら……、久市さんが今も忘れられない人がいると教えられて……」

 オレに手出しをしないよう釘を刺しに行ったら、返り討ちにされたって訳だ……?
 あの人は人の弱点を見つけるのが上手い。正木がそれまで何とも思っていなかったくらいの小さな心のほつれに気付かせることも、おそらくは容易だったことだろう。

「貴方は『東堂』って人の事を隠そうとするうえに、一緒に暮らすことも拒否するようなことを言うし……」

 だからあの日の帰りから様子がおかしかったのか。
 話を聞いて、ようやく全てにおいて合点がいく。
 独りで思い悩んで、答えの出ない袋小路に追い込まれて、そして耐えきれなくなってオレから逃げたのか……。

「正木……」

 オレは蛇口をひねって湯を止めた。
 それと連動するように、正木も口をつぐんだ。




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闇に月は融けて/番外編 その17

はじめるまえに……

 今回でようやく東堂さんの正体がっ!!

 ではでは、続きをどうぞっ (≧▽≦)ゞ




 静かになった浴室、蛇口に残った水滴がバスタブに落ちる音がやけに大きく聞こえた。

「東堂っていうのは、以前オレが秘書をしていた頃の副社長の名前だよ」

「秘書……? 副社長?」

「うん、最初の配属先は秘書室で。そして、オレは当時の副社長の恋人だった」

 もう10年も前の話だけど、オレの記憶の中で今でもあの頃は別格だ。
 一番充実していて、何もかもが新鮮で。あまりにもたくさんの事があり過ぎて一言では言い表すことができないほどの時間だった。

「社会人になって間もない頃で、彼にはたくさんのことを教わった。確かに今でも特別な人だよ。けれど、恋人としては……」

 懐かしさと同時に、辛い記憶が甦る。
 でも、正木に話すって決めたんだ……。

「彼の秘書になってからすぐにベッドに誘われた。オレみたいなのは同類ならすぐにわかるって言われたな。最初は半分くらい遊び感覚で、その内に夜も昼も一緒に行動するようになった」

 濃厚すぎるほどの、あの人と共に過ごした時間を思い出す。
 ベッドから片時も離れずに、疲れ果てるまで互いを求め抱き合ったこともあった。

「東堂に溺れていたと言えばそうかもしれない。彼から与えられた愛情は、それまでにないほど深く感じられて、何もかもを差し出してもかまわないほどに傾倒していた。……でも彼にとっては最初から遊びだったんだろうね」

 きゅっと胸を鷲掴みにされたような痛みが走って、知らず知らずその場所を押さえた。

「付き合って半年が経ったある日、突然別れを切り出された。転属もさせられて、会えなくなってから1か月もしないうちに東堂が結婚するって聞いたんだ……」

 信じられなくて、まさかそんなはずがないと思った。でも、それらは事実だとわかった時、東堂の元へ向かっていた。

「オレとの関係をどう思っていたのか……。そんな事をしなくても、本当はもう気づいてたんだけど、直接確認せずにいられなかった」

 彼の部屋の向こうに聞こえた女性の声と、それから彼の迷惑そうな困った顔。
 婚約者はグループ内の有力者のお嬢さんで、権力を握るためなら比較せずとも選択すべき相手がどちらかはわかっりきっている。
 自分の取った行動があまりにも未練がましくて、惨めで自己嫌悪に陥った。

「しばらくして、銀行にはに見たこともないような大金が振り込まれていて……、振込人の名前を見て、あの人の気持ちをはっきりと知った」

 オレには掛け替えのない大切な時間と記憶だけど、あの人にとっては金で解決したいほどの黒歴史なのだと……。

「それ以来、オレが関係を持つ相手は決まって偏るんだ」

「高林部長のような既婚者?」

 それまで黙って聞いていた正木が、ようやく口を開いた。
 オレが首を縦に振って『その通り』と示すと、ぎゅっと抱きしめる力が更に強さを増した。

「彼と同じような境遇の人と不倫することで、オレとの関係を金で買おうとした東堂に間接的な復讐をしたかったのかもね」

 自嘲気味に笑い、バスタブの湯を手ですくう。
 ほんの少し熱いめに設定した湯加減は、調度よく感じた。

「東堂から振り込まれた金でこの部屋を買った。だから、ここのローンは完済しているんだよ、正木」

 帰りの電車でわざと話題を逸らした理由。そんな金で買った場所にこれから二人で住むことに抵抗を感じるのではないか、正木が嫌な気持ちになるのではないかと思うと言えなかった。

「……嫌になった?」

 こんな話を聞かされて、正木はどう感じたのだろう。
 話している間、背後にいた正木の様子は見れなくて、どんな表情をしているのか今もまだわからない。

「そんなこと……」

 正木の声が感情を押し殺そうとしているように聞こえて、オレはゆっくりと振り返ろうとしたけれど正木に阻止された。

「俺は……、東堂さんとは違いますから」

 はっきりと宣言するように言って、背中に正木の額が押し付けられる。

「本気で、久市さんが好きなんです……誰よりも」

「うん……」

「だから……」

「わかってる……、正木」

 オレは正木の手に自分の手を重ねて握ると、身体を捩じって正木を見る。
 自分から唇を寄せて彼の唇に重ね、にっこりと微笑んで見せた。

「オレも、正木以外には何もいらない」

 正木の本気はちゃんとオレに伝わってるから、だから彼にも知って欲しい。どれだけオレが正木を好きなのか……。



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闇に月は融けて/番外編 その18


はじめるまえに……

 更新、ようやく出来ました ・゚・(*ノДノ)・゚・
 悩みまくって
 あーでもないこーでもない……

 ようやくお届けすることができるので
 ほっとしています

 ではでは、続きをどうぞ (≧▽≦)ゞ




 蒸気が立ちこめる浴室で二人、タイルの上でしゃがみこんで向き合っていた。
 正木に手を伸ばす。指が絡め取られ、引き寄せられてその胸に顔を埋めた。
 ドクンドクンと彼の鼓動が聞こえて、自分の音と重なる。仰ぎ見ると優しげな眼と合って、それだけでオレの胸はきゅんと締めつけるような痛みを感じた。でもそれは辛いからじゃなくて、もっと甘くて切ない感覚で……。
 オレは力を抜いて身を委ね、凭れかかるように正木にピタリと寄り添って目を閉じる。
 正木はオレの頭に顔を埋めると深く息を吸いこんで、そして細くて長い吐息をついているのを感じた。まるで、オレの匂いを堪能するみたいで、恥ずかしさで顔が熱くなる。

「この3日間。どれだけ貴方に触れたくて、恋しかったか……」

「う、ん……」

 正木の声は耳に心地良くて、自分だけに囁かれる言葉なら尚更、いつまでも聞いていたくなる。

「オレも……」

 帰宅して家に帰ると、慣れていたはずの一人っきりの部屋がやけに広く感じた。ベッドに入れば1人きりなのだと自覚させられて、毛布に残る正木の残り香に包まれることで隣に彼がいるような気がして、孤独を紛らわしていた。

「正木の事ばかり考えて、……寂しかった」

「本当、に?」

 驚きを含んだ声がして、オレは小さくうんと頷く。

「嬉しいです」

「……っあ……」

 耳元に唇を近づけ囁やくから吐息が触れて、それがくすぐったくて声をあげて首をすくめた。

「もっと、触っても……いいですか?」

「う、ん……」

 正木の手がスルリと服の裾から入ってきて肌に直接触れる。浴室の熱気でしっとりと汗ばんだ身体の上を正木の指が確かめるように移動し、裾が持ち上げられて彼の目に素肌が露出する。

「もう、痕は残ってないんですね」

 服を剥ぎ取ってオレの胸の辺りを見て残念そうに言ったあと、すぐに指で鎖骨の辺り意何かを見つけたようで、指で突くと嬉しそうに笑う。

「ここだけ、ほんの少し残ってる……」

「だって……正木が噛んだから……」

「そうでした?」

「……そうだよ」

 正木は全く覚えていないようだけど、オレの記憶にはその場所への痛みが残っているから間違いない。少しだけ憮然としながら答えて、正木を睨み付けた。
 鎖骨の辺りに指を感じながら、オレは正木のシャツのボタンを上から順に外していく。
 浴室の明かりの下で、彼の上半身が露わになる。昔スポーツをしていたのか、筋肉が程度についていて、均整のとれた身体を維持している。

「どうしました?」

「う……ん」

 正木の身体に見惚れていた。
 自分の筋肉のあまりついていない貧弱な身体とは違って、男らしくて……。

「そりゃ、モテるよね……」

 溜め息が出る。
 今までも正木にはいつだって女性の影がチラついて、女性からのアプローチはこれからも変わることはないのだろう……。なんて、心配が過ぎる。

「そんなこと、……俺は久市さんしか……」

「オレなんかより魅力的な人なら、他に……」

 たくさんいるはずだ。って言葉を言うことは出来なかった。
 正木の唇に塞がれて、吐息も奪われる。

「……いないです。久市さん以上のヒトなんて……」

「正、木……」

 真剣な……、真摯な瞳に見据えられて、オレはそれ以上自分を卑下する言葉は言えなくなる。

「自分がどう見られているのか、貴方は知らないから……」

「どう……って」

 密かにクールビューティなんて呼ばれてることはとうに知っている。
 でも、『どう見られているのか』なんて考えたこともなくて。ただ、重役連中からの熱い視線はあまりにもあけすけだから、感じなくはないけれど……。

「あわよくば関係を持ちたいって連中が、社内にどれだけいるか」

「そんなの、オレが知るわけない」

「男の割に腰が細くて、色白で華奢で……、見た目もキレイで。その上、近づくとイイ匂いがする……」

 その最後の匂いについては正木の独断だと思うけど。
 抱き上げられて、正木の膝の上に座らされる。ウエストを留めていた紐が解かれて、下着と共にズボンが引き下ろされ脱がされた。

「1人にして、誰かに横取りされるくらいなら……いっそ……」

 正木の唇がオレの胸や鎖骨の辺りを這い、オレは正木の首に腕を巻きつけて、彼の頭を胸に抱きしめる。

「……いいよ、正木になら……何をされても」

 例え殺されたとしても、きっと……。

「オレも……、同じ立場なら、そうすると思うから」

 前かがみになると、仰ぎ見る正木と目が合って、彼の額に誓うようにキスを落とす。
 正木が自分以外の誰かとなんて状況には、耐えられないから。

「浮気なんかしたら……許さない」

 ボソッと呟くように言うと、『そんなことしないですから』と正木は笑って答えた。


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