2013年03月 の記事一覧

部長×久市 背徳の月影 1

はじめるまえに……

 こんな話を読みたい人がいるのかどうか
 全く分かりませんが、
 部長と久市さんのとある一夜です
 少しだけ続きます

 次回はR18です

 ではどうぞぉ (≧▽≦)ゞ




 仕事を終えて部屋を出ると、そこには珍しい人物がいた。
 営業部の部長、高林 敏次。彼はオレを見るとニヤリと口の端を上げ笑みをこぼす。それはまるで欲しい獲物を見つけ、捕獲に成功したかのように見えた。
 彼がここへ訪れた理由はなんとなくわかっていた。身の危険を感じてすぐにでも逃げ出したいのに、彼から発せられるピリピリとした空気を全身に感じるとそれも叶わない。
 エレベーターの扉が開き、互いに無言のままそれに乗り込む。
 まるで見えないロープで縛られ操られるように行先を誘導されて、社屋ビルから数メートル離れた所でタクシーに乗せられた。

 いつものホテルに到着すると、腕を引っ張られるようにして客室用のエレベーターに乗せられる。
 準備の良い事に彼はすでに部屋のカードキーも入手済みらしい。

「随分大胆な行動をするんですね」

 社内で堂々と待ち伏せて、しかも職場からあまり距離の離れていないところでタクシーを拾い、2人同時にホテルに入るなんて。誰かが後をつけていたとしたら彼との関係は一目瞭然だろう。
 それまで会話らしい会話もなかった空気を壊し、高林に嫌味っぽく告げる。

「こうでもしないと、いつまでも逃げるつもりだっただろう?」

 わかったように言われ、オレは視線を足元に落とす。
 先週末、彼からの呼び出しにオレは応じなかった。
 彼と愛人契約を交わしてから3か月が過ぎようとしていた。罪悪感は日増しに大きくなり、彼との関係を清算したいと思っているのに会えばそんな事を忘れてしまう。それを繰り返すのはもう限界だった。
 良心の呵責に耐えかねて無視をすることにしたのが先週のこと。
 このまま彼との関係を自然消滅にすることができないかと、この1週間逃げ続けた。
 彼が強行的な手段に出てきたのにはそんな経緯があってのことだった。

 エレベーターが止まり、扉が開く。
 いつも利用する階とは少し様子が異なるような気がした。

「このフロアーって……?」

 見ると降りた階は最上階にほど近いことが、部屋番号からわかる。
 それに、ワンフロアー内の部屋数も極端に少ない。

「いつもの部屋は狭いからな」

 彼に背中を押され、部屋に導かれる。彼の言葉通りよく利用しているツインルームの3倍はあろうかという広さで、部屋は2つに分かれていた。
 でも一体何の目的でこんな場所を用意したのか、得体の知れない不安が胸を過ぎる。

「久市。『契約不履行』って、知ってるか……?」

 高林の背後で扉が閉まると錠が下ろされる鈍い金属音がした。それと共に彼の言葉が不気味にオレの耳に届いた。


 服を脱ぐように指図されてオレはのろのろと衣服に手を掛ける。
 上着もスラックスも、堅苦しいネクタイも床の上に落とすと、あとはシャツ一枚を残したところで高林に抱きすくめられた。

「とし……つぐさん……」

 息苦しくて彼を仰ぎ見ると、それを待ち構えていたように唇が覆われる。
 2人っきりの時だけ呼ぶことを許された彼の下の名前。それは彼にしても同じで。オレのことを下の名前で呼ぶのは、こんなふうに閉ざされた空間だけだ。

「遥、どうして来なかった?」

「それは……」

 思っても見ないほど優しく尋ねられて言い澱む。
 彼が既婚者であることを知っていて身体を繋げ、更には愛人という立場を受け入れた。
 それなのに今更、罪悪感なんて言葉をオレが口にするなど出来なかった。

「お前は、俺に従っていればいい」

「そんなっ……」

 勝手なことを言う男に、オレは抗議するように声を荒げる。彼の口ぶりからは、オレの意思など必要がないかのようで。オレという存在が根底から否定されたような気がした。
 結局彼が求めるのは、自分に都合良く性欲を処理できる相手なのか。

「どうしてそんな顔をする? 俺に従っているだけだと思う方が楽だろう?」

「だけど、それじゃ……」

 自分が求めるものとは意味合いが大きく異なってしまう。それは嫌だった。

「割り切れないから、来れなかった。違うのか?」

 高林の言葉に反論できず、黙り込む。
 割り切る? そんな事が出来たならとっくにしていた。いつまでたっても背徳心と倫理観はつきまとって、心の中にいる弱くて愚かなオレを責めたてる。

「遥」

 黙り込むオレの頭の後ろに高林の手が差し入れられて、また唇が塞がれる。
 下唇の弾力を楽しむように彼の舌先を感じて、少し口を開くとそれは差し入れられてくる。口腔を好きなようにさせていると、舌を絡め取られて吸い上げられる。

「ん……ぅ」

 喉の奥から甘い声が漏れると、ようやく解放された。



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部長×久市 背徳の月影 2 R18

 
はじめるまえに……

 性描写が含まれる内容となっております
 年齢の満たない方、
 苦手な方や嫌悪感を感じる方は
 閲覧を控えていただくことをお勧めいたします
 
 では、続きをどうぞ (≧▽≦)ゞ




 彼の足元で膝を突いて立ち、彼の熱い滾りを口で奉仕する。
 髪に差し込まれた彼の手はオレの頭を支えるようにして持っていて、ストロークするオレの動きに合わせて前後しているのが目の端に映った。

「っん、……うぅ、くっ……、ん……」

 唾液を絡め根元から先端まで丹念に濡らす。舌を巧みに使う事で、口腔内でそれは大きく膨張し、喉の奥を突くたびに苦しくて声が漏れた。

「くっ……」

 頭の上で彼が唸る。けれど彼の怒張したそれは、まだまだ最後の兆しを見せない。

「遥、感じてるのか……」

 彼の視線がオレの脚の間に落とされる。シャツの裾を割るように、天を仰ぐその先端が隙間から顔をのぞかせていた。
 男のものを口で奉仕しながら、自身もそれに煽られて感じていた。それを見て、高林は満足そうに口角を上げる。
 頭を固定されると、強制的に腰を打ち付けられ、激しく口腔を突かれてむせ返りそうになるのを必死に堪える。
 どくんっと脈打つとそれはさらに大きくなり、ズルリと口から引き抜かれると目の前で白濁とした液が飛び散った。
 頬に生暖かいものを感じて指先で拭い取る。
 それはオレに浴びせられた彼の精液だった。

「こっちにおいで」

 ぼんやりと虚ろな気持ちで見ていると高林にベッドへ誘導される。
 ベッドに腰を掛け最後まで残っていたシャツを脱ぐ。そのまま押し倒されて、身体を裏返された。
 彼の身体がオレを覆って、背中を唇が這う。ゾクゾクとするような感覚に身体を反らせると、胸の尖りへと指が伸びてきた。芯を持つような硬さを確かめるように、摘み上げられては指の腹で捏ねられる。
 腰に甘く刺激が走り、身を捩る。だんだんと吐息が浅くなって、誘うように腰を高く突き出し揺らした。
 彼の手を尻の辺りに感じて、その奥の秘孔に指が触れる。
 そこへ冷たい液体を抽入されたのを感じて、身体が震えた。

「な、に……?」

 ローションとは異なる、体内に染みわたっていくような妙な感覚がしていた。  

「知り合いから手に入れたんだ。君のために……」

 高林はその正体をオレの目の前に差し出した。
 透明の小さなボトルに入っているのは、ピンク色の液体だった。いかにも怪しげで、でも一体何なのかわからない。

「もう少し、必要かな?」

 高林はそう言うともう一度それをオレの中へ抽入する。
 バラのような甘い香りがしたかと思うと、何もしていないのに息が上がってくる。
 体温が上昇して、熱くなる。

「……それ……もしかして……」

「そう、久市。そのために、この部屋が必要だったんだ」

 動くのももどかしくなるほどに身体が急激に怠くなる。なのに彼の手が背中を撫でただけで、その吐息が触れるだけで肌は粟立ち、腰へと快感が鋭い刺激となって走り抜ける。
 感覚がとんでもなく鋭敏になっていた。
 自分の身体に起きていること変化が、催淫剤によるものでなければ説明がつかない。

「そんなこと、しなくても、オレは」

「それじゃお仕置きにならない。そうだろう?」

 戒めの意味も兼ねているのかと、ようやくそう言われて気が付いた。
 高林との契約を無視し呼び出しに応じなかったオレに対する、これは……懲罰なのだ。

「俺を愉しませてくれ、その淫らな身体で」

 オレが目の前で肌を上気させて、息を上げているのを見れば、催淫剤の効果のほどは火を見るより明らかだ。
 さも愉快そうな男の声は、これから起こることに大きな期待を寄せているようだった。


 オレの腰を持ち上げると、奥の窄まりが露わになるほどに双丘を割り開く。
 秘孔の周囲をぐるりと指でなぞると、それだけで緊張が走り引き締める。冷たいものが塗りつけられて、その滑りを借りると狭くて小さな窄まりを彼の指先が押し広げ侵入してきた。

「んっ……ぅっ……ぁ」

 彼の細い指が体内に潜り込み、入口が擦れて内側を圧迫する。異物感がして、なのにそれが出入りを始めると、纏わりついた腸壁が擦れて気持ちいい。

「はっ……ぁっ、ん……」

「身体が紅潮してきてる、そんなにイイのか?」

 指の動きが物足りなくて、自らも腰を揺らすオレに男の陶酔するような声がした。
 身体が熱くて奥の方からジンジンとした疼きを感じて、それをもっと感じていたい。

「もっと……、して、敏次、さん」

 足りなくて、願う。
 もっと刺激が欲しくて、体内を掻き回して壊れてしまうほどに激しくして欲しい。
 オレの懇願に、高林は生唾をゴクリと呑むように見えた。 
 指は2本に増やされて、奥を拡げるように深く侵入しては何かを探るように壁に指が密着する。何度もそれが繰り返され、身体の奥で感じていた疼きの場所に触れる。

「やっ……あぁっ……だ、め……そこ」

 電気に触れたような強烈な刺激だった。自分の意志ではなく、勝手に身体が反り返ると逃げるように身体を前方に動かしていた。
 強い力で引き戻され、高林の指は執拗に同じ所を触れてくる。
 嬌声を上げ、シーツを握りしめて耐えようとするのに身体は揺らぐ。
 ローションが足されて更に滑りは良くなり、濡れた音がぐちゅぐちゅとして耳からも犯される。

「前からもこんなに涎を垂らして……淫乱だな」

 痛いほど大きく屹立し、その先端から透明な液が溢れ出して糸を引いてシーツに落ちると小さな染みを作っていた。鈴口を男の指が触れると、蜜がそこからじわっと溢れる。
 やんわりと手のひらに包みこまれて、オレは『は、ぁっ』と吐息を零した。

「あ、……やだっ、行かないで」

 後口から指を引き抜かれるのを感じて、思わず引き止める。けれど無情にもそれは体内への圧迫を解いて体外へと出て行ってしまった。

「んっ、……」

 消失感に入口は痺れて、強烈な快感を得たというのに、それでも身体の奥の熱はまったく冷めやらない。それどころが、もっと求めてしまう。

「敏次、さん……」

 オレの脚の間で屹立としたものをゆるゆると弄っている男の名を呼ぶ。
 どうして中途半端に投げ出されたのかわからなくて、背後にいる男を目で確認した。

「今夜は、コレで悦ばせてあげるよ」

 彼は手にしている玩具をオレに見せると、スイッチを入れる。振動音がして、それが近づいてくると、それまで指を受け入れていた所に無機質で硬く冷たいものが押し当てられる。

「っん、あ、ぁぁぁっ」

 指なんかよりずっと太くて大きい。それでも押される度にズリズリッと身体の奥深くにまで挿入され、それを根元まで呑み込み受け止めた。


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部長×久市 背徳の月影 3 R18

はじめるまえに……

 性描写が含まれる内容となっています
 年齢の満たない方
 嫌悪感および苦手な方は
 閲覧をお控えいただくようお願いいたします m(_ _)m

 では、続きをどうぞっ (≧▽≦)ゞ




 グチュッヌチュリと濡れた音が体内に埋め込まれた玩具を動かされるたびに聞こえた。
 それを腸壁に押し当てられると、振動が前立腺を刺激して狂おしいほどの快楽に、嬌声を上げオレは腰を振り乱す。

「んぁっ……、も、……ゃぁ……」

 逃げようとしてもすぐに引き戻され、悦楽を与え続けられて肉体的にはもう限界を感じていた。なのに、身体の奥底から沸き起こる淫靡な誘いを振り払うことが出来ない。

「もっとだ、……もっとイケるだろ?」

「は……っぁ……、ぁ、また……イッ……」

 男の言葉は熱っぽく発せられて、狂気染みたものを感じた。
 もう、何度目かなんてわからない。すでに射精なんて出来なくて、後ろへの刺激だけで女性のように絶頂を迎える。気がおかしくなるほどの底が見えない愉悦に、頭が溶けてしまいそうだ。

「ひっ……ぁっ……、や、だっ……も、お願っ……」

 達して痙攣する身体を、更に玩具で激しく責め立てられて高林に哀願する。悲鳴に近い声を上げ悶えるオレを見て、高林は完全に我を忘れて陶酔している。けれど、オレを苛む手を緩めることはない。

「……ぃや、ぁぁぁっ……」

 叫び声と共に目の前が白くスパークする。身体がふっと軽くなって感覚が失われる。前も後ろも、今がどんな時かさえ、何もわからなくなった。そして、急速に現実へと引き戻される。
 はぁっはぁっと自分の忙しい息が聞こえ、ぼんやりと滲んだような視界が広がる。いつの間にか身体は仰向きにさせられていて、オレンジの照明を反射する白い天井が見えた。
 頬には涙が伝っているのか、濡れたものを感じる。
 どうやら意識を飛ばしたようだ。

「遥」

 名前を呼ばれて、焦点をそちらに合わせる。
 彼の表情は限界までオレを追い詰めたことを喜んでいるかのようだった。
 唇が合わさり、優しく何度も啄まれる。
 彼の手が片脚の膝裏まで這って降りると、グイッと持ち上げられた。

「ぁっ、……まだ、ダメっ……」

 両手で彼の肩を押し返し抵抗を見せたものの、強引に腰を進められ後口にその切っ先が合わせられると、つぷんと呆気ないほど容易に侵入を許した。それまで玩具を受け入れ、充分に拡げられていた所は柔らかく蕩けて、高林の熱く滾った欲望に絡みつく。

「んっ、……ぁぁ、……ふっ、ぅっ……」

 彼の総身が身体の中に納められ、その存在を体内に感じることで満ち足りてくる。
 やがて高林は腰を動かし始め、それに合わせて自らも快楽を再び追いかける。

「蕩けて、熱く絡みついて……まるで……」

 高林は苦しげにそう言い、タイミングをずらして突き上げるように穿ちこむ。

「ひ、ぁぁぁっ……」

 甲高く艶めいた嬌声。まるで自分のものとは思えない声は甘く響いて男を駆り立てる。
 激しく何度も腰を打ち付けられて、身体を揺らされているとこれ以上ないほどの深さまで貫かれる。

「くっ……んっ……」

 息が出来なくなるほどの苦しさに身体が反り返った。
 彼を包み込む熱を持った内壁がドクッドクッと脈動して、彼の肩を指が食い込むほどに掴む。

「ゃ、……ま、たっ……」

「はるかっ」

「あっ、ぁぁぁ……」

 絶頂を迎えるオレの身体を、今までにないほどに狂おしく抱き締める。
 彼は細かい律動に自身のペースを落として、オレの絶頂を助長するかのように動いた。

「も、……やだっ……早くっ……」

 ずるずるとイカされるのが辛くて、泣き声で高林に縋り付く。
 こんな状態を早く終わらせて欲しくて、そのためならなんだってするから……と懇願する。

「遥、もう2度と契約違反はしないと誓え」

「っん……」

 返答に惑う。それを誓ったら、これから先ずっとこの関係は終わることはない……。

「イヤなら俺はこのまま愉しませてもらうだけだ」

 そう言うとストロークを長くゆっくりとした速さに変えて、わざとオレに与える刺激を増すように動き出す。

「だ、めっ……それっ……」

「どうする?」

 徐々に思考力を奪われていく。考えるよりも、彼の望む言葉を口にする方がはるかに楽な選択肢なのは確かだ……。

「敏次……さっ」

 高林の顔を見る。余裕すら感じるほどに冷静で、それに比べてオレは何もかもが限界ギリギリだった。

「誓う……からっ、もう、……あんなコト、しないっ、……って」

 だから、もう早く解放して欲しい……。
 言葉にすると同時に未来が閉ざされたように感じた。

 高林はオレの言葉を聞き届けると、動きを速めてくれる。そして、何度か腰を打ち付けるように往復させると、深々と身体を内側に沈めさせ、熱い迸りをオレの中へと注ぎ込んだ。



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部長×久市 背徳の月影 4(最終話)


はじめるまえに……

 はい、最終話です
 短いですね
 そしていつまでエロが続くのかと……
 まぁきっと、そう言う愛欲にまみれた関係なのですよ

 さて、明日から何を更新しようか……(悩)

 では続きをどうぞ (≧▽≦)ゞ 




 指ひとつ動かすのも億劫なほどの疲労を感じていた。意識ははっきりしているのに、動くことだけが制限されたように出来ない。
 浴室からは水音が聞こえていた。高林がつい先程そちらへ姿を消したから、きっとシャワーでも浴びているのだろう。
 散々弄ばれ彼の良いように扱われて、何も感じない訳じゃない。苛つき腹立たしくて、そして自分自身にも同じく不甲斐なさを感じていた。

「愛人契約……か」

 呟いて、吐息をつく。
 自分にとって何の得にもならない契約。金銭が目的でもなく、取引が出来るような材料もない。大体そんな価値がオレにあるとは思えない。ただ互いの欲望を解消するためだけの、味気ない程に単純な関係のはずだ。そう言って始まったのだから。

「遥、動けるか?」

 浴室から出てきた高林はバスローブを羽織っていた。
 オレを見れば答えなくともわかるだろうに、わざとらしく聞いてくるのは嫌がらせなのだろうか。
 無言で男を睨み付け、ぷいっと顔を背けた。

「拗ねるな」

 ククッと喉の奥で笑い、オレの髪を撫でつけると、ベッドが軋んで沈む。

「暴れるなよ?」

 彼は注意するようにそう言うと腕をオレの脇と膝裏に差し込んで、いとも容易くベッドの際まで移動させた。

「なっ……にをっ?」

 落とされるのかと思った次の瞬間には、抱き上げられていて、言葉を失う。
 どこかに運ばれるんだと気付いて、彼の胸に手を当てて突っぱねようと押した。

「降ろしてくださいっ、オレは、こんなのは……」

「騒ぐな、本当に落としかねない」

 不機嫌そうに叱りつけられてオレは口ごもった。怪我をしかねないような痛い目に合うのはさすがに嫌だ。
 一体どういうつもりなのかわからないまま、浴室に運ばれるとタイルの上に下ろされてシャワーのノズルを向けられる。
 どうやら身体を綺麗にしてくれるつもりのようだ。ようやく彼の意図を理解できたけれど、何故急にそんな事をしようと思ったのだろう。
 温かいお湯を浴びせられ、充分に全身が濡れると洗剤で泡立ったスポンジで身体を洗われる。高林を見つめると視線が合い、彼はニヤリと笑った。

「そんな目で誘われたら、またしたくなるじゃないか」

 冗談っぽくそう言うけれど、それが嘘とも取れなくて慌てて目を逸らす。
 足元を泡が流れて、その先の排水溝へと吸い込まれていく。そのあたりに彼は立っていて、視界には彼の脛から下が映っていた。
 肌は浅黒くて、触れると固いであろう脹脛にはバランスよく筋肉がついている。
 それはその一部分だけではなく、全身に対して言えることで。理想的な男の裸体に、オレは惚れ惚れとして魅了されていた。その背中に自身が付けた情事の痕を見つけると顔が熱くなり火照ってしまう。

「遥、まだ影響が残ってるのか?」

「……影響?」

 顔を赤く染めているオレを見て心配そうに高林は尋ねた。言葉尻を繰り返しても、その意味がすぐには理解できない。

「それとも、熱でもあるのか?」

 されるがままのオレに、自分の額を押し付けてくる。
 そんな事をしても熱があるかどうかなんてわからないと思うんだけどな……と冷静な頭で高林の行為を受け入れる。

「大丈夫です、ちょっと身体が怠いだけで」

「そうなのか?」

「本当ですよ」

 やけに不安そうな顔をするから、安心させるようにオレは微笑んだ。
 彼がやけに優しい理由が解り始める。
 オレに怪しげなクスリを使ったことを、今更になって後悔しているらしい。後遺症がないかどうか不安なのだろう。
 全身を隈なく泡だらけにされて、またお湯を浴びせられる。
 乾いたバスタオルで身体を包まれてパウダールームに移動すると、ドライヤーで髪も乾かされた。
 まるで彼に飼われているペットになったみたいで、気分は悪くなっていく。

「もう、充分ですから」

 中途半端に乾いた状態でドライヤーの熱風から逃げると、彼は明らかにがっかりしたような顔をした。きっと彼も同じようにオレのことを見ていたに違いない。
 シャワーを浴びたことによって、ますます疲れを感じていた。
 そういえば、この部屋に入ってからどれくらいの時間が経っているのかもわからない。
 いつもなら行為が終われば身支度を整え、すぐに帰ってしまう高林が傍に居続けているのにも違和感があった。
 自身の髪をオレの隣で乾かし始めた高林を仰ぎ見る。

「帰らなくても……いいんですか?」

 自分の言葉にツキンと棘が刺さったような胸の痛みを感じた。
 彼が帰宅するのを待っている人がいる。そんなことはわかっているのに……。

「どうして欲しい? 遥」

「……」

 ブンッとドライヤーの音が消える。すると辺りはやけに静かになって、自分の鼓動の音以外何も聞こえなくなった。

「言ってごらん、遥」

 見つめ返してくれる彼の瞳は優しくて、うっかり視線が絡んでしまうと離せなくなる。
 オレの頬を捉える彼の手の平が暖かくて、心地よさにゆっくりと目を閉じ、そして開くと真っ直ぐに彼を見つめる。
 もし許されるのなら……。

「一緒に……居て……ください」

 一人にされるのは、本当はいつだって辛くて。それでも、そんな事は口に出してはいけないと思っていた。

「今夜は最初からそのつもりだったよ」

 彼の唇がオレのと重なって、離れていく。
 勘違いしてしまいそうなくらい優しく抱えられて、再びベッドに戻る。
  
「だけど……」

「大丈夫、なんとでもなる。そんな事より今は……」

 自分が望んだこととはいえやはり気が咎める。高林を気遣うように言葉を発したオレの唇に、彼は人差し指を押し当てると黙らせられる。そしてオレの身体をゆっくりとベッドの上に押し倒した。 

「もっと、味わいたい」

 首筋に吐息を感じた直後に痛みを感じるほど吸い付かれると、落ち着きかけていた情欲がチラチラと呼び戻される。
 彼の背中に腕を伸ばして触れると、オレは目を閉じた。

 彼との間には愛なんて存在しないはずだ。
 だから、互いに求め合っているのはこの身体だけ。
 間違った関係なのに、繋がっている間は満たされて。
 まるで蟻地獄のように、惹き込まれ溺れていく。
 終わりがあるようで、見えない。
 いつかその時が来るとしたら、それは一体どんな終焉なのだろう……。

 でも今はただ、彼の導くままに……。



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それは恋ですか? 1

はじめるまえに……

 お待たせなのでしょうか?
 さて、ようやく新しいお話を始めます
 今までは『月シリーズ』でしたが、
 今回はガラリと様相を変えまして
 初の学園モノでございます
 主役も含め登場人物全てが高校生!!

 軽くて明るいお話のはずです
 ではでは、お付き合いしてくださる方々はよろしくです(≧▽≦)ゞ




 季節は5月を迎え、木々の新緑は見た目にも若々しくて、透明感を感じるほどにすっきりとした視界は明るい日差しに眩しいほどに輝いて見えていた。なのにオレの心はこの学校に入学してから暗くなっていくばかりだ。
 人里離れた山間に立つ学校、白鴎学園は中等部と高等部を備えた全寮制の男子校だ。
 高等部から入学したオレは、その独特な校風に最初の1か月の間は慣れることで精一杯だった。
 独特な校風……、それは……。

「ありすちゃん、もうちょっと愛想良くしてあげたらいいのに」

 仏頂面で廊下を歩くオレに、苦笑いしながらそう注意を促してくるのは、友人でもある佐伯 祐樹(さえき ゆうき)。
 オレとの身長差は5センチくらいか、ほんの少しだけ小さい。フワフワしたくせ毛は栗色で、目は大きくお人形のように可愛い。
 人の気も知らないで……と軽く睨みつけても、彼には全く効果がないらしく顔色一つ変えない。それを見てから、オレは小さくため息をついた。

「男がオレに手を振ってきて、それをどうしろって?」

「だから、手を振り返してあげるとか、さ」

 そう言うと彼はちょうど目が合った男子生徒ににっこりと微笑んでみせる。
 するとその生徒はみるみる顔を赤らめて、大慌てで教室へ戻って行った。 
 その一部始終を冷たく見ていて頭を抱える。

──慣れない……。

 その一言に尽きる。
 自分が外部入学生だからなのか、ここの校風にはいくら理解しようとしてもついて行けない。
  
「できるかっ、そんなコト」

「そう? 慣れれば結構楽しいけどなぁ」

 クスクスと笑いながら、彼はそう言う。
 中等部からのエスカレーター組はそうなのかも知れないけれど、オレにとってはここは異世界も同然だ。

「騙された……知ってたら……」

 こんな所なんかには、入学しなかったのに。
 後悔しても始まらないのはわかっていた。

 この学校には変わった伝統ともいえるものがある。
 一つの学年毎のごく一部の生徒に「姫」「花」「騎士」などと命名し、それぞれがまるでアイドルのような存在になるのだ。
 女子と言う存在がない男子校ならでは(?)の奇妙な風習と言うべきなのか。
 どうやらそれは入学して1か月以内に上級生たちによって人気投票的に決定され、そしてそれから3年間その立場は不動になる。
 「姫」の称号は学年において唯一1人だけ。「花」の称号は学年に3人。「騎士」の称号は5人とどうやら定まっているらしい。

 「花」の称号を持つ1人でもある祐樹は、慣れた様子でその役割をこなしていた。
 さすがは中等部からこの学校にいるだけのことはある……。 
 チラリと彼の営業スマイルを横目で見ながら、感心する以外ない。

「ほら、ありすちゃん。笑顔、笑顔」

 目的地でもあった生徒会室の扉の前までやってくると、祐樹はお手本のような満面の笑みをオレに向けてくる。
 無理矢理に引き攣ったような笑顔を作ると、かなり妥協してくれたのか扉をノックをしてくれる。

「きっと前代未聞だよ……こんな事」

 内側からの声を待ちながら祐樹はボソッと言った。
 わかってる。でも、これだけは言ってみないとどうなるかなんてわからない。
 連れてきてくれた祐樹に感謝しながら、ドキドキとその扉が開かれるのを待つ。  

「おやおや、これは……」

 しばらくしてガチャリと重厚そうな扉が開き、そこから出てきたのは銀縁の眼鏡を掛けた冷たい印象の見覚えがある人だった。確か、……そう名前は覚えていないけれど副会長だったはずだ。
 彼は珍しそうにオレと祐樹を見比べると、どうぞと通してくれた。
 扉を開け続けてくれる彼の前を通り過ぎる時に、やけに絡みつくような視線を全身に感じる。けれどそちらを見てはいけないような気がして、自分の勘を信用してゾクリと肌が粟立つような寒気を感じながらも懸命に無視した。

「会長、噂の生徒が来ましたよ」

 眼鏡のその生徒は扉を閉めると、オレ達を追い越して部屋の奥にある椅子に背中を向けて座っている人物に声を掛けた。
 
「噂……?」

 会長と呼ばれたその生徒はくるりと椅子を回転させた。
 入学式の時と、それから後も何度も見て知っているその顔がこちらに向けられる。
 2年生にして生徒会長の座に就任し、その学年の「騎士」の1人でもある有名人。
 彼の名前は東条 要(とうじょう かなめ)。成績優秀、顔良し、性格良し、しかも金持ちと文句ない4拍子が揃ったこの校内でも類い稀な人らしい。
 だから「騎士」の称号は彼にこそ相応しいなんて、誰かが言ってたのを思い出す。

「ああ、これはこれは……。新たなる『姫』。一体何の御用でしょう?」

 彼はオレを見ると立ち上がって、やけに恭しくそう言った。

 そう、オレ達の学年における「姫」の名前は有住 広夢(ありす ひろむ)。
 認めたくないことに、まさかの『オレ』だった。



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