はじめるまえに……
こんな話を読みたい人がいるのかどうか
全く分かりませんが、
部長と久市さんのとある一夜です
少しだけ続きます
次回はR18です
ではどうぞぉ (≧▽≦)ゞ
仕事を終えて部屋を出ると、そこには珍しい人物がいた。
営業部の部長、高林 敏次。彼はオレを見るとニヤリと口の端を上げ笑みをこぼす。それはまるで欲しい獲物を見つけ、捕獲に成功したかのように見えた。
彼がここへ訪れた理由はなんとなくわかっていた。身の危険を感じてすぐにでも逃げ出したいのに、彼から発せられるピリピリとした空気を全身に感じるとそれも叶わない。
エレベーターの扉が開き、互いに無言のままそれに乗り込む。
まるで見えないロープで縛られ操られるように行先を誘導されて、社屋ビルから数メートル離れた所でタクシーに乗せられた。
いつものホテルに到着すると、腕を引っ張られるようにして客室用のエレベーターに乗せられる。
準備の良い事に彼はすでに部屋のカードキーも入手済みらしい。
「随分大胆な行動をするんですね」
社内で堂々と待ち伏せて、しかも職場からあまり距離の離れていないところでタクシーを拾い、2人同時にホテルに入るなんて。誰かが後をつけていたとしたら彼との関係は一目瞭然だろう。
それまで会話らしい会話もなかった空気を壊し、高林に嫌味っぽく告げる。
「こうでもしないと、いつまでも逃げるつもりだっただろう?」
わかったように言われ、オレは視線を足元に落とす。
先週末、彼からの呼び出しにオレは応じなかった。
彼と愛人契約を交わしてから3か月が過ぎようとしていた。罪悪感は日増しに大きくなり、彼との関係を清算したいと思っているのに会えばそんな事を忘れてしまう。それを繰り返すのはもう限界だった。
良心の呵責に耐えかねて無視をすることにしたのが先週のこと。
このまま彼との関係を自然消滅にすることができないかと、この1週間逃げ続けた。
彼が強行的な手段に出てきたのにはそんな経緯があってのことだった。
エレベーターが止まり、扉が開く。
いつも利用する階とは少し様子が異なるような気がした。
「このフロアーって……?」
見ると降りた階は最上階にほど近いことが、部屋番号からわかる。
それに、ワンフロアー内の部屋数も極端に少ない。
「いつもの部屋は狭いからな」
彼に背中を押され、部屋に導かれる。彼の言葉通りよく利用しているツインルームの3倍はあろうかという広さで、部屋は2つに分かれていた。
でも一体何の目的でこんな場所を用意したのか、得体の知れない不安が胸を過ぎる。
「久市。『契約不履行』って、知ってるか……?」
高林の背後で扉が閉まると錠が下ろされる鈍い金属音がした。それと共に彼の言葉が不気味にオレの耳に届いた。
服を脱ぐように指図されてオレはのろのろと衣服に手を掛ける。
上着もスラックスも、堅苦しいネクタイも床の上に落とすと、あとはシャツ一枚を残したところで高林に抱きすくめられた。
「とし……つぐさん……」
息苦しくて彼を仰ぎ見ると、それを待ち構えていたように唇が覆われる。
2人っきりの時だけ呼ぶことを許された彼の下の名前。それは彼にしても同じで。オレのことを下の名前で呼ぶのは、こんなふうに閉ざされた空間だけだ。
「遥、どうして来なかった?」
「それは……」
思っても見ないほど優しく尋ねられて言い澱む。
彼が既婚者であることを知っていて身体を繋げ、更には愛人という立場を受け入れた。
それなのに今更、罪悪感なんて言葉をオレが口にするなど出来なかった。
「お前は、俺に従っていればいい」
「そんなっ……」
勝手なことを言う男に、オレは抗議するように声を荒げる。彼の口ぶりからは、オレの意思など必要がないかのようで。オレという存在が根底から否定されたような気がした。
結局彼が求めるのは、自分に都合良く性欲を処理できる相手なのか。
「どうしてそんな顔をする? 俺に従っているだけだと思う方が楽だろう?」
「だけど、それじゃ……」
自分が求めるものとは意味合いが大きく異なってしまう。それは嫌だった。
「割り切れないから、来れなかった。違うのか?」
高林の言葉に反論できず、黙り込む。
割り切る? そんな事が出来たならとっくにしていた。いつまでたっても背徳心と倫理観はつきまとって、心の中にいる弱くて愚かなオレを責めたてる。
「遥」
黙り込むオレの頭の後ろに高林の手が差し入れられて、また唇が塞がれる。
下唇の弾力を楽しむように彼の舌先を感じて、少し口を開くとそれは差し入れられてくる。口腔を好きなようにさせていると、舌を絡め取られて吸い上げられる。
「ん……ぅ」
喉の奥から甘い声が漏れると、ようやく解放された。
拍手・コメント・ランキングサイトへのぽち、ありがとうございます!!
スポンサーサイト