はぁっ、はぁっ……。
短い息が開いたままの口から出て行く。
遮るものもなく、容赦なくコートに照りつける日差しは、輻射熱も伴ってとんでもなく熱く感じられた。
コートチェンジの度に飲み物を口に含んでも、すぐに汗に変わって喉が渇いてくる。
試合は相手側のサーブから始まって、ゲームカウントは3ー5。出来る事ならこのゲームで決めたいところ。しかも、15-40だからあと1回ポイントを決めれば勝ちになる重要な場面。
互いの緊張感が高まる。
相手側のサーバーは地面に数回ボールをバウンドさせて、それから息を整えると高くトスを上げ腕を振り落した。
祐樹がコート内にバウンドしたボールを難なく打ち返し、相手側へとボールが戻る。注意深くボールの行方を追いかけ、前衛に出た祐樹が冷静なまでに相手側にプレッシャーを与えるようなボレーを返し、そして、チャンスが巡ってきた。
相手が高くロブを上げたのだ。
「ありすちゃんっ」
祐樹の声がして、オレはそのボールをしっかりと目で追いかけ、そしてタイミングを計って大きく腕を振り落した。
ボールを打ち付けた衝撃が腕に伝わって、勢いをつけて向こう側のコートへ返ったそれは、ワンバウンドすると大きく跳ねあがって。こちらに打ち返されては来なかった。
試合終了のホイッスルが鳴って、緊張が途切れる。
──勝った……。
初勝利を手にしたのに実感がわかなくて、ぼんやりしているオレに祐樹が満面の笑みで駆け寄ってくると、両手いっぱいに抱きしめられた。
「すごいすごいっ、勝っちゃったよっ」
飛び跳ねる勢いに押され、オレはフラフラになりながら祐樹の体を支える。
何か言ってあげたいけれど、熱さと喉の渇きで舌がもたつく。
「お疲れ様でした」
相手チームの3年生がネット際までやってきていて、オレは祐樹を連れて慌てて駆け寄った。
「ありがとうございました」
相手の心境を思うと申し訳なくて、おずおずと頭を下げると、向こうから握手を求められる。
「この後も頑張って」
差し出した手をぎゅっと握られて、勝った相手ににこやかに声援をもらえる。すごく嬉しい展開だ。なんて清々しい人たちなんだろう……。満面の笑みで『頑張ります』って返すと、2人は途端に照れたように顔を赤く染めた。
「ありすちゃん……サービスし過ぎ」
さっきまでご機嫌だった祐樹が、何故か急に不機嫌そうに小さく呟いて。それとは真逆に、対戦相手はやけに嬉しそうに、コソコソと2人で話しながら去って行くのが見えた。
「あの2人、今日はあの手で『何』をするんだろうね……」
彼らを見送った祐樹は意味ありげにそんなことを言うから、いくらなんでも気づいてしまう。
「何って、まさか……そんなこと」
自分の下世話な妄想だと信じたい。
「『姫』に直に触ってあの興奮だよ。否定し切れる?」
勘ぐるように意地悪く祐樹は笑って。それから、『過ぎたことは忘れて休憩しよっ』なんて言うとコートを出て行ってしまう。
取り残されたオレは対戦相手の後姿をもう一度見て、そして深くため息をつくと祐樹の後を追いかけた。
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