生徒会が主催するボランティア活動の中に、月に一度校内の清掃がある。日常的に行われている掃除とは違って、校内全域のゴミ拾いがメインだと春日さんは説明してくれた。
白鴎の敷地面積は広大で。だから1人でも多くの人足が必要だって、期待の目でオレを見てたっけ。そんな集客力がオレにあるとは思えないから、期待できないと見越しつつも祐樹と宇佐木に協力を求めたんだけど。返ってきたのはやはり予想通りの答えで……。
集合場所にのろのろと向かいながら、せめて宇佐木くらいは手伝ってくれてもいいんじゃないかって、恨みがましく思った。
いつも暇そうに図書室で時間を潰しているんだし、オレのことを恋人とか思っているのなら頼みくらい聞いてくれてもいいのに……。そこまで考えて、不意に昨日のコトを思い出すと、かぁっと顔が熱くなってきた。
のぼせて倒れたことがあまりに大きくて、完全に記憶の片隅におかれてるけど。あの時、流れに任せて、宇佐木とオレはキスより一歩先のことをしちゃったんだ……。
「有住くん、早いね? ……どうかした? 顔、赤いよ?」
「えっ、……あ、和泉くんっな、なんでもない」
先に到着していた和泉に発見されてしまった。見られたかと思うとすごく恥ずかしくて、焦りから笑って誤魔化そうとする。
「1人でニヤついちゃって、何を考えてたんだか」
「ひ、雛尾くん」
和泉の向こう側から不機嫌そうな顔を覗かせ、相変わらず突っかかってくる言い方をする。まぁ、そんな態度にもそろそろ慣れてきたけど。
「雛尾くんも参加してくれるんだ」
あまりにも意外な行動で驚く。ボランティア活動なんて興味なさそうだから、こういう場所には姿を現さないと思ってたのに。オレが思ってた以上に友達想いなのかな?
「べっ、別に。ボクだって好きでこんなのにきてるわけじゃ……」
「へぇ、そうなんだ」
自分のキャラを理解してるのか、慌てて否定するあたり雛尾の方が可愛く思える。……あの人に比べれば。
自分たちから少し離れた所にいる崎原さんをチラッと見て、小さく吐息をつく。
あの日からあまり関わらないようにしてるつもりだけど、事あるごとに妙にもってまわった言い方で口撃されることが多い。オレが仕事に慣れてなくてやる事が遅いってのもあるんだろうけど、とにかく何をしてもお気に召さないようだ。
「有住クン、バカみたいにボーッとしてたらおいてくよっ」
「あ、……ま、待って」
どうやら少し移動するみたいだ。声を掛けてくれるのは嬉しいんだけど。それにしても、バカみたいとか。どうして雛尾って一言多いんだろ、オレがその言葉で傷つかないとでも思ってるのかな?
文句の一つも言ってやりたい所だけど、せっかく手伝いにきてくれてるんだから我慢する。こんな事で貴重な人手を失いたくないもんね。
中庭で適度な人数が集まったのを確認すると、春日さんは5人で一組のグループに参加者を分けた。予め決めておいた清掃範囲が記されたプリントが全員に配られ、行き渡った所でオレや和泉が呼ばれる。
「ありすは裏庭から林にかけて。和泉は部室棟の周辺を頼む。俺や東条は適当に見回ってるから、何かあったら携帯に連絡すること」
テキパキと指示を受け、自分の持ち場をプリントで確認する。どうやら和泉とは離れているみたいだ。
「じゃぁ、有住くんまた後でね」
にこっと微笑んで和泉は背を向けて行ってしまった。1人残されて心細くなる。
「あーあ、まさか有住クンがボクたちの監督なんてねぇ。不安だなぁ」
不満そうな雛尾の声が背後から聞こえた。どうしてよりによってこのメンバーなんだろう。振り返るとそこには雛尾と、それから崎原さんの姿がある。きっとツキに見放されているに違いない。そう思った時、
「まぁ、そう言わずに。有住くんは今回が初めての参加だし。僕たちが協力してあげればいいんじゃない?」
思ってもみない言葉が崎原さんの口から聞こえて自分の耳を疑う。てっきり雛尾に便乗してくるかと思ってた。
「ね、有住くん」
妙に機嫌の良い崎原さんが優しげに微笑みかけてくるのが、オレには得体が知れなくて不気味に見えた。
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