2013年09月 の記事一覧

それは恋ですか? 90

 生徒会が主催するボランティア活動の中に、月に一度校内の清掃がある。日常的に行われている掃除とは違って、校内全域のゴミ拾いがメインだと春日さんは説明してくれた。
 白鴎の敷地面積は広大で。だから1人でも多くの人足が必要だって、期待の目でオレを見てたっけ。そんな集客力がオレにあるとは思えないから、期待できないと見越しつつも祐樹と宇佐木に協力を求めたんだけど。返ってきたのはやはり予想通りの答えで……。
 集合場所にのろのろと向かいながら、せめて宇佐木くらいは手伝ってくれてもいいんじゃないかって、恨みがましく思った。
 いつも暇そうに図書室で時間を潰しているんだし、オレのことを恋人とか思っているのなら頼みくらい聞いてくれてもいいのに……。そこまで考えて、不意に昨日のコトを思い出すと、かぁっと顔が熱くなってきた。
 のぼせて倒れたことがあまりに大きくて、完全に記憶の片隅におかれてるけど。あの時、流れに任せて、宇佐木とオレはキスより一歩先のことをしちゃったんだ……。

「有住くん、早いね? ……どうかした? 顔、赤いよ?」

「えっ、……あ、和泉くんっな、なんでもない」

 先に到着していた和泉に発見されてしまった。見られたかと思うとすごく恥ずかしくて、焦りから笑って誤魔化そうとする。

「1人でニヤついちゃって、何を考えてたんだか」

「ひ、雛尾くん」

 和泉の向こう側から不機嫌そうな顔を覗かせ、相変わらず突っかかってくる言い方をする。まぁ、そんな態度にもそろそろ慣れてきたけど。

「雛尾くんも参加してくれるんだ」

 あまりにも意外な行動で驚く。ボランティア活動なんて興味なさそうだから、こういう場所には姿を現さないと思ってたのに。オレが思ってた以上に友達想いなのかな?

「べっ、別に。ボクだって好きでこんなのにきてるわけじゃ……」

「へぇ、そうなんだ」

 自分のキャラを理解してるのか、慌てて否定するあたり雛尾の方が可愛く思える。……あの人に比べれば。
 自分たちから少し離れた所にいる崎原さんをチラッと見て、小さく吐息をつく。
 あの日からあまり関わらないようにしてるつもりだけど、事あるごとに妙にもってまわった言い方で口撃されることが多い。オレが仕事に慣れてなくてやる事が遅いってのもあるんだろうけど、とにかく何をしてもお気に召さないようだ。

「有住クン、バカみたいにボーッとしてたらおいてくよっ」

「あ、……ま、待って」

 どうやら少し移動するみたいだ。声を掛けてくれるのは嬉しいんだけど。それにしても、バカみたいとか。どうして雛尾って一言多いんだろ、オレがその言葉で傷つかないとでも思ってるのかな?
 文句の一つも言ってやりたい所だけど、せっかく手伝いにきてくれてるんだから我慢する。こんな事で貴重な人手を失いたくないもんね。

 中庭で適度な人数が集まったのを確認すると、春日さんは5人で一組のグループに参加者を分けた。予め決めておいた清掃範囲が記されたプリントが全員に配られ、行き渡った所でオレや和泉が呼ばれる。

「ありすは裏庭から林にかけて。和泉は部室棟の周辺を頼む。俺や東条は適当に見回ってるから、何かあったら携帯に連絡すること」

 テキパキと指示を受け、自分の持ち場をプリントで確認する。どうやら和泉とは離れているみたいだ。

「じゃぁ、有住くんまた後でね」

 にこっと微笑んで和泉は背を向けて行ってしまった。1人残されて心細くなる。
 
「あーあ、まさか有住クンがボクたちの監督なんてねぇ。不安だなぁ」

 不満そうな雛尾の声が背後から聞こえた。どうしてよりによってこのメンバーなんだろう。振り返るとそこには雛尾と、それから崎原さんの姿がある。きっとツキに見放されているに違いない。そう思った時、

「まぁ、そう言わずに。有住くんは今回が初めての参加だし。僕たちが協力してあげればいいんじゃない?」

 思ってもみない言葉が崎原さんの口から聞こえて自分の耳を疑う。てっきり雛尾に便乗してくるかと思ってた。

「ね、有住くん」

 妙に機嫌の良い崎原さんが優しげに微笑みかけてくるのが、オレには得体が知れなくて不気味に見えた。



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それは恋ですか? 91



 指定されていた範囲のゴミ拾いがほとんど終わりに近づいた頃、春日さんが見回りにやって来た。 みんなと同じように制服に軍手を着用し、片手にゴミ袋を持っているのに、不思議とその立ち姿がサマになっていて目を引かれる。
 うっとりとして目を奪われている参加者たちを何人も目の当たりにして、オレはその注目度の高さと人気ぶりに今更ながら圧倒されるばかりだ。
 いつだったか祐樹が、春日さんを崇拝する生徒は多いって言ってたことを思い出し、これがそうなのかと密かに納得していた。

「ありす、どうだ? 調子は」

「そうですね、そろそろ最後にして、もう一度見回ってから終了でしょうか」

 見落としがないとも限らないから、念のため最終チェックはしておいた方がいいだろう。
 周辺を見渡して言ったオレを、春日さんは頷いて同意してくれる。

「くれぐれも1人にならないように気をつけろ。昨日あんなことがあったんだからな」

「あぁ、……そうですね」

 やっぱり知ってるんだ。そりゃあそうか、図書室で生徒が本棚の下敷きになりかけたんだ。春日さんが知らないはずがない。
 でも、心配してくれる言葉にどう答えていいのか困る。
 あの後確認したけれど、書棚はまだ新しくてぐらつきもなく、少々揺すった所で倒れそうにもなかった。つまり偶然起こった事故とは到底思えず、故意によるものの可能性が高いってことらしい。

「本当はずっとついていてやりたいんだか、そうするわけにも……な」

「えっ、いぇ、そんな……大丈夫ですよ。いくらなんでも今日は警戒してますって」

 大慌てで春日さんの申し出をお断りするんだけど、オレを見る目は頼りなげでとても不安そうだ。

「それに、春日先輩はたくさんお仕事があるんですから、そっちに専念してください」

 お願いするように付け足す。
 って言うか、さっきから周りからの視線が突き刺さるくらい痛くて落ち着かない。きっとオレのことが目障りなんだろうって、いくら鈍くてもわかるくらいだから、春日さんと一緒に居ることでこれ以上の反感を買いたくなかった。
 しぶしぶ『ありすがそう言うのなら』と了承してくれると、オレの頭に手のひらを置いてポンポンと軽く跳ねさせる。
 そんなことをしてくるのが、妙に心地良くて親近感を感じる。兄弟がいたら、こんな感じなのかもしれないな……。自分には兄弟もいなければ、年の近い従兄弟もいないからよくわからないけれど、そんな風に思った。
 
「せっかくの申し出なのに、断っちゃうなんて。有住くん、どうかしてるんじゃない? しかも副会長が言ってくれてるのにさ」

「崎原さん……」

 話が聞こえていたらしく、皮肉たっぷりな声がして振り返る。

「自分がどれだけ罪深いことを言ってるのかとか、考えたことはないのかな?」

「罪?」

 春日さんの申し出を断るのはそんなに大げさな事なんだろうか?
 いまいちピンとこなくて、彼を見返す。

「有住くん、あの人にそんなことを言われて喜ぶ人が、今ここにどれくらいいるかわからないはずないよね?」

 言われてオレを取り囲む視線が一層冷たくなったことに気がついた。

「ま、受け入れても断っても。結果は同じだろうけどね」

 この上なく楽しそうな崎原さんの声が、はるか遠くで聞こえるようだった。
 誰かに嫌われるのは仕方がないとわかっていても、それを認めるには抵抗がある。

「なら、……仕方ないんじゃないの?」

 横から平然とそんなことを言う声がした。
 俯きそうだった顔をハッと上げると、見下すような目で崎原さんのことを見つめている雛尾が視野に入る。

「だって、有住クンは必要ないって思ったから断ったんでしょ? 他の奴がどう感じようとそんなの関係ないじゃない? それをいちいち気にしてたらつまんないだろ」

「……雛尾くん」

「ほら、有住クン。最後の見回りするんでしょ? 早くやってしまおうよ。終わらないじゃない」

 言いたいことだけ言うと、雛尾はオレを引っ張って点検に連れ出してくれる。
 まさか……。彼に助け船を出されるなんて思ってもいなかった。

「ありがと……」

「別に、ボクは思ったことを言っただけだよ」

 助けたつもりなんかないと拒否するような言い方だけど、そこに彼なりの照れ隠しを垣間見れて、オレはちょっと嬉しくなってついつい笑っていた。  





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それは恋ですか? 92





 最終の見回りを終えて戻るとそこにはすっかり人気はなく、どうやら崎原さんの指示で解散した後のようだった。
 確かに点検の割には時間が掛かったし、待たせていたのは悪かったと思う。けれど、何も言わずに勝手に終わられているのは気分が悪い。さすがに一声かけてくれたっていいんじゃないかと恨み言の1つでも言いたくなってくる。
 これも崎原さんの嫌がらせの1つなんだろうか。最後まで付きあわせることになった雛尾のことを申し訳ない思いで見るけれど、彼は全く気にする様子もない。

「あー、なんだか真面目に最後まで手伝っちゃったな。有住クン、これお願いしちゃってもイイ?」

 そう言って雛尾が差し出してくるのは半分くらいに膨らんだゴミ袋。
 つまり、ここまでしたんだから自分の分もオレに捨てて来いと?
 そんなわけないよね? と、雛尾のことを信じたくて目を向けるけど、容赦なく強引に押し付けられて思わず受け取ってしまった。

「有住クンさ、1人でなんとかしようとしてるみたいだけど。ソレ、誰かに相談してみた?」

「えっ……?」

 突然何の話をし始めたんだろう。あまりに突拍子もなくて混乱する。
 すると彼は、やっぱりねと苦々しく笑って、

「……こんなじゃ、宇佐木が気の毒だよ」

 と呟いた。
 一体どうしてそんなことを言うのだろう。宇佐木が気の毒って、どういう意味だ?
雛尾はオレの知らない何かを知ってる?

「教えてあげようかと思ったけど、やっぱりやめた」

「あっ、ちょっと雛尾くんっ」

 呼び止めて詳しく尋ねようとしたけれど、するりと簡単に逃げられてしまう。思った以上に逃げ足は速いらしい。

 教えようと思った? 
 ……オレは何を知らないんだろう?
 
 疑問符ばかりが頭を埋めていく。
 1人残されて、オレはしばらく途方に暮れる。
 どう考えてみたところで、その答えなんてわかるはずもなく、オレは諦めると2人分のゴミ袋を持ち、集積所へと足を向けた。

 他の人たちはもっと早くに終了していたのだろう。集積所に近づいても誰かに会う事もなく、その周辺は人気がなかった。
 警戒しながら近づいていると、そこに崎原さんの姿を見つけた。
 呼びかけようと思ったけれど、不用意に近づくことでまた不興をかうのが想像できるから一瞬ためらう。
 そんなことをしたって意味はないのに、オレは建物の陰に隠れるとこっそり崎原さんのことを覗き見た。
 彼はこちらには全く気付いていないようで、地面を注視したままもの思いに耽っている。その憂いを帯びた横顔がいつもとは全く違うから、なんだか見てはいけないものを見ているような気がして後ろめたくなってきた。
 こんなことをしているのが知られたら、また何を言われるかわかったものじゃない。自分の行動を顧みて、立ち去ろうとした時だった。靴が砂を噛んでジャリっと音を立てる。しまった……とビクンと体を震わせて動きを止めたのと、『誰だっ』と鋭い声がしたのはほぼ同時だった。
 
「キミか……」

 オレの姿をみつけ、緊張を解くのがわかる。
 ゆっくり彼の目の前まで移動したけれど、じっと見つめられているとバツが悪くなってオレは彼から目を背けた。

「もしかして、……見ていたのか?」

 オレの様子で察したのか、不愉快を露わにして睨み付けられる。そこには先程までの表情は消えて、すっかりいつもの崎原さんに戻っていた。

「まったく、誰が隠れているのかと思えば。まさか『姫』だったとはね」

「……」

 コソコソしていたのは本当の事だから、返す言葉もない。
 黙ってやり過ごそうとしていると、崎原さんは片頬を上げてクッと笑い、そして一度俯くと自身の前髪を掻き上げた。

「まぁいい。僕はキミを待ってたんだから」

 彼はそう言うとオレが持っていた荷物を取り上げ、無雑作に集積所に放り込んでしまう。パンパンと手を払うと、自分について来るようオレに示した。



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それは恋ですか? 93



「崎原さん、……ちょっと、待ってくださいっ」

 さっきから彼の後ろで呼びかけているんだけど、こちらを見てくれるわけでもなく、彼は先を急ごうとしている。それに、どこに向かっているのかも教えてくれないから、オレはついて行くしかない。
 清掃が終われば宇佐木と合流する約束をしていたから、あまり遅くなるのは困る。
 どうしよう、連絡だけでもいれておこうか……。
 悩みながら右のポケットにある携帯を服の上から触れた。

「僕のこと、警戒してるんだ?」

 いつの間にこちらを見ていたのか、崎原さんはオレの右手の先を示して指摘する。

「そういうわけじゃ……ないですけど」

「ふう、ん」

 携帯から手を離し否定しても、彼は信用していなさそうに目を細めながら軽く答え、そして少し考える風を見せる。

「有住くんは、どれだけ自分が恵まれた存在なのか、ちゃんと理解してる?」

「恵まれた、存在?」

 彼の言葉を繰り返してみるけど、思い当たる節はない。自分のどこが恵まれてるっていうのだろう?

「わかってないんだな……」

 そう答えるのが予想通りだったらしく、崎原さんは面白くなさそうに顔を歪ませた。

「キミの友達に、心から同情するよ。いくら尽くしても気づいてもらえないんじゃ、やり甲斐もないだろうからね」

 同じようなことを雛尾も言ってた。宇佐木が気の毒だって……。もしかして、自分だけが気づいてないのかな?
 それにこの言い方。じゃあ、崎原さんは知っているんだろうか。オレが気付いていない2人のこと。

「教えて欲しいなら、黙って僕について来るんだね」

 彼は命令調に言うと、また背を向けて歩き出す。
 知りたいという気持ちが強くなって、オレは崎原さんの後ろを黙って追いかけた。
 やがて、崎原さんが辿り着いた先は以前オレが囚われた倉庫の前だった。
 彼は黙ってその扉を開けると中へ入るようにオレを誘導する。人の目を気にせず、邪魔もされずに落ち着いて話がしたいって事だろうか……?
 薄暗い室内に入ると、空気のカビ臭さに咳き込む。相変わらず、嫌な感じのする場所だった。
 彼は扉を背にし後ろ手に閉めると、オレの方をまっすぐに見た。

「まったく、いいご身分だね。周囲を気にすることもなく、自分のしたいようにして。周りの人がどれだけ振り回されているのかも気づきもしないんだ」

「そんな……オレは、振り回してなんか、ない」

 それに、どちらかと言うとそれはこっちの言い分だ。こちらの意思などそっちのけで知らない間に姫に祭り上げられるし、争いごとに巻き込まれるし。この1ヶ月というもの身の回りが騒がしくて落ち着いたことなんてないんだから。

「そうかな? だったら、どうして自ら望んで『囮』になんかなったんだ?」

「え……?」

 何のことを言ってるのか気づくのに時間を要した。自分から囮を買って出たのはあの時しかない。けれど、どうしてそんなことを崎原さんが知ってるんだろう。
あの件に関しては、会長と春日さん、宇佐木と祐樹の4人だけの秘密になっているはずなのに。

「聞けば、キミは奴らに捕まって危険な目にあったんだろ? ならわかってるはずだ。あいつらがどんな卑劣なことをしていたのか、どんな酷いことをされるのかも」

 驚きで言葉も出ないオレに、崎原さんはこれくらいのことは知っているのが普通だと言うように語るけど、それにしても何かが引っかかる。

「どうせ、自分は『姫』なんだから、守られるのは当然。そう思っていたから引き受けたんだろう?」

 危険を承知で囮になるなんてヤツはそうはいない。一度でも身をもって体験したことがあればなおさら。絶対に安全だと言える保険があるからこそ、引き受けることができる。そういう理論なんだろうけど。
 その言葉に、誰かも同じことを言ってたとデジャブを感じた。
 あれは、囮になると決めた当日。
 言ったのは……宇佐木で。
 同じようなことを言われて、そんなことを思ったことなど1度としてないと、あの時ひどく憤慨したんだ。だってオレは、あのまま泣き寝入りするのがたまらなく嫌だっただけで。あまり考えもせずに、直情的に引き受けてたんだ。
 でも、そういうのは説明しても理解なんてしてもらえないに決まってる。

「思えばあの頃。キミと宇佐木、キミと春日の噂話で持ちきりだったよね。その可愛い顔で2人をたぶらかしたんじゃないのか?」

「そんな……たぶらかしてなんか」

「本当かな? だって、それからすぐだろ、あいつらの自宅謹慎が決まったのは……」

 言われてみれば時期はぴったり合う。
 でも、宇佐木があの倉庫でオレを助けてくれたのも、春日さんが勉強を見てくれたのも……あれはすべてが偶然だった。

「あの球技大会だって説明がつく。勝った方が『姫』を手に入れる……? そんなこと痴情のもつれにしか見えないだろう?」

 完全に崎原さんの思い込みだけで、まったく事実に基づいてもいない間違いだらけの推論なのに、そう解釈しようと思えばできてしまえる。……だけど。

「オレのことは、どう言われてもいい。でも、宇佐木や春日先輩は、アナタが思ってるような人じゃない」

 ギュッと自分の手を握りしめ、崎原さんに強く言う。今まで黙って聞いてたけれど、ともすれば宇佐木や春日さんを軽視するような言葉には耐えられそうにもなかった。




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逢魔が時の幻惑(R18) その1

 一部、性描写が含まれています
 苦手な方はお控えください


 それは仕事がお盆休みに入り、久々の長期休暇にようやく羽を伸ばせると思った矢先のことだった。
 実家からとは知らずに電話を受けたのが運の尽き。
 何を言っても逃れられようのない強い調子に負け、最終的には親父の生家に行くことを母親に押し付けられてしまった。
 親父の生家、つまりオレの祖父の家には、現在親父の兄夫婦が子供2人と祖父を含めて5人で暮らしている。この親父の実家に帰省するのが、母親にとってはストレスのようで、毎年この時期になると自分の代わりに行けと言ってくるのだ。この2,3年は仕事を理由にすることで断わっていたけれど、今年はウカツにもゆっくり休みたいなどとついつい口を滑らしてしまっていた。
 電車に揺られ、オレはため息を吐く。
 なんで……どうしてオレが?
 そう何度も頭の中で繰り返す。全ては断わり切れなかった自分が悪い。それがわかっていても諦めきれないのは、これから行く場所に後ろめたい過去を思い出してしまうからだ。
 長い長いトンネルを抜けると、光が差し込んで真っ白に染まった後、懐かしい景色が目前にぱっと広がる。一瞬胸が押されるような圧迫を感じて、それからもう一度深く息を吐いた。
 車掌のアナウンスがスピーカーを通してか細く聞こえ、次の停車駅への到着が近い事を乗客全員に知らしていた。


 駅から祖父の家までは歩いて20分ほどかかる。電車を降りてすぐに電話を入れてみたけれど、どうやら留守のようで迎えは期待できそうにない。オレは照りつける太陽を睨み付けると、両手の荷物を抱え直した。
 冷房が効いた中での内勤が多い仕事のため、暑さにはめっきり弱くなっているみたいだ。ダラダラと大量の汗が、頭やら首、全身から吹きだすように流れては落ちていく。
 辿りつくまでに干からびてしまうんじゃないだろうか。そんな妄想までしてしまう始末で、そうなった方がいっそ楽かもしれないとすら思ってしまう。

「……重い」

 荷物も気持ちも、前に進もうとする足すらも重くて、家が近づくごとにすぐにでも引き返したくなってくる。
 それでも昔は、祖父の家を訪れるのを楽しみにしている自分がいた。
 あれは高校を卒業する年の夏。その頃まで、オレは5歳年の離れた従兄弟のことを実の弟のように思っていた。
 お兄ちゃんお兄ちゃんと後ろをついて回るのが可愛くて、誰に頼まれるわけでもなくオレは率先して彼の遊び相手を買って出ていた。
 祖父も伯父さん夫婦もその日は留守にしていて、家にいるのはオレと彼の2人きり。
 13歳になる従兄弟はさすがに以前のように懐いてはくれないけれど、それでもオレにとっては可愛い存在に変わりなかった。
 庭の見える和室の部屋で、彼は昼寝をしていた。
 タオルでも掛けてやろうと近づいたとき、彼は寝返りを打って仰向きになった。
 その寝顔があまりに無防備で可愛くて、オレの胸はそれまでにない高鳴りを感じた。
 その唇が「おにいちゃん」と形どって動く。あどけなくて、純真無垢で。誰にも汚されたくないと思う反面、どうなるのか見てみたいとどす黒い感情が沸き起こる。
 その時彼の足の間のものが、薄い布の下でピクンっと撥ねるのが見えた。
 自分の知らない間に、どんどん大人へと近づいていく。
 ただの好奇心。それだけだと自分に言い聞かせ、オレは彼のズボンの中へ手を滑り込ませた。
 自分の手の中で小さな彼が息づいている。扱きあげるたびにビクビクと震え、それは大きさを増した。彼の浅くて速い呼吸に、自分が与えている刺激を感じていることを知る。ズボンを介していては窮屈で、オレは半ば乱暴に彼の下半身を露出させた。
 ひぅっと息を飲む声がして、恥ずかしいのか足を閉じようと内股に力を入れて隠そうとする。それを無理矢理両手で開かせると、目の前には天を仰ぐ彼の欲望が晒された。
 興味半分で見たAVを思い出し、あの時見た女がやっていたように口に含む。苦みと汗とそれから、従兄弟の香りがして。オレは夢中でそれを頬張った。
 舌で茎の部分を唇で締め上げ、括れたところへ舌を這わす。気持ちいいのか彼の腰は揺れていて、それすらオレの興奮に火をつけた。
 鈴口からは透明な液が溢れ出て、逃げようとするかのように彼の背中が反り返る。どうやら最後の時が近いらしく、彼は絞り出すような高い声をあげると、たっぷりと精を解き放った。トクントクンとオレの口の中で、性器として目覚めた彼が震えている。不思議なことに吐露されたものを飲み込むのは、オレにとっては全く苦痛じゃなかった。
 キレイに舐めとって服を戻してやる。けれどショックそうな顔をした従兄弟を見ているのが辛くなって、オレはその日のうちに逃げるように誰にも告げず実家に帰った。
 もう彼を弟のように見ることなんてできない。それに気づいた時、オレはもうあの家には行くまいと心に決めたのだった。


 祖父の家の前の坂道を上る。これを上りきったところに玄関がある。最後の力を振り絞り、ようやくたどり着くと玄関のチャイムを押す。
 昔と変わらない佇まいにホッとするのと、自分だけが変わってしまったようで複雑な思いがした。
 しばらく待ってみるけれど何の音沙汰もない。ここに来るのは久しぶりだけど、別に他人って訳でもないからいいだろう。
 汗だくで疲れた体を早く休めたくて、早々に自己判断すると中に入ることにした。

「ごめんくださーい、誰かいませんかー?」

 声を掛けながら靴を脱ぐけれど、帰ってくる声の1つもない。
 昨日のうちにオレがここへ来ることは知らされているはずなのに、そろいもそろって玄関に鍵もせず留守にするとはなんと不用心なのだろう。
 自分が今住んでいる都心部じゃ、空き巣に入られても文句も言えない。
 ずかずかと中に入り込むと、ひとまず居間へと足を進めた。
 キレイに片付いた部屋を一通り眺めると、別の部屋へと移動する。最後に従兄弟の部屋へと入ると、やはりそこにも姿はなくて、ホッと胸を撫で下ろした。
 彼も今は高校3年。今年が大学入試だって話だ。結構頭はいい方らしく、高校だって県内のトップクラスに進学したと、いちいち母親はオレに伝えてくる。しかも小さい頃はあんなに仲が良かったのにと、何も知らないくせにチクチクとオレの後ろめたい気持ちを刺激してくるのだ。
 勉強机の上には学校で使っている教科書のほかに参考書などか積まれている。どうやら噂通り、勉強は欠かさずしているようだ。あの小さかった彼が、そんなガリ勉になっているなんて想像もつかないけれど、やっぱり黒髪に眼鏡なんてかけたりしているのだろうか……?
 成長した彼をイメージしてみるけれど、オレの記憶はやはり13歳の彼で止まったままだ。
 部屋の片隅に置かれたパイプベッドに腰を掛ける。
 このベッドで彼は毎日寝ているのか……。もしかするとこの部屋に、彼女を連れ込んだりもしているのだろうか?
 そう思うと胸がズキリと疼く。
 あの日以来、オレの欲望の対象は1人しかいない。叶うはずのない相手だからと諦めようとしたことも何度もあった。それでも別の誰かと付き合うたび、原点に立ち戻る。
 オレは従兄弟のことが。あの小さくて可愛い弟のように思っていた彼のことを、今では1人の男として、あさましく恋愛の対象にみていた。




 Rシーン多めの(多分)短めのお話を更新します
 少しの間ですが、お付き合いください

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