2013年12月 の記事一覧

それは恋ですか? 113




 明り取りの窓から差し込んだ強い陽射しが、階段の踊り場を照らしている。あまりにそれが眩しくて目を細めると、額の上に手をかざして庇うように覆うと光を遮った。
 西棟の4階にある生徒会室。その日一日の授業を終えたオレは、すっかり通い慣れたその場所に向かっていた。
 階段を昇りきって廊下の突き当たり。大きな両開きの扉の前に立つと、いつになく緊張しているようで、じっとりと汗が滲む手のひらをぎゅっと握りしめた。
 今日この場所に来たのは、いつも通りに生徒会の仕事をするためなんだけど。会長がオレのことを生徒会に入れた真意を知ってしまった後だから複雑な心境で。気にしすぎているのか、すんなり会うには気持ちが重くて。だから自然とここへ来るのもいつもより遅くなっちゃったんだけど。

「でも……」

 きっと、今日を乗り切れば楽になるはず……。
 深呼吸を1つすると覚悟を決めてノックをした。それから思い切ってドアノブに手を伸ばし、回す。扉を押し開こうとしたけれど、それは思ったよりも軽くて。手を引っ込めてもひとりでに開こうとする扉から、思わず飛び退いていた。

「ん? どうした、ありす」

「か、春日先輩……?」

 扉の向こう側から現れた見慣れた姿を確認して、驚きのあまりドキドキと動悸のする胸を撫で下ろす。
 それにしてもなんていいタイミングなんだろう。 
 まるでオレがここに来るのを知ってて待ち構えてた、……みたいな? だとすると、会長たちもオレに用件があるってことなのかな。
 出迎えてくれた春日さんの顔をじぃっと見つめてみるけれど、そこに答えらしいものは得られなくて。彼は困ったように笑うと、一歩後ろに下がって進路を開けてくれた。

「まぁ、入れ」

 中へ誘導されて、大人しくそれに従う。背中の方からパタンと扉が閉まる音がした。
 部屋には執務机の前に会長が座っていて、物言いたげな目をこちらに向けている。そりゃあそうだろう。彼らにしてみれば、いつも通りにやってきたオレの行動が不思議でたまらないはずだ。自分を利用していた人たちとこれから先もつきあおうなんて、普通は考えない。

「しばらくは来ないと思ってたのに、……何かあったのか?」

「……別に」

 気遣うように言う春日さんから目を逸らす。
 『しばらくは来ない……』か。
 その言葉がオレを遠ざけようとしているみたいに聞こえて寂しく感じた。
 もしかして、とふとした考えが過ぎる。会長たちにとってオレなんてもう利用価値はないのかも知れない……と。祐樹のような情報収集に長けているわけでもなく、宇佐木のように優秀でもない。何の取り得もないオレなんて、この生徒会には不必要なんじゃないのか……?

「オレ、生徒会を辞めるつもりはありませんから」

「……」

 オレの突然の宣言に、2人は言葉もないようだった。
 春日さんは訝しげに少し眉根を寄せ、会長はオレが放つ次の言葉を待っているように見えた。

「会長に誘われて、よく考えもせずに生徒会に入って。今だって目的があるわけでもないし何ができるかもわからない。オレなんかがいたってメリットなんてないのはよくわかってるけど。だけど中途半端は嫌なんです。途中で放り出したくない。できればこのまま続けたいって思うのは……ダメですか?」

 一頻り、自分の意思をまくし立てるように言ってから息をつく。
 部屋はしんと静まって、その沈黙がオレの気持ちを拒絶しているような気がした。
 誰か、なんとか言ってよ……。
 いたたまれなくて目をぎゅっと閉じたオレの耳に、ククッと喉の奥で笑うような耳障りな音が聞こえた。
 そちらに目を向けると、肩を震わせている会長の姿が目に映る。
 信じられなかった。こんなに真剣に話しているのに、それを一体どういうつもりなんだろう。

「悪い、ありす。ふざけてるつもりはないんだ。……ただ、デジャヴを感じて」

「デジャヴってなんですか? 何のことを言ってるのかさっぱりわかんないです」

 イライラしながらオレは会長を睨みつけた。
 だけど彼は全く気にも留めていないようで、ニヤニヤと笑い続けてはますますオレの気持ちを逆撫でる。

「初めてここへ来た時もそう、こんな感じで。真っ直ぐに自分の意見をぶつけてた」

「……?」

 一体何が言いたいんだろう、この人は……。脈絡もない事のように思えて全く理解できない。
 椅子から立ち上がり、ゆっくりとオレに向かって近づいてくるのを見守る。

「何を勘違いしてるのか知らないが。ありすが残留を望むなら、俺たちはそれを拒否するつもりはない。それに言っておくが、キミを生徒会に勧誘したのはこの俺だ。その面子に掛けてもそう易々と辞められては困るんだよ」

「か、んちがい?」

 呆然とオレは呟いて、目の前まで来た会長を見返した。
 確かにプライドの高い人だから、生半可な気持ちで誘うようなことはしないだろうけれど、その反面必要に応じてならなんだってする人だ。信用できるわけない。

「本当に……?」

 結局は春日さんに救いを求めてしまう。

「だって、『しばらくは来ないと思ってた』って」

「それは……」

 春日さんは途中で言葉を止めると、おもむろにメガネの縁を片手で押さえ、そして長くため息を吐いた。

「今日が期末試験の1週間前で。当然、すべての活動が休止するからそう言ったまでのことだ」

 こんな常識を知らなかったとは思ってもいなかった。と、まるで反省するかのように言われて。オレは憤死しちゃうんじゃないかと思うほどの恥ずかしさに見舞われた。





 皆様お久しぶりです
 ラストまであともう少し!!
 なのでもうしばらくおつきあいくださいね m(_ _)m

 拍手・コメント・ランキングサイトへのぽち、ありがとうございます!!
 皆様のご訪問に感謝です!!

 
スポンサーサイト




にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

それは恋ですか? 114 (最終話)


「テスト……1週間前……、誤解……?」

 知らず知らず口をついて出て行く。春日さんに告げられたセリフが何度も頭の中をグルグルと回って、整理がつかない。

「じゃあ、……全部オレの思い込み、ってこと。……ですか?」

「だから。そう言っているだろう」

 にわかには信じられないようで、怪訝そうな会長の声がする。だけどそれに返答もできず、ただオレは自分の足元に視線を落とした。
 ショックで頭がクラクラする。
 勢いづいて、何の根拠もなく思い込みだけで発した言葉を思うと、恥ずかしくて目を合わせられない。その上、テストの1週間前だとも知らずにいたなんて。多分そんなのはこの学園の中でオレくらいなものだろう。

「あ……の、じゃあ……オレはこれで」

 一刻も早くその場を離れたくて。曖昧に言葉を濁しつつジリジリと後退りをし、ある程度の距離をもったところで回れ右をする。けれど会長に背中を向けた途端、肩をがっちりと掴まれて補足されてしまった。

「そう言わずに、せっかく来たんだ。ゆっくりしていけよ、ありす」

「え、……や、でもオレ……」

「そうだ、保。お茶でも出してやれ」

 オレの意見なんて聞いてくれるつもりはないらしく完全に無視される。会長の指示を受けた春日さんはやれやれと給湯室へと向かい、オレの横を通り過ぎる時に同情するかのような視線を向けてきた。
 もしかしなくてもこの状況はイヤな感じしかしない。なのに、あれよあれよと背中を押されて部屋の一角にあるソファへと連行されてしまった。

「あの……オレ、帰んなきゃ……だし。それに」

「ん? ごちゃごちゃ言わずに座ってろよ」

 思い浮かんだままにいろいろ言ってみるけれど、拒否を受け付けない会長に結局従うしかないようだ。
 諦めてソファに座ることにしたオレを満足そうに見ている会長の眼差しは、面白いおもちゃを手に入れた子どものようで。ますます不安を感じずにいられない。

「試験前ってことくらいは、周りの様子を見て気づかないか?」

「……は、ぁ」

 思い返してみるけれど、クラスはいつもと変わりがなかったような気がする。
 いまいち反応の悪いオレを見て、何故か会長は更に興味を強くしたみたいだ。こういうのを『まな板のなんとか』っていうのかな。会長の前にいるってだけなのに身動き一つできなくて、すごく……居心地が悪い。

「ふぅ、ん……なるほど、ね」

 しばらくしてポツリと会長が呟く。一体何がわかったというのか確かめたくて、それまで俯いたままだった顔を正面に向ける。

「他人に無関心なのかと思ってたが……見えていないのか。だから自分の評価も低いんだな」

 何言ってるんだろう? 見えてないって、それがどうして評価につながるんだ?
 会長のわかったような口ぶりにオレはついていけない。それに、自分の評価が低いなんて考えたことすらなかったから、それだけでも意外な言葉に感じてしまう。
 だけどそれって、言葉を言い換えれば単に鈍いってだけなんじゃ……?

「無垢で、純真。確かに保や宇佐木でなくても守りたくなる……か」

「会、長……?」

 どうしてそこに春日さんや宇佐木の名前が出てくるんだろう? 不本意だけど今までのことを振り返れば、2人に守られてるっていうのは確かにそうかも知れないけれど。オレなんて会長の言うようなキレイな存在じゃないのに。

「それだけ『姫』としての素質がありながら、自覚もなくその上まだ自分を偽ろうとしてるのは問題アリだな」

「な……に、言ってるんですか?」

 『姫』としての自覚とか、自分を偽るとか。訳の分からないことを。
 尋ねたオレに、会長はニヤリと笑うだけで答えてもくれない。

「あまり、いじめてやるなよ。東条」

「春日さん」

 お茶を持って現れた姿を見て、オレの緊張はわずかにゆるんだ。
 近くに居てくれるだけで安心感が違う。それを実感させられる。

「ほら、ご要望通り。お茶を入れてきてやったぞ」

 そう恩着せがましく言いながらテーブルにカチャリとティーカップを置く。だけどそれは2人分しかなくて、オレは春日さんを見上げた。

「そろそろお迎えが来る頃だ。だから、ありすにはまた今度淹れてあげるよ」

 お迎えって、オレに?
 優しげな笑顔を向けられて、そう疑問に思っているとタイミングよく扉がノックされる音がした。
 春日さんが手を差し出すのを見て、オレは無意識にその手を取る。

「ありす、1つ教えてやるよ」

 立ち上がり、扉へ向かおうとするオレに言葉が向けられる。
 振り向くと先程と変わらず深々とソファに腰かけた会長がいて、テーブルに置かれたカップに手を伸ばしているところだった。

「その嘘。すでにみんなが知るところになってたとしたら、……どうする?」

「え?」

 思いがけない言葉に足が止まる。
 問いかけようとした瞬間、背後の扉は開かれて、差し込んできた光に目が眩んだ。

「なにやってんだ、ありす」

「え、……わっ、うさっ……?」

 逆光の先から宇佐木の声がして腕を掴まれる。引き寄せられて、あっという間に生徒会室から引きずり出されていた。

「相変わらず、乱暴な奴だな」

 事の始終を見ていた春日さんの、少し棘のある冷たい言葉が向けられる。宇佐木は気に入らなそうに鼻先であしらうと、機嫌の悪そうな顔でオレを見下ろした。

「おせーよ。いつまで待たせる気だ? 生徒会とはいえ今日から活動はないんだろ?」

「あ……、うん」

「話は終わってるのか? なら、もういいよな?」

 チラリと中の様子に視線を走らせて、宇佐木は確認を取るように尋ねた。
 どうやらあまり長居したくないらしい。

「ありす。東条の言ったことは気にしなくていい」

「春日さん?」

「まぁ、偽りのない姿も見てみたいけど……な」

 目を細め、春日さんはオレの疑問に答えるかのように目の前に手をかざす。
 やっぱり、そういうことなんだ。
 みんなに知られているというのは、オレの……。

「ほら、せっかく迎えに来てくれたのに。行ってしまうよ」

 言われてみるとすでに宇佐木の姿は階段を下りる所まで移動していて。慌ててその後ろをついて行く。

「ありす、試験が終わったらまたおいで」

 オレを追いかけるみたいに春日さんの声がした。つまりそれは、試験が終わったらまた活動開始って、そう言う事なんだよね?
 きっと、鈍いオレにそれを教えるためにわざわざ言ってくれたんだ。

「ほら、さっさと帰るぞ。ありす」

 階段の下からオレを急かすような声がする。

「待ってよ、宇佐木」

 階段を下りると踊り場の所に宇佐木の姿が見えた。どうやら置いて行かれずに済んだらしい。

「何の話をしてたんだ?」

 ようやく追いついたところで尋ねられる。
 もしかして、宇佐木も知ってるのかな? オレが入学して以来ひた隠しにしてきたことが、すでに周知されてるってこと。

「宇佐木も知ってるのか? オレの秘密がバレてるって」

「ん?」

「だから……」

 あまり口に出したくないから言葉を濁す。

「秘密? 秘密って、……ああ。その目の事を言ってるのか?」

 あまりにもあっさりと言われてしまった。
 それはきっと隠すに足りない事だから、宇佐木にとっては当然ってことなんだろう。

「みんなが知ってるって。なんで? どこから知られちゃったんだろ?」

「そりゃあ、……まぁ。いずれバレるもんだろ、そんなものは」

「だって、みんなの前じゃずっとコンタクトしてたし。見られたのも打ち明けたのも宇佐木と祐樹だけなのに」

 そうだ、2人にしか見せたことがないのに……。どこから漏れたんだ?
 そう言えば、もう1人。崎原さんもこのことを知ってたみたいだった。

「そんなこと調べりゃすぐにわかることだろ」

「だって、……気になるんだよ」

 宇佐木の言う通りかも知れないけれど。
 誰かがオレのことを調べてるなんて、気持ち悪いじゃないか。

「大丈夫だって。何があっても、守ってやるから」

 やけに自信たっぷりに言い放つ宇佐木を、オレはぼんやりと見上げた。

「だから、安心しろよ。ありす」

 その微笑みにオレは……、何の根拠もないのに安堵を感じてしまう。今まで何度も宇佐木には助けられているから、それが基盤になってるのかも知れない。
 『姫制度』なんてものを知った頃。こんな所でやっていけるのか正直不安だった。
 だけどオレを支えるように祐樹や宇佐木が傍に居てくれて。だからどんなことがあってもやってこれたんだ。それを思うと、これからだってなんとか乗り越えていけそうな気がする。

「まぁ、それはともかくとして。これから先ありすを狙ってくる不届きな奴らに、充分知らしめておく必要があるよな」

「なに言って……宇佐木?」

 神妙な顔をしてぶつぶつ言ってると思ったら、突然宇佐木の顔が接近してきた。
 身を引くよりも早く、その腕に腰が捉えられて。生暖かい感触が唇を覆う。
 自由の利く腕で宇佐木の胸を押し抵抗するけれど、びくとも動かない。それどころか不自然に背中を反り返らされ、苦しくてたまらない。

「ん──っ」

 酸欠で頭がクラクラしてくる頃になって、ようやく解放された。膝から力が抜けて自力で立てない。
 でも、そんなことよりもオレの頭を占めているのは、どうしてこんなコトしてきたのかって事だ。

「こ、……んなところで、なんてことをっ」

「でも、だからこそ効果的。なんだろ」

 濡れた唇を拭うと、慌てて周りを見渡した。
 校舎からさほど離れてもいないこんな目立つ場所で、見られてないはずがない。
 突き刺すような視線が周りから注がれているのがわかる。

「これでオレとありすは公認の仲になったわけだ」

 してやったりといわんばかりの宇佐木を、オレはわなわなと怒りに震えて見ていた。
 いくらこの学園内が特殊な環境にあると言っても、理解の限度を超えてる。公認の仲なんて、そんなものが一般的に受け入れられるはずないじゃないかっ。
 文句を言いたいのに、口をパクパクと動かしているだけで言葉にもならない。

「う……う……」

「ん?」

「宇佐木の……ばかぁ──っ」

 走り出したオレの後を宇佐木が追いかけてくる。
 ちょっとだけでもこれからの学園生活に勇気がわいてきたと思ったのに、すべて台無しだ。っていうか、きっと宇佐木のことを信じたオレが悪かったんだ。  
 明日から好奇の目に晒されるのは必至。そんなの一体どうしろっていうんだよ?
 考えただけで胃がキリキリする。
 やっぱりこの学校の体質はオレには合わない。それだけはこれからもきっとずっと変わらないと、自信を持って思えた。



      ── END ──



 

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

夢の向こう側~逢魔が時の幻惑・番外編~ その1


 12月も半ばを過ぎれば、仕事に忙殺される日々にも終わりの兆しが見えてくる。
 それでも周りがそわそわして落ち着かないように見えるのは、今年最後のイベントが待ち構えているからだ。
 机の上にある小さなカレンダーを見て、オレははぁ……と知らず知らず吐息する。
 明日から始まる連休は、まさしく『クリスマス』というイベントに向けての前夜祭。それを1人で過ごすと思えば、勝手に気持ちも暗くなるというもの。かと言って、特定の相手がいないわけではない。会えないのにはそれなりの理由があるのだ。仕方ないことと頭ではわかっていても、そう簡単に気持ちに諦めがつくものでもない。
 諦め……。そう、一度だけ。ダメで元々と思いながらも尋ねてみたのだ。けれどその答えは予想通り。『ダメに決まってるじゃないか』と、けんもほろろな答えが返ってきて話は終了。今年受験を控えた5歳年下の恋人は、オレが思う以上に超現実的なのだ。

 それにしても。と、恋人のことを思い出す。
 ちょっとくらいはオレに会いたいとか、寂しいなんて思わないものなのか?
 あれは8月のお盆休み。それを利用して帰省したオレは、5年ぶりに従兄弟と再会することになった。中学生になったばかりの彼にイケナイ悪戯をしたオレは、彼に責められるのが怖くてずっと彼を避けていた。どうなるかと不安だらけだった久々の対面は、互いの気持ちを確かめあう結果となって。性別も血の繋がりも飛び越えて、現在の関係に至ることになった。
 たった2日間の滞在。濃厚な時間を過ごした自覚はあっても、あれからもう4か月。
 互いに交わすのはメールのやり取りだけという現状で、我ながら随分我慢してきたと思う。それにせっかくの機会がこうして目の前にぶら下がっているんだし、明日にでも出発すれば、せめて半日くらいは一緒に過ごせるはず。どうせ何もせずに終わるくらいなら、悪あがきをしたって同じこと。
 それにあんなことを言ってても、こちらから行けば会いに来てくれるはず。
 そう結論づけると、長い間喉につっかえていたわだかまりがすぅっと消えていく。

 職場の壁に掛かっている時計を見ると、早いものであと1時間もすれば終業だ。連休を目前にしているためか今日ばかりは自ら望んで残業をする同僚は少ないようで。周りの様子を窺いながら、自分も密かに退社できるように進めておく。

「斉藤くん、ちょっと」

 残りの時間でシュレッターでもしておくかと、一段落して席を立った時だった。
 上司から声を掛けられて、オレは不吉な予想を感じつつも近寄る。

「この間提出してもらったこの資料なんだけどね……」

 確かに自分が提出したものを見せられる。ところどころに朱書きがされて、何を要求されているのか一目瞭然だ。しかもこれは来週の会議で必要なモノだったはず。これじゃ残業が確定ではないか。
 自分の席にとぼとぼと戻るオレを、数人の同僚が気の毒そうな目を向けていた。
 手直しの多さに肩を落としながら自分の席に戻る。『それでも』と気を取り直して、オレはPCに向き合った。多少の障害があるにしても、本番は明日なんだ。まだ希望がついえたわけじゃない。それに、逆境に耐えてこそ激しく燃える……というものだ。
 ふふふっと密やかに笑うと、オレは目の前の仕事だけに専念することにした。

 なんとか仕事を終えたのはもうすぐ18時って頃だった。急いでデスクを片付けるとエレベーターへと向かう。
 どうせ会いに行くのなら、プレゼントの1つでも用意しておきたい。
 どんなものがいいのかはわからないけれど、きっとどんなものでも喜んでくれるような気がする。
 手渡した時にどんな顔を見せてくれるのか勝手な想像を膨らませながら、エレベーターが近づいてくる表示をぼんやり眺めていると、ポケットの中でスマホがブルブルと振動するのを感じた。
 画面を見ると登録されていない電話番号が表示されていた。

「もしもし?」

 怪しみながらも応答する。
 すぐには相手からは反応がなかった。もしかして間違い電話、なんだろうか? 

『……カズにぃ?』

 しばらくして戸惑いがちに声がした。
 聞き間違えるはずもない、その声は……。

「ナツ?」

 どうしてこのタイミングで彼から?
 彼に自分の電話番号を教えたのには記憶にあった。それでも今の今まで、連絡なんか一度だってしてこなかったのに……。
 信じられないでいるオレを、その電話の相手はまるで弄ぶようにクスクスッと笑ってみせるとこう言った。

『さて、僕は今どこに居るでしょうか? 答えはメールに添付しておくから急いでね』

「えっ? って……ナツ、ナツ?」

 事態が呑み込めなくて呼びかけるのに通話が切られる。そして間もなくメールが送られてきた。メッセージはなく、写真が添付されている。

「これって」

 開いて、それから絶句した。
 そこにはナツが写っていて、見慣れた駅がその背景にある。
 目の前でオレを迎えるように開いたエレベーターに乗り込むと、すかさず『閉』のボタンと『1』を押した。


 はぁっはぁっと息を弾ませて、オレは目的地へと走っていた。
 間違いなく、ナツはこの近辺にいるらしい。あれから定期的に送りつけられてくる写真がそれを証明していた。 
 電話を掛け直してみるものの、応答するつもりはないようで出てはくれない。
 どうやら写真だけで自分を探せと言いたいようだ。
 最後に送られてきたのは、駅の近くにあるスタバ。
 そしてその店の前に、オレも立っていた。
 店内に入ると暖かな空気に迎えられ、急激な温度差に一瞬息がしにくくなる。それでもあたりを見渡すと、その片隅にようやく対象を見つけた。

「ナ、……ツ」

 写真にも写ってたキャラメル色のショートダッフルコート。どうやら人違いではなさそうだ。

「カズにぃ、こっちこっち」

 オレを見つけてひらひらと手を振ると、彼は極上の笑みで迎えてくれた。

「どうしてここに?」

 席に着くと同時に尋ねる。
 あんなにあっさり『会えるわけがない』と言っていた彼が、どうして目の前にいるのか理由が知りたい。

「ん──、冬休み。だから?」

 茶化すように笑いながら答えるのを、オレは黙って聞いた。その沈黙をマズイと思ったのか、彼は慌てて追加する。

「大学の見学だよ。一度この目でちゃんと見定めておきたかったから。だから両親に無理言ってきたんだ。本当だよ?」

「……」

 どうやらそれに嘘はないようだけど、それなら前もって連絡くらいくれても構わないだろうに。こうしてオレを驚かせることも計画の内だったのだろうか?
 まだ完全には手の内を明かしてくれないナツを、疑い深く見つめる。

「あとは……そうだなぁ」

 勿体ぶってそういうと、テーブルを越えてすいっと身を乗り出してくる。 

「僕とカズにぃの『愛の巣』も確認しておきたかったから、かな」

 耳元に吐息が触れそうなほどの距離でこそっと囁くと、何事もなかったように平然と元に戻る。 
 それどころでないのはオレの方だ。不意打ちの行動と言葉に心が乱される。
 という事は、もしかして……。

「今晩、泊めてくれるよね?」

 艶やかな微笑みを浮かべるナツに、オレは今回もまた先制を許してしまった。





というわけで、
皆様お久しぶりです
Xmas企画って訳で、今回はこの2人をピックアップ
楽しんで頂けると嬉しいです

皆様のご訪問に感謝です!!
拍手・ランキングサイトへのぽち、ありがとうございます!!

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

夢の向こう側~逢魔が時の幻惑・番外編~ その2

 玄関の扉を開くとオレはいつものように照明のスイッチに手を伸ばした。パチンという音と共にオレンジ色の暖かな光に包まれ、短い廊下が照らされる。
 本当にこれで良かったのだろうか……。
 食事を終えてからどこに立ち寄るでもなく、まっすぐ帰ってきたことに疑問が残る。それもこれもナツの、『今日は疲れたから早く帰りたい』の一言で決めたことだけど。せっかくなんだからクリスマスを彩るイルミネーションくらいは2人で眺めたかった、と思わずにいられない。
 そんなオレの心境も知らないで、興味津々といった感じで背後からナツが顔をのぞかせた。

「へぇ、ここがそうなんだ」

 オレにとっては何の変わり映えもしない普通の部屋が、彼にとっては何もかもが好奇心の対象らしい。
 
「ちょっとここで待ってろって……こらっ」

 扉の鍵を閉めているオレを置いて、先に入って行こうとするナツを制止しようとしたけれど、上手く躱されてしまった。
 誰かをこの部屋に入れることなどここしばらくなかったことだから、妙に緊張して変な気分だ。

「なんだ、キレイにしてるんじゃないか。引き止めようとするから何かあるんじゃないかと期待したのに」

 明かりのついた室内を見渡すと残念そうに言う。

「期待って、ナニを期待してたんだよ」

「そりゃあさ、いろいろあるでしょ。カズにぃは大人なんだし、さ。他人に見られちゃマズイことの1つや2つ、あるんじゃないの?」

「バカ言ってないで。疲れてるんならすぐにでも風呂に入るだろ? 準備してくるからその間に自分の荷物でも片づけてろよ」

 悪戯っぽくキラキラした目でオレを見上げているナツに言い残して、オレは腕まくりをすると浴室に向かった。
 浴槽にお湯を溜め始めると、間もなく密閉された室内は白い湯気が立ち込めてくる。
 少し、素っ気ない態度だったかもしれない。
 去り際、ナツの瞳に一瞬陰りが見えた気がして、自分の行為に後悔する。
 こうして今2人で居られるのは、すべてが彼のおかげなのに。それを素直に喜べないばかりか冷たくしてしまうなんて、多分恋人として最低だ。けれどそうしてしまう自分の言い訳もある。それはとても、卑屈なものだけれど……。

「カズにぃ……」

 カチャッと浴室のドアが開いてナツの声がした。
 振り向いて目を奪われた。衣服も何も身に着けていない彼が、ぼんやりと突っ立っているオレの目の前に居る。

「え……、ちょっ」

 待てと言うよりも前に動いたのはナツの方だった。
 ゆらりと上半身が揺れたかと思うと、下から絡みとられるように彼の腕がオレの首へと伸びてきて、引き寄せられると柔らかい唇で呼吸が塞がれる。
 浴室のタイルに背中を預けると、為されるがままに身を任せた。でもそれはナツの望むものではなかったようで、どうして? と不安げな顔をして身体が離れる。

「ごめん、ナツ。オレ……」

 そういう気分に今はなれない。ナツがくれた大切な時間なのに、こんなことまでさせておいて、酷い男だと思うけれど。

「……もしかして。ここに来ちゃいけなかった? もうとっくに僕のことなんてどうでもいいとか? それとも他に好きな人が出来ちゃった?」

「ちがっ……そんなわけないだろ」

「だって。会ってからずっと困ったような顔してるじゃないか。ってことはそう言う事なんじゃないの?」

 顔を真っ青にしてナツが叫ぶように言う。身体をガクガクと震わせて、自分の身体を抱きしめるみたいにして。オレが否定しようとしても信じてくれそうな気配がない。
 耐えられないとオレの前から逃げ出そうと身じろいだ彼の腕をすかさず捕まえる。
 
「ナツ……」

「やだっ、放せよっ」

 手を離してしまえばそのまま終わってしまいそうで。暴れるのを力づくで押さえ込むと腕の中に抱きしめた。
 どうしよう。自分のせいでこうなっている。このままだと取り返しのつかない事態になってしまいかねない。何も言わないでいれば、彼が言ったことを全て肯定してしまうことになる。

「ずっと先を越されてばかりで、自分のことが情けなかったんだ」

 思わず、言いたくなかった本心が口をついて出ていた。
 腕の中のナツの抵抗が弱まる。

「あの時もナツの方から行動してくれた。今回だってそうだ。オレが行動する前に、ナツがチャンスをくれる。オレはそれに便乗するだけ」

「そんなのっ」

「わかってる。オレが勝手に卑屈になってるだけなんだってことくらい。だからナツは悪くなんかないんだ」

 それでも、大人気なく八つ当たりをしてしまった。
 どう謝罪できるものでもないけれど。
 彼を好きなことは変わりない。

「……嫌われたのかと、思ったんだ。僕がカズにぃを試すようなコトしたから」

 オレが掴んだ腕をそのままに、スルスルとナツの身体が床の上に崩れ落ちていく。
 俯いて、ホッと安堵するかのようにそう呟くと、彼はオレを仰ぎ見て小さく微笑んだ。






ご訪問ありがとうございます!
拍手・ランキングサイトへの応援ぽちに感謝です!!

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

夢の向こう側~逢魔が時の幻惑・番外編~ その3 (R18)



 許してくれるのか……? 身勝手な思いで傷つけたオレのことを。
 その真意を確かめたくて、オレはナツの瞳の奥を見つめる。
 自分の方が彼の腕を捕まえていたはずなのに、その手が逆に捕らえられて手繰り寄せるみたいに引き寄せられる。

「カズにぃは……僕のこと好き?」

 その言葉を聞いて、『ああ、そうか』って納得する。
 それが真理なんだ。
 重要なのは『どちらが』ではなくて。『2人が』どうなのかってことだから。オレとナツの想いが一緒なら、どちらに主導権があろうと関係ない。そんなモノにこだわってしまった自分が、あまりにも小さく感じられた。

「……愛してるよ、ナツ」

 すっかり冷たくなった身体に腕を回して抱きしめると、彼は小さく頷いて抱きしめ返してくれた。

「じゃぁ、一緒にお風呂。入っちゃう?」

 可愛く誘われて、もちろんオレに断る理由などなかった。


 湯船から上がると全身から湯気が立ち上る。上気して薄紅色に染まったナツが、白く霞んだ中に浮かび上がって見えた。こんな風に一緒に入るなんて一体何年ぶりだろう。そんなことを思いながら彼を壁に向き合って立たせると、その背中に大量に泡立たせたシャボンを塗りつけた。手のひらでそれを全身へと拡げてやると、くすぐったそうに笑いながら身体を逃がそうとしている。

「動くなよ、お詫びに洗ってやってるんだから」

「だって……なんかそれ、やだっ」

 口では嫌そうに言ってても本気ではなさそうだから、悪戯心が出てきてエスカレートしてしまう。手を前面に滑らせると、わざと小さな尖りを指先で転がした。
 ソコに触れた途端に彼は身体をびくんっと震わせて、全身に緊張が走ると硬直する。

「あぅっ、カズにぃっ?」

「ちゃんと隅々まで洗わないと、な?」

 耳元に囁くと泡まみれの手をさらに下腹へと伸ばし、脚の付け根から太腿へと移動させた。局所にはなるべく触れずに、ただ軽く撫でまわす。よく滑るから普通に手で触れるのとはまた違う感触がして、無性に興奮する。

「でも……それ、目的が違、ぁっ」

「エッチなことばっかり考えてるから、そんな風に感じるんじゃないか?」

「そ……んな、ことなっ」

 すっかり翻弄されて、声が妖しくなっていく。オレは平然を装って、更に快楽を与える手を緩めない。そうしていると、ぴくんっと彼の性器が震えて反応を示した。

「ああ、でも。今日は疲れているんだったな」

 思い出したかのようにそう言いつつ、意地悪く彼の乳首をくりくりと指で摘まんで弄ってやる。

「んっ、そんなの……、口実に決まってんだろっ」

 壁に顔をくっつけて、腰をオレに突き出すようにすると濡れた瞳で睨みつけてくる。

「早く。2人っきりになりたかったから……だからっ」

 これ以上は焦らさないでよと訴える唇を、オレは吸い寄せられるように塞いだ。
 すでに彼の足の狭間で硬くなっているものに、指を絡めて上下に扱く。それは手の中でさらに大きく孕んで、ドクドクと脈打つように存在感を増した。
 それは自ら潤んでジュクジュクと濡れた音を立てると、ナツからオレに腰を擦りつけてくるように腰を揺らす。
 双丘のその奥に手を滑り込ませると、まだ固く閉じた蕾が指に触れた。

「んっ」

 息を飲むように声を上げると、キュッとオレの腕を握りしめる。やけに反応が色っぽくてドキンと胸が高鳴った。

「痛くない? ナツ」

 指先を蕾に這わせて、その中に突き立てる。
 様子を見ながら少しずつ穿って、時間をかけて含ませていく。柔らかい肉襞がオレの指を包み、彼がピクンと身体を震わせるたびに入口が搾られる。久しぶりだからかすごくそこが狭いように思えて、壊れてしまいやしないかと不安になる。

「あ、……大丈、夫だから」

 はっはっと息を乱して、ナツはもっとして欲しいとねだるから。オレは床に膝をつくと彼の双丘を足を開かせて、目の前に露わになった固い蕾に舌を這わせた。
 舌と指とで存分に潤してやると、指を2本に増やして拡げてやる。いやらしく孔は収縮して、喜ぶように内側をうねらせてオレの指を食んだ。

「も、いい?」

 尋ねるとトロンとした表情で声もなく頷く。
 彼の中から指を引き抜き、自分の欲望を数回手で扱くとその切っ先を押し当てた。
 先端が内側へと侵入するだけで、すごい圧迫感を感じる。それでも身体を押し進めると、ずぶりと彼の中に総身が収まった。
 しばらくそこから動けない。
 熱くて、狭くて。うねるように締めつけられると、堪らなくそれが気持ちいい。

「あっ、あ……、まって……、あ、ぁ──っ」

 彼の腰を両腕で捕らえると、彼の了承も待たずに容赦なくその中を蹂躙する。
 彼を気遣う余裕なんてものは全くなくて、思う様に責め立て快楽を貪る。
 喘ぐ彼の声が甘美に聞こえて、オレを酔わせた。

「ナツ、……ナツ」

 最後の瞬間、彼の身体を渾身の力で抱きしめる。最奥に欲望を突き立てて、彼の内側にたっぷりと注ぎ込んだ。
 ナツもピクピクと身体を震わせて、オレの手の中で飛沫が弾ける。それは多分、2人ほぼ同時の絶頂だった。


 自分で動けると言い張る彼を抱き上げて、寝室へと移動する。
 寝るにはまだ少し早い時間だけど、一休みするのならベッドの方が適しているから、先にナツを座らせてオレも一緒に腰かけた。

「喉、渇いた」

 着いて早々にせがまれて、仕方なく台所まで取りに行く。戻る前に浴室とリビングを片付けて、ナツが待つ寝室に再び戻った。
 ほんのわずかな時間だったのに、よほど疲れていたのかすっかり目を閉じて寝てしまっている。起こすのも忍びないからそっとベッドに乗り上がると、彼の隣に身体を添わした。
 しっとりとしている髪を撫でてやると、額を擦りつけるように肩に顔を埋めてくる。
 そういえば、昔彼がまだ小さかった頃もこうしてよく一緒に寝てたけど。あの頃からその仕草は変わらない。思い出すと懐かしくて笑っていた。
 素直に甘えてくるナツのことが大好きで、どんな無茶な要求でも叶えてあげようとしてたっけ……。全ては彼の笑顔が見たかったからなんて、その頃から特別な存在だったんだなと改めて思う。

「……何ニヤニヤしてんのさ?」

 寝ていると思っていたナツに急に話しかけられて、オレは心底驚いた。

「小さい頃のナツを思い出してた」

「え? もしかしてカズにぃってロリ……」

「ちがうからっ」

 せっかく正直に答えたのに、妙な疑いを掛けられて慌てて否定する。
 そりゃあ、幼い頃のナツは可愛かったけど、そういう対象としてはまだ見ていなかったからセーフ……だと思う。自信はないけど。

「慌ててるあたりが怪しいんだよね」

 訝しみながらそう言うけれど、今のナツも幼いナツもそれは同一人物なんだという事をわかってるのか、はなはだ疑問だ。
 でもそんなことは置いといて、オレにはナツに言いたいことがあった。

「こんな時期に、ここに来ることを許可したな」

「……ん。だってすごく頑張ったから」

 もうすぐセンター試験だというのに、今がどれほど大切な時期なのかわかってないはずがない。それを頑張ったから許可がもらえたってのはどういう事だろう。

「学校の期末テストも模試も。今日ここへ来るためにいい点とって。実際に大学を見ておきたいからって無茶を言って説得したんだ。まさか本当に許してもらえるなんて、僕も思ってなかった」

「だから、オレにはなんの相談もなかったのか」

 それでようやく納得する。
 会えるはずがないと諦めさせるようなことを言って、その一方ではオレに会うための努力をしてたなんて。

「……そうでもしなきゃ、カズにぃに会えないと思ったんだ。でもどうしても会いたかった。合格できるかどうかわからないし、もしできたとしても他に好きな人が出来てたらって思うと不安で。どうしても確かめておきたかった……から」

「ナツ」

「本当に、来年ここにきていいんだよね?」

 まだ不安そうに再確認されて、オレは彼の身体をぎゅぅっと抱きしめる。

「ああ。オレの隣はこれから先もずっとナツのものだから。安心してていいよ」 

「本当に、本当に、本当に?」

 しつこく確認されて思わず苦笑してしまう。
 だから答える代わりに、オレは彼の身体の上に馬乗りになった。

「じゃぁ、これから確認してみる?」

 挑むように彼の顔を覗き込むと、『えっ』と戸惑いの表情を浮かべる彼の唇に軽くキスを落とす。

「その身体で、オレの気持ちを確かめればいい」

 低く囁いて耳の後ろにも顔を埋める。返事は聞こえないけれど、彼の腕がオレの背中に触れるのを感じて。それが彼なりの答えなんだろうと、オレは勝手に解釈した。
 

     ── END ──





 ここまでお付き合いくださった方々、お疲れ様でした
 全部で3話という
 非情に短いものではありましたが
 久々のナツとカズにぃが書けて独りよがりながら満足ですw
 では、次はまた別のお話で。
 応援コメ・拍手・ランキングサイトへのぽち、ありがとうございました!!



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加してます こちらも一緒にぽちってくれるとやる気が一つ上昇します

web拍手 by FC2