明り取りの窓から差し込んだ強い陽射しが、階段の踊り場を照らしている。あまりにそれが眩しくて目を細めると、額の上に手をかざして庇うように覆うと光を遮った。
西棟の4階にある生徒会室。その日一日の授業を終えたオレは、すっかり通い慣れたその場所に向かっていた。
階段を昇りきって廊下の突き当たり。大きな両開きの扉の前に立つと、いつになく緊張しているようで、じっとりと汗が滲む手のひらをぎゅっと握りしめた。
今日この場所に来たのは、いつも通りに生徒会の仕事をするためなんだけど。会長がオレのことを生徒会に入れた真意を知ってしまった後だから複雑な心境で。気にしすぎているのか、すんなり会うには気持ちが重くて。だから自然とここへ来るのもいつもより遅くなっちゃったんだけど。
「でも……」
きっと、今日を乗り切れば楽になるはず……。
深呼吸を1つすると覚悟を決めてノックをした。それから思い切ってドアノブに手を伸ばし、回す。扉を押し開こうとしたけれど、それは思ったよりも軽くて。手を引っ込めてもひとりでに開こうとする扉から、思わず飛び退いていた。
「ん? どうした、ありす」
「か、春日先輩……?」
扉の向こう側から現れた見慣れた姿を確認して、驚きのあまりドキドキと動悸のする胸を撫で下ろす。
それにしてもなんていいタイミングなんだろう。
まるでオレがここに来るのを知ってて待ち構えてた、……みたいな? だとすると、会長たちもオレに用件があるってことなのかな。
出迎えてくれた春日さんの顔をじぃっと見つめてみるけれど、そこに答えらしいものは得られなくて。彼は困ったように笑うと、一歩後ろに下がって進路を開けてくれた。
「まぁ、入れ」
中へ誘導されて、大人しくそれに従う。背中の方からパタンと扉が閉まる音がした。
部屋には執務机の前に会長が座っていて、物言いたげな目をこちらに向けている。そりゃあそうだろう。彼らにしてみれば、いつも通りにやってきたオレの行動が不思議でたまらないはずだ。自分を利用していた人たちとこれから先もつきあおうなんて、普通は考えない。
「しばらくは来ないと思ってたのに、……何かあったのか?」
「……別に」
気遣うように言う春日さんから目を逸らす。
『しばらくは来ない……』か。
その言葉がオレを遠ざけようとしているみたいに聞こえて寂しく感じた。
もしかして、とふとした考えが過ぎる。会長たちにとってオレなんてもう利用価値はないのかも知れない……と。祐樹のような情報収集に長けているわけでもなく、宇佐木のように優秀でもない。何の取り得もないオレなんて、この生徒会には不必要なんじゃないのか……?
「オレ、生徒会を辞めるつもりはありませんから」
「……」
オレの突然の宣言に、2人は言葉もないようだった。
春日さんは訝しげに少し眉根を寄せ、会長はオレが放つ次の言葉を待っているように見えた。
「会長に誘われて、よく考えもせずに生徒会に入って。今だって目的があるわけでもないし何ができるかもわからない。オレなんかがいたってメリットなんてないのはよくわかってるけど。だけど中途半端は嫌なんです。途中で放り出したくない。できればこのまま続けたいって思うのは……ダメですか?」
一頻り、自分の意思をまくし立てるように言ってから息をつく。
部屋はしんと静まって、その沈黙がオレの気持ちを拒絶しているような気がした。
誰か、なんとか言ってよ……。
いたたまれなくて目をぎゅっと閉じたオレの耳に、ククッと喉の奥で笑うような耳障りな音が聞こえた。
そちらに目を向けると、肩を震わせている会長の姿が目に映る。
信じられなかった。こんなに真剣に話しているのに、それを一体どういうつもりなんだろう。
「悪い、ありす。ふざけてるつもりはないんだ。……ただ、デジャヴを感じて」
「デジャヴってなんですか? 何のことを言ってるのかさっぱりわかんないです」
イライラしながらオレは会長を睨みつけた。
だけど彼は全く気にも留めていないようで、ニヤニヤと笑い続けてはますますオレの気持ちを逆撫でる。
「初めてここへ来た時もそう、こんな感じで。真っ直ぐに自分の意見をぶつけてた」
「……?」
一体何が言いたいんだろう、この人は……。脈絡もない事のように思えて全く理解できない。
椅子から立ち上がり、ゆっくりとオレに向かって近づいてくるのを見守る。
「何を勘違いしてるのか知らないが。ありすが残留を望むなら、俺たちはそれを拒否するつもりはない。それに言っておくが、キミを生徒会に勧誘したのはこの俺だ。その面子に掛けてもそう易々と辞められては困るんだよ」
「か、んちがい?」
呆然とオレは呟いて、目の前まで来た会長を見返した。
確かにプライドの高い人だから、生半可な気持ちで誘うようなことはしないだろうけれど、その反面必要に応じてならなんだってする人だ。信用できるわけない。
「本当に……?」
結局は春日さんに救いを求めてしまう。
「だって、『しばらくは来ないと思ってた』って」
「それは……」
春日さんは途中で言葉を止めると、おもむろにメガネの縁を片手で押さえ、そして長くため息を吐いた。
「今日が期末試験の1週間前で。当然、すべての活動が休止するからそう言ったまでのことだ」
こんな常識を知らなかったとは思ってもいなかった。と、まるで反省するかのように言われて。オレは憤死しちゃうんじゃないかと思うほどの恥ずかしさに見舞われた。
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