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誤解から生まれた真実 2

 やり辛い。そんな一言に尽きる。

 あのキャンセルの電話があった時に自分も帰るべきだったかな……と後悔さえしている始末だ。
 かといって、休み前の夜にまっすぐ帰宅なんて味気ないに決まっている。特定の恋人がいるわけでもない一人っきりの部屋で何を楽しめばいいというんだ。

 無言のままに食べているだけだとあっという間に食事は終わり、仕方なく残ったビールを口元に運んだ。数分してまた店の扉が開く音がして、オレはその場所に立っている男にくぎ付けになった。

 見知った奴だ。でも、二度と会いたくなかった。
 そいつは確実にオレを認識した。そしてゆっくりと近づいてくる。

「光稀、久しぶりじゃないか」

 一体どういうつもりなのか、そいつ高幡 椋介(たかはた りょうすけ)はオレの隣に空いていた唯一の席に座った。
 1年と少し前までこいつと付き合っていた。でもあれは付き合っているというより支配するものとされるものの関係だった。そして、ある日突然一方的に終わったのだ。

「あれからどうしてた?」

 わざとらしく傷を抉るのも、その不愉快な口調も笑みも何もかも変わっていない。
 嫌悪感がこみ上げてくる。どうしてこんな奴に自分を自由にさせていたのか、そして夢中になっていたのかわからない。

「今でも思い出すんだよ、お前のこと。光稀はどうなんだ?」

「もう、忘れました。そんなこと」

 嘘は簡単に見抜かれる。そんなことわかっていても言わずにいられない。
 覚えてるに決まっている。初めてだった。求められるのも求めたこともなにもかも。
 そういう事をすべてわかった上で今質問していることだってわかっている。

「どうだ?今夜また久しぶりに」

「ご遠慮します」

 速攻で断り、水の入ったグラスに手を伸ばす。椋介と居ると喉が渇いてしまう。緊張している証拠だろう。それはつまり、まだ未練があるってことなのか……?
 そのグラスごと手を捕らえられ、あわてて引き戻そうとする。

「俺は覚えてる。お前の弱いトコロひとつひとつ」

 顔が近づいてきてこれほどないくらいの至近距離で囁くように言った。
 耳元の低音が首筋にも感じる。ゾクッとする反応はどうしようもない。

「どんなに強気な態度をとったところで、お前はオレに従うんだよ。最終的には」

 そう……。悔しいことではあるが以前はそうだったんだ。でもそれはこの男をどうしようもなく好きな自分がいたからであって、今のオレではない。

「残念でしょうが、そんなつもりありませんから」

 椋介の言葉を否定する。こういうやり取りは前にも繰り返されていたことだ。駆け引きのようなやり取りをするのが好きな男だった。
 でも、もう過去の話だ。

「お前さえ良ければまた前のように上手くやらないか?」

 この男、以前にも増して図々しくなった。あまりにも自分勝手なことを言い出す男にオレはいい加減イラつきを感じていた。
 一方的な別れの後、どんな思いで気持ちを整理したのかとか、あの時のオレの意思や気持ちはこいつの中に今現在もないんだ。

「身体の相性も一番良かっただろ?」

 どこまでも下世話な奴。もう相手をする気にもなれない。
 オレは黙ったままグラスを弄んでいた。早く飽きてどこかに行ってくれないものだろうか…。ふと周りを見るとオレと椋介の会話に耳を傾けていたらしい客たちと視線が合った。ああ、そりゃあ気になるんだろうさ。昔の恋人とばったりなんて、そんな面白い話題ないからな。しかもちょっとした修羅場じゃないか。
 心がどんどん冷えていくのを感じる。

「なぁ、光稀!」

 焦れた男が少し大きめの声を上げた。
 少しは相手にされていないことが分かっただろうか?
 視線を男にもう一度戻す。昔感じたような魅力はもう無かった。ただの男だ。そう思うと最初に感じた焦燥感のようなものは消えていく。

「オレからはもう話すことはないし、しつこい男は嫌いじゃなかったか?」

 落ち着いてサラリと言った。一瞬にして火花が飛び交う。
 その言葉は、あの時こいつが立ち去る時に言った最後のセリフだ。
 それは椋介も覚えていたらしい。

「こいつっ」

 怒りに任せて男が手を振り上げた。店中がざわめく。その時、椋介の後ろで狭い思いをしていただろう男が立ち上がりその腕を握っていた。


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