間延びしたチャイムの音。待ちわびたその時間に、オレはカバンを掴んだ。
「小野瀬、帰りにコンビニ寄らねぇ?」
「わりぃ、オレ先約あるから。じゃあな」
だらだらと呼び止められて振り返り、片手を上げて答える。
『なんだよ付き合いわりぃな』なんて不満そうな言葉を背に教室を飛び出すと、戸を出てすぐのところに、最近知り合ったばかりの友人が待っていた。その姿に向かって破顔する。
「新宮、早過ぎ。なんでもう待ってんだよ」
「そうかな? で、今日はどうする?」
ちょっと困ったような顔をして、彼は鼻の頭を掻きながら言うと歩き出す。その後ろを追いかけて、オレは当然っとばかりにその隣を歩いた。
「決まってんじゃん……で、どっちの家に行く?」
「どっちでもいいけど。近いし、小野瀬の家は?」
「じゃあ、決定なっ」
ウキウキとした気持ちを押さえられず、オレは足を速めた。そんなオレを見て、新宮はくすっと楽しそうに笑う。
「本当に好きなんだな。ゲーム」
「ああ、ったりまえだろ。あの世界じゃ、オレは何にでもなれるんだからさ」
なんてことない、いつもと変わりのない会話。オレたちはお互いにそんな話ができるのが嬉しくて、すごく楽しくて笑っていた。
あの世界ってのはネット上に存在するゲームの世界のことだ。
小さい頃からゲームは大好きだった。音ゲー、格闘、RPG。最初はそういうものから始めて、それを通じて友達も出来た。同じ中学の友人に誘われて始めたオンラインゲームってものに目覚めたのがここ半年くらいで。まだまだ未熟なオレは、その世界が持つ魅力にどっぷりと浸かっていて。そんな時、オフ会ってものを知った。
オフ会ってのは、同じゲームを通じて知り合った仲間と現実世界で交流することだ。
調べるとそれは日本のあらゆる各地で開かれているらしい。個人でやっているモノから公式なものまで。希薄な関係しか築けないと思っていた世界は、意外にそうでもないのかも知れない。そう思うとすごく興奮して、日頃一緒に冒険をしている人たちに会ってみたいと思った。
しかも偶然に、そう遠くない場所で大きめのオフ会が開催されるらしい。そんな話を聞いて、居ても立ってもいられずオレは参加の名乗りを上げた。
それが先月の終わり。
「もしかして、君。5組の小野瀬?」
ざわざわした店内。今日はオフ会で貸切になっている。そう話に聞いていたオレは受付を終えると、緊張でキョロキョロと辺りを見渡していた。
同じくらいの年齢のヤツもいるけれど、圧倒的に社会人や大学生風の人が多い。しかも男女入り乱れて、誰が誰なのかさっぱり分からないし声を掛けていいのかもわからなかった。はっきり言って、勢いに任せて来たのはいいものの、どうしていいのか困り切っていた。
声を掛けられたのは、まさしくそんな時だった。
「えっ? はっ……はいぃっ?」
声が裏返るほどに驚いて、その声の主を見る。
本名なんてこんなところでは誰も知らないはずだった。受付でもハンドルネーム(HN)を記入したし、ましてや初めてくるオフ会。知り合いがいるわけない。
「ふふっ……僕。わからないかな? 2組の新宮」
「えっ……て、……え?」
混乱で言われたことがあまり理解できなかった。
2組……新宮……。
記憶になくて、懸命に考える。
「同じ学校に通ってる。去年は体育が一緒だったけど、……覚えてないよね」
「ごめっ……オレ」
苦笑している彼から聞かされても、やっぱり思い出せない。
去年ってことは1年の時。体育は2クラスで合同だから、その時彼はもう一つのクラスにいたって事だ。……喉まで出かかっているような、でも出てこない。オレのそんな葛藤は新宮にも伝わったみたいだった。
「いいよ、ムリに思い出さなくても。僕、あんまり目立たないし」
「や、……ホントごめん」
「そんなに謝られると……なんだか本気でショックだなぁ」
「うっ……、だから。そのっ」
またごめんと謝りそうになって、オレは口を押えた。
それを見て、新宮はあははっと楽しそうな声を立てて笑う。オレは顔中真っ赤になって、恥ずかしくて堪らなかった。
「良かった、新宮がいてくれて。実のところ1人でどうしようかって困ってたんだ。こういうのくるの初めてだし。勝手もわからないしさ」
適当なところに座って、ソフトドリンクを片手に話す。ほとんど話したこともない相手だけど、向こうはこっちを知っているようだし。何より同い年で同じ学校に通っているとわかってからは急激な親近感がわいた。しかもここに居るってことは、同じゲームにハマってるという事だ。気が合う、ってだけじゃない。
「そうなんだ。じゃあ僕と同じだね」
「そ、……そうなのか?」
やけに落ち着いてるように見えていたから、てっきり何度かこういうのに参加したことがあるんだと思ってた。
「うん。知ってる顔がないか探してたら小野瀬が見えて。すごく安心しちゃった」
屈託のない笑顔に、オレの胸が熱くなる。
嬉しいなんてもんじゃない。こいつとならいい友達になれるような気がして。そんなのを感じるのは久しかった。
「新宮、……オレ」
話しかけようとした時だった。一際大きな声がして、呼びかけているのが聞こえた。それまで好き放題に話しをしていた口を閉ざし、みんながそちらへと集中する。ざわついていた会場は少しずつ静かになっていった。
「えー、今日この場に集まってくれた皆さん。ここに居るのはゲーム内だけの知り合いで、でもリアルでは見知らぬ者同士ばかりかと思います。今回の出会いを機会に、互いをより多く知ることで、より円滑で楽しいゲーム生活ができるようになる。そのお手伝いができればと開催させていただきました……」
話しているのはどうやら今回の主催者らしい。言葉に耳を傾け、うんうんと頷く。
ゲーム内じゃ、中のヒトがどんななのかわからない。男なのか女なのか。若いのかそうでないのか。それを知る、滅多にないチャンスなんだ。
話が終わり、乾杯が行われる。オレは新宮とグラスを合わせ、周りを見た。
もしかすると、あの子も来てるかも知れない。そんな淡い期待を抱いていた。
今日から新作を投下します
なにぶん勉強不足なので、
ここ変だよ・・・
などと言うカ所が(多々)あるやもしれません (-_-;)
大目に見てやっていただけると嬉しいです
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みなさまのご訪問に感謝です!
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