たとえ勇者じゃなくても > たとえ勇者じゃなくても 12

たとえ勇者じゃなくても 12




 新宮の身体を支えて自販機近くのベンチに並んで腰掛ける。すると彼はオレの陰に隠れるように身体を小さく縮ませて、膝を立てるとそこに顔を埋めたまま動かなくなった。
 その様子を見てオレは、何か自分にできることはないのか、考えてもいい方法が思いつかなくて。何も言わずただ隣に座って落ち着くのを待っていた。
 正面には自販機の照明がチカチカと点滅していて、誘われるようにオレはベンチを立つ。

「っ……のせっ」

 すかさずオレの名前を呼ぶと、制服のブレザーの裾が強く引っ張られる。振り返ると不安に満ちた縋りつくような目が最初に飛び込んできて、ぎゅっと胸を掴まれるような鈍い痛みが走った。

「大丈夫……、ちょっと飲み物を買うだけだ」

 指で示すと新宮もそちらに目を向ける。距離にすれば3mもない、数歩で届くところにそれはある。それなのに目で確認しても新宮は握っている手を放してくれない。
 置いて行かれると思っているのだろうか?

「すぐ、戻るから」

 出来る限り優しく声を掛け、彼の頭に手を当てる。余程のショックだったのか、いまだに彼の顔色は悪くて、小刻みに震えが残っているのが手のひらを通して伝わってくる。不安そうにオレを見ていた彼の瞳が少しだけ揺らぎ、そして逃げるみたいに視線を下に向けた。

「……うん」

 小さな声がすると、まるで造りの悪いロボットみたいな動きでぎこちなく手が開く。
 解放されたけれどそれと共に彼が何かを諦めたように見えて、後ろ髪が引かれる想いを感じながらも自販機に向かった。
 自分には冷たいお茶と、それから新宮には温かい飲み物を選んでベンチに戻る。離れている間に、新宮はまた両足を抱え込むようにして身体を小さくしていた。
 俯いている彼の頬にペットボトルの側面を当てると、手が伸びてきてそれを取る。

「あったかいや」

 両手で包むように持つと静かにそう言って、それからキャップを捻ろうとする。けれど手に力が入らないのか、手の上で滑ってばかりで開きそうにない。
 オレはそれを新宮から取り上げると、軽く開栓してからもう一度手渡した。

「ごめん、手間かけさせて」

 自嘲するかのような言い方にオレは新宮を見る。
 どうして自分が悪いみたいな言い方をするのか、オレには理解ができない。こんなものが開けられないのも、新宮が怯えているのも、その原因はすべてあの男たちの所為なのに。そう思うと腹立たしくてあの3人が忌々しい。

「新宮が悪い訳じゃない……そんなこと気にするなよ」

 気持ちが逆撫でられて、つい強い口調になるのを自分でもどうしようもなかった。
 ついさっきまでは上手くいってたのに。あの3人が現れてから何もかもが振り出し……、いや状況はもっと悪くなったんじゃないのか?
 この施設に来ること自体、拒んでいた新宮を無理矢理に言いくるめて、北川が声を掛けていた仲間とも、バスケをやることで随分緊張は解れてきていたのに。
 これでは……。

「来なきゃ、良かった」

 新宮がポツリと言葉を漏らす。
 その言葉がオレにとっては一番聞きたくないものだったから、それを言わせてしまったことに唇をかむ。

「みんなに挨拶して、帰るよ。僕」

「しんぐ……」

 弱々しく笑うものの、彼を引き止めるのは無理だろうと思った。
 ベンチから立ち上がると、彼はまだふらつく足取りで階段へと向かう。手すりを持って一歩ずつ。危なっかしいのに手を伸ばすことができなかった。彼の背中がそれを拒否しているように見えて。だからせめて、後ろに倒れないように彼の背後をついて歩いた。 
 北川たちの所に戻ると、5人はコートの外に居てオレたちを待っていたようだった。
 彼らは新宮の様子がそれまでと違う事に気付いたようで、心配そうにやってくると説明を求めてオレに目を向けた。

「わるぃ、オレと新宮はこれで抜けるから」

 新宮の前に立つと、オレは彼が言葉を口にする前になるべく明るくそう全員に伝えた。北川は新宮とオレを交互に見て、この場で説明を聞くのは無理と判断したようだ。

「まぁ仕方ないな……今回は勝ち逃げさせてやるから。ちゃんと新宮を送り届けろよな」

「わかった」

 2人分の荷物を渡されて受け取ると、後ろにいる新宮を促して歩き出す。
 1人で帰るつもりでいたのか、彼は戸惑いながらオレの後ろをついて来る。

「新宮、また明日なっ」

 北川の声がして振り返ると、その場でぶんぶんと大きく手を振っていた。新宮もチラリとそちらを見ると、北川の元気につられたように小さく手を挙げて応えている。

「あいつ……元気だけは有り余ってんだよな……」

 北川がもつ絶大なプラスの影響力にオレは苦笑する。あんなことがあって怖がっていた新宮が、少しでも他の誰かに反応してくれことが救いのように思えて、嬉しく感じられた。

「なにも小野瀬まで帰る必要はなかったんじゃないのか?」

 自転車を押して新宮の隣を歩いていると、彼の方から話しかけてきた。
 どうも自分が原因でオレを巻き添えにして申し訳ないなんて思っているらしい。

「そうか? 北川も言ってただろ。新宮を家まで送り届けろって」

「っじゃなくて、……北川たちともっと一緒に居たかったんじゃないのかって」

「そんなこと気にすんな」

「僕なんかと居るより、そっちの方が楽しいに決まってる」

 何が言いたいんだ……と、オレは新宮が言わんとしていることに苛立ちを覚えた。つまりは、オレが新宮と一緒に居たいと思う気持ちもつまらないものだと、そう言う事なのか?

「どうしてそんなこと言うんだ?」

「……」

 オレの質問に彼の返答はなかった。
 答えるつもりがないのか、それとも思っていることを言えばオレを怒らせる。それをわかってたのかも知れない。

「一人になんて……させられるかよ」

 聞こえるように言う。
 そしてこんなことがつい最近もあったことを思い出した。 
 あれは新宮が熱を出した時だ。あの時も彼は今と同じで、1人になろうとしていて。思えば様子だっておかしかった。

「新宮、あの3人……って知り合いだったのか?」

 内の1人が言ってた。『また遊ぼう』って。『また』っていうのは『前回』があったってことだ。不意に思い出して、深くも考えずに尋ねていた。

「それにお前のこと『カナデ』って……」

「やめろっ……どうしてそんなことっ……今言うんだよっ?」

 ヒステリックな叫びに、オレは言葉を止めた。
 ピタリと新宮の動きが止まったかと思うと、今にも泣き出してしまいそうな、苦しげな表情でオレを見ている。

「しん……」

「ここでいい……もう、ついて来るなっ」

 自転車に乗ると逃げるように走って行ってしまう。姿が見えなくなる前にオレも追いかけたけれど、結局それっきり最後まで追いつくことはできなかった。
 新宮が一番触れて欲しくないところに、不用意に侵入しようとしてしまった。
 あの3人は、新宮が『カナデ』だってことを知ってた。ということはおそらく、あの時オレが行かなかったオフ会に参加してたメンバーだったってことだろう。
 だけど、……一体何があったら、新宮があそこまで恐怖するのか。それだけは想像も出来なかった。





 ついに雲行き怪しくなってきました!?

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