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誤解から生まれた真実 7

「そういえば……先輩のそういう話って聞いたことがない……」

 ひとしきり話した後、後輩がぽつりと言った。
 そりゃあそうだろう、話をしたことがないんだから。

「聞きたいです。先輩のそういう話」

「ああ、また今度な」

 適当に言う。

「酷いですね、先輩」

 放っておくとこのまま店で寝てしまいかねない後輩の様子を見て、オレは席を立ちあがった。

「先に支払いしてくる。お前はちょっと水でも飲んでろ」

 そう言い残すと会計に向かった。
 全く、いい年して酔いつぶれるなんて困ったやつだ。
 会計を済ませて席に戻る途中不意に他のテーブルが見えた。それに目を奪われていて横から人が出て来るのを見ていなかった。
 肩がぶつかり、あっと振り返る。
 黒っぽいスーツを着たその男もまた振り返った。

「光稀……?」

 聞き覚えのある声。オレのことを名前で呼ぶのは今のところ親とあいつしかいない。
 ドキッとしてその男を見た。そんな必要はないのに、悪いことをした気分だ。

「こんなところで会うなんて珍しいですね、誰と来ているんです?」

「別に……誰だっていいじゃないか」

 男の向こうに見える後輩のことをチラチラと気にしながら言った。
 こんなところ後輩には見せたくない。

「まさか、俺以外の男とか?」

 視線の先を探るように背後を窺おうとする。
 通路は狭くて大人1人が通れる程度だから、無視して追い越して行くわけにもいかない。

「だとしたら、何か問題でもある?」

 オレの挑戦的な言葉に男の表情が一瞬変わった。
 別に恋人だったわけでもないし、終わらそうと思えばいつでも終わらせることができた。そうしなかったのは単に利害が一致していたから……。それだけのはずだ。

「待たせてるから、ごめん」

 イライラする。
 どうしようもない自分に対しての苛立ちだ。
 もう、話なんかないだろう。これで終わりにすればいい。

「待ってよ、何怒ってるんだ?」

「別に……」

 言い当てられて閉口する。
 来い、と腕をつかまれて無理矢理店から連れ出され、しばらく歩いた先の見知らぬ路地裏に入ったところでようやく男が腕を放した。
 途中いろいろ文句を言ったものの全く意に介した様子もなく無視された。それどころじゃないって事なのか……?

「光稀、俺たち今まで上手くやってきたじゃないか」

「……」

「どうしたっていうんだよ?」

「……」

 答えようとしないオレに手を伸ばしてくる。それを許してしまうと心が揺れそうになるのが怖くて、触れるか触れないかのところでその手を払いのけた。

「そういうの、もう嫌なんだよ」

 そう言ってから大きく息をついた。
 男は黙ってオレのことを見ていた。

「だから、もう終わりにしようよ。ああ、最初から付き合ってもいなかったかな」

 自嘲気味に笑った。
 そして、言ってから自己嫌悪に陥る自分がいる。
 それは、目の前の男がやたら悲しい顔をしたからだ。
 もう、早くその場から立ち去りたい。


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